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ChAiN soul Girl  作者: 甘味 亜月
おじさんと女の人と赤いハンマー
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説明不足にも程があるよね

「いや、だから……えっ?」

 三年間殴り続ける? いや……えっ?

「えっ? じゃないよ君。だーかーらーもー、今日はあのおっさんの未練と昇天させるための儀式が一緒だったからあれで終わりだったけど、本当はあのハンマーで幽霊をぶん殴ることが儀式なんだからね? 未練と儀式はまた別よ?」

「えっ、いやちょっと理解が追いつかないというか……」

 私は頭の中をぐるぐると巡らせる。……が駄目だやっぱり追いつかない。

「というか儀式って何ですか? また何か新しいワードが聞こえたような気がしたんですけど」

「だーかーらー……てそっか。儀式についても説明してなかったのか。いやーっ、わりぃわりぃそれじゃわかんねぇわな」

 なぁーっ。と女の人が唸りを上げる。

「んじゃ取り敢えず、霊を昇天させるためにはその幽霊の未練を叶えなきゃ行けない。てのは分かったよな?」

「ええ、わかりましたけど」

 だよなだよな。と女の人が頷く。

「けど未練を叶えただけで昇天できる訳じゃないんだわ。ほら死んですぐ死界への門に行く人は未練が叶え終わった状態で埋葬なりなんなりされるわけだろ?」

「そー……なんですかねぇ?」

「そうだよ。てか、そういうことにしておいて」

 強引だなぁ。というか知らないことに同意を求められても困るんだけども。

「それでそういう人はその時点で完全に死んでいるんだけど……。一読彷徨った霊は肉体は死んでるんだけど正確には死んでないんだ。わかるかな?」

「????」

「身体は死んだけど、中身はこっちに死界に来てないだろ?」

「確かにそうですね」

「だろ? そんでその2つの違いが何かっていうと簡単な話。最終的に霊体が死んでいるか死んでいないかの違いなんだ。未練なく死ねば霊体は残らないし、未練を残して死ねば霊体が残る。オーライ?」

「……はぁ」

「だから未練なく死んだ霊体が、ここに来る前に未練を叶えてから死んでいるのと同じように、未練を持っていた幽霊が未練を叶えたあとにな、もう一度死んでもらう必要があるんだ。これが幽霊がこっちに来るための儀式であり、さっきからいってる全力でぶん殴れっていうとこに繋がるんだよね」

 私は頭の中がごっちゃごちゃになる。

「うーん……わかったようなわからないような……」

「……まぁこれは理解しちまえば簡単なんだけど、わかんねぇうちは考えれば考えるほど訳わかんなくなるからな。しゃーないしゃーない」

 というわけで。と女の人が私の足元のハンマーを拾った。

「まぁ、君がこのハンマーでぶん殴ることによって、幽霊が昇天できるってことだけ覚えてくれてればいいよ。オーケイ?」

「りょ、了解しました?」

「それでいいよ。……んじゃ教えることも無くなっちゃったし……そろそろあっちに戻ろっか君」 

 くるーん。と女の人がターンして、さっき入ってきた部屋への扉へと向かう。その姿はさっきおじさんが昇天したことなんてまるで何ともない様子で、ぶんぶんとハンマーを振り回していた。

 私は、さっきまでおじさんがいたところをふと眺める。

「……私があの世に送ったんだよね」

 確かに、死んだあとはあの世に向かうことが幸せなんだってことは、おじさんの様子から凄く伝わってきた。……けど、今まで16年間、人の死だったり死後の世界なんてものとは縁もゆかりもないところで過ごしてきた私には何もかもがショック過ぎた。……ちょっとまだ気持ちの整理がつかないよね。

 だけど……受け入れるしかないみたいだし、それが誰かのためになるんだったら……大変かもしれないけど頑張らないといけないよね。

 私は、おじさんがいたところから、女の人がいる方向に視線を上げた。

 けどまぁ……ほら、なんていうかあれだ。その事はいいとしてこの……女の人に関しては凄く適当な人だということははっきりとわかったよね。聞けば聞くほど新しいワードが飛び出てくるわけで……多分だけどまだまだ私が知らないといけないのに知らないことだってあるんだろう……ホント説明不足にも程があるよね?

 というか、何だろ。聞きたかったことを、何か大事なことを聞きそびれてるような気がするんだけど……。

「……あ、そういえばなんですけど」

「ん? どしたん?」

 女の人が私の方を振り向く。

「結局あの……そのハンマーの赤いとこは何なんですか?」

「んん? あー、この赤いところな」

 うーん。と女の人はひとしきり考えたあと、ハンマーのヘッドをくるっと上に向ける。

「君さ。儀式に使う道具がそこら辺で買えるようなものだと思う?」

「……といいますと?」

「ちょっと前置きになるんだけど、儀式に使う道具ってのはその特性上な。どうしても霊に近いものを使わないといけないんだよ。そこら辺の道具じゃ、ものによっちゃあ霊に触れることすら出来ねぇんだわ」

「うーん?」

 また知らない話かっ。

「例えばだけど、たまたま君に霊をこっちに持ってこれる才能があるってだけで、みんながみんなそう出来るわけじゃないだろ?」

「そう……らしいですね?」

「それと一緒で道具にも才能を持っているものと持っていないものがあってね。才能をもつ道具を見つけるのもなかなか一苦労なんだわ」

「そうなんですね」

 道具にも才能の有無があるのか。

「それで、そこまで話したところで、ようやくなんでこのハンマーのヘッドが赤いんですか? て話になるわけだ」

「そうです! そこが聞きたいんです!」

 仕方ないなぁ。と女の人がガムを吐き出してから話しだした。

「霊をこっちに持ってくる才能を持っているかどうかを判断する手段ってのはさっき教えたよな?」

「えぇっと、一回死んだ時でしたっけ?」

「そうそうそう。死んだ時に初めて才能を持っているかどうかがわかるわけだ。そんで道具はどうやって判断するかっつーと……人と逆なんだよね」

「……つまり?」

 女の人が苦笑いを浮かべる。

「その道具を使って人を殺した時に、初めてその道具が才能を持っているかどうかがわかるんだわ」

「……ひぇっ」

「まぁ、お察しの通りあれだよね。この道具によって人が殺されてるんだよねぇ」

 くるんくるんとハンマーを回しながらケロッとした様子で女の人はそう答えた。

「つまーり、この赤い部分は人を殴りつけた時に飛び散った血なのだっ! まぁまぁ、一言で言うと曰くつきの一品だよね」

「……私、そんなものを使ってたんですね」

「まぁなぁ……あ、大丈夫大丈夫!! 一応消毒はしてるから清潔だよ?」

「そういう問題じゃないですよね!? 消毒の有無は今重要じゃないですよね!?」

 それに……そんなものを使うなんて……うーん。

 私に対して女の人は「ま、そう思うわな」と一言言ったあと、再びハンマーをくるっと回し、部屋の入り口へと歩き出した。

「ま、そういうこった。確かにこのハンマーで人は死んでる。けど、そのお陰で救われる霊もいるってことだ。君は気にせず霊を救ってくれればいいんだ。オーライ?」

「そう……ですかね?」

「そうだそうだ。深くかんがえんな。それに殺された霊は今こっちで楽しく生きてるよ」 

「な、ならいいんですかね?」

「いーよいーよ。そんじゃそろそろ……今度こそもといた所に戻ろっか。あんまこっちに長時間いるのも、色々とよろしくないし」

 あ、ついに……元いたところに帰れるんだ。

 ふいっとこっちを向いた女の人から、ほいっとハンマーが渡される。

 ……さっきの話聞いてからはちょっと持ちたくないかな?

 そんな私の気持ちなんて知るわけもないし、知るつもりもない女の人は、「んじゃ着いてきて」と一言だけ言って扉の方へと進んでいった。

 私もハンマーを極力触らないように持ちながら、女の人の後ろを歩いて行った。

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