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14年目の永遠の誓い  作者: 真矢すみれ
番外編2 料理修行
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料理修行4

「ハール、雑炊、作ってきたよ」

 結婚式の翌朝。

 前日のコップ一杯のワインのせいか、結婚式で疲れたせいか今ひとつ調子の良くないハルは、起きられずにベッドの住人だった。

 オレが作ったのは、鶏のササミと梅干し入りのサッパリした雑炊。

 あっさりした昆布出汁。浅葱の緑で、色合いも美しく仕上がっている。

「……ん。ありがとう」

 少しなら食べられそうって言うから用意したけど、どうだろう?

 大きめの土鍋から取り分けて、オレも同じ物を食べる予定。

「少なめにつけるから、食べられそうだったら、おかわりしてね」

「ん」

 お椀にハルの分をよそって渡す……前に、手を止めた。

 オレからお椀を受け取ろうとしていたハルが、不思議そうに小首を傾げた。

「ねえ、ハル、食べさせてあげようか?」

 お椀を手元に戻して、木製のスプーンで雑炊をすくう。

「え? いいよ。自分で食べるよ」

 ハルは予想通り遠慮する。

 けど、一回やってみたかったんだ。

 ふうっと、スプーンの上の雑炊に息を吹きかけ、冷ます。

 それから……


 はい、あーん、と言いたいところだけど、さすがにそれは嫌がるだろうと、ただ笑顔で差し出した。

「はい」

 ハルが何故か虚を突かれたように動作を止め、それからオレの方を見た。

 オレは何もなかったように、「どうした?」なんて、とぼけてみる。

 数秒後、普段なら、照れて絶対に口を開けないハルが小さな口を開けたので、オレは驚きつつもいそいそとハルの口に雑炊を運んだ。

「……ありがとう。美味しい」

 何故か、ハルの目には涙が浮かんでた。

「熱かった!? 大丈夫?」

「……ううん。ちょうど良かった、よ」

 そう言いながらも、ぽろりとハルの目からは涙がこぼれ落ちる。

「ハル!?」

 オレは慌てて、用意してあったおしぼりでハルの涙を拭う。

「……ご、めん。なんでもないの」

「何でもなく、ないよね?」

 オレとハルの間で遠慮は禁物。

 隠し事も禁止だ。

「あの、……違うの。ただ……」

 オレは急かさないように、意識してゆっくり言葉を返す。

「うん」

「……ただ、ね。……幸せ、……だな、って」

 ハルが目を潤ませたまま、照れたように優しくほほ笑みそうささやく。

 そして、にこっととろけそうな笑顔を見せてくれたハルの目から、再び涙がこぼれ落ちた。

 え、それ、まさか……うれし涙!?

 そんなハルを見て、オレが冷静でいられる訳もなく、

「ハルっ!!」

 速攻、お椀をサイドテーブルに置いて、ハルを抱きしめたとしても仕方ないと思う。

 勢いが良すぎて、お椀から雑炊がこぼれたとしても、……仕方ないよな?

「カナ……いつも、本当に、ありがとうね」

「や、ハル、それ、オレの台詞だから!」

 本当にそう。

 結婚したいってのも、一緒に暮したいってのも、言ってしまえば、全部、オレのわがままだった。ハルは全部、オレの望みを叶えてくれた。

 ハルを抱きしめ、ハルの髪に手をやり、ハルの頬をなでる。

 ハルの額に口づけ、頬を寄せ、そっとキスをし、……そのままハルの唇に……。

「カ、……カナ!?」

 ハルが慌てたように、オレの身体を押し返して来た。

「……あ、ごめん」

 つい、我を忘れて。

 けど、良かった。ハル、顔色が良くなってる。

「ハル……オレも、ホント幸せだよ」

 ハルを再度そっと抱きしめて、そうささやく。

「さ、ご飯食べようか?」

 オレは気を取り直して、一口食べさせただけのお椀に目をやり、雑炊が溢れてこぼれているのに気付き……それは見なかったことにして、瞬時にオレの分のお椀に雑炊をよそってハルに差し出す。

「きっと、ちょうど良い具合に冷めた頃だと思うよ」

 オレの言葉を聞いて、ハルはくすくすと楽しそうに笑った。


 窓から見えるのは、木漏れ日がきらめく緑の木々と青い空。

 夏の日差しは強いけど、エアコンを入れなくても、窓を開けるだけで十分に涼しい風が通る避暑地の別荘。

 ハルのために覚えた料理も、今日からは弁当に限らずいつでも食べさせる事ができる。

 きっと、沙代さんが毎食は譲ってくれないだろうけど。だけど、一緒に作るのなら、許してくれるんじゃないかな?

 オレの実家じゃなく、ハルの……オレたちの新居のキッチンでハルのために料理をする。そんな光景がふと脳裏に浮かび、オレは思わず笑みをもらした。

 そんな穏やかな毎日が、永遠に続く事を願いながら。


 《 完 》

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