ボーナスステージ突入おめでとうってわけだ!
よみがえり?
「よみがえりというと……黄泉から帰るの黄泉帰りですか? こう死んだあとに生き返る的な」
「そう。その黄泉帰りだ。死んだはずの人間が生き返る……本当は駄目なんだぜ? 人の生死は産まれる前から決まってるんだ。それを変更するなんて……冒涜にも程がある!」
ぐぅ。と女の人が両手の拳に力を入れる。
「だが、その才能は黄泉帰りをしなきゃ使えない! 言い換えれば黄泉では無く人間界だからこそ意味のある才能な訳だ!」
「はぁ……そうなんですか」
「そうだ! そうです! そうなんです! ていうかなんで? なんで君そんなテンション上がんないの!? えぇっ!?」
「えぇっ!? そんなこと言われても……何がなんだか」
かぁぁーっ! と言いながら女の人が勢い良く自分の髪を掻く。
「あぁもう! 察しが悪ぃなおい! つまりテメェは才能の持ち主なんで見事ボーナスステージ突入おめでとうってわけだ! オーライ?」
「へぇっ!? どういうことですか!?」
「ほんっっと鈍いんだな……君は才能の持ち主で、もしその才能を活かしてくれるってんなら、黄泉帰りをさしてやるって言ってんの。ていうかこちらとしては黄泉帰ってくださいお願いしますってこと。いい?」
「つまり……私は生き返られるんですか?」
「そういうこった。君は人間界にリターンバックだ」
「お、おお。おぉーっ! やっと実感が湧きました! テンション上がりますね!」
「だろっ? テンション上がりまくりだろ?」
「はいっ! やったーぁっ! 生き返られるんだぁ……」
「おー、ということで才能を活かしてくれるということで良いんだね?」
「はい! 勿論です! 生き返らしてくれるなら何でもします!」
「ならよろしい」
にぃっ。と女の人が笑ってこちらを見つめる。
良かった……。本当に良かった。てか、あんな恋人がいちゃつくところで死んでられるかっての本当。
「あ、ところでなんですけど」
「ん? どうしたん?」
「そのぉ……さっきから言ってる才能ってのはどんな才能なんでしょうか?」
「あ、そういえば言ってなかったっけか?」
「聞いてないですよ。あれだけ喜しましたけど……そのー……禁忌? を冒してでも欲しい才能ってどんな才能なんですか?」
「まぁ、一言で言うとあれだあれ」
女の人が、ダラン。と手首を垂らす。
「?」
「うらめしや〜っ。てのは日本人だっけ?」
「ええ、そうですけど」
「ならよかったや。間違ってたらどうしようかと思ったからさーっ」
そのポーズのままぐっと私の方に女の人が近づく。
「あなたの才能は浮遊霊とか地縛霊とかをこっちに持ってこられる才能です。つまり幽霊を見つけて助けて、こちらに連れてきてもらいます」
「……私がこっちに幽霊を持ってくる」
「うん。その辺うろついてる霊をこっちに持ってくる手伝いをしてほしいんだよねぇ」
「……」
「あーもう、そんな露骨に落ち込まないの。てかもう身体動くんだね君。頭をそんな抱え込まない。いいじゃん。幽霊をこっちに連れてくるだけで生き返られるんだぜ?」
「……だって幽霊ですよね?」
「うん、まぁ人間界で死んでるわな」
「……」
「凄いね。君すっごい身体柔らかいのね。ていうか頭ってそんなに抱え込めるもんなの? 君もしかしてビックリ人間?」
「幽霊をこっちに連れてくる? とんでもない! 連れてくるってことは幽霊に会うってことですよね? 無理ですって! 幽霊とか怖くて私死んじゃいますって!」
「もう死んでるようなもんだから大丈夫だろ。ていうか死んでるとは言っても、今の君と変わんねぇよ。君らが想像している幽霊はあくまで空想のもんだ。実際は人も幽霊も姿は変わんねぇ」
「本当ですか?」
「ホントホント。まぁパーツが欠けてないとは言ってないけどな」
「……うへぇ」
「露骨に落ち込まない。そういう幽霊、もとい地縛霊もいるんだけど……それは、また別件だからな。大抵の幽霊は君らと変わらない普通の姿だ。下手したら、ぱっと見は幽霊かどうかわからない程にな」
「……そうなんですかぁ」
「本当。本当。現に今の君だって無傷だろ? 自転車で派手に転けたんならあちらこちら擦りむいてたり、下手すればどっかがぱっかーんとなってたっておかしくないのにさ」
確かにそうだ。あんだけ豪快に宙を待ったはずなのにどうやら私の身体は無傷らしい。見当たるところに傷は無いし、多少気怠さのような重たさは残るものの打撲のような症状もない。
ずっと寝転がりぱなしだった私はすくっとソファに座り直す。
「なら……安心したような?」
「だろ? 言葉は難しいかもしれないけど、言い換えれば困っている人を助けるのと一緒さ。あの世に行きたい気持ちはあるけれど未練があるしまだ行きたくない……。て人の未練を叶えてあげるのが君のお仕事な訳。我々は居てはいけないものをこっちに連れてこられるし、霊達は自分の未練を叶えて無事こっちに来れる。両方ともwin-winなんだよ」
それに。と女の人が言葉を続ける。
「君は霊をこっちに連れてくる仕事をしてもらう代わりに命を得ることが出来るんだ。どうだ? みんなハッピーじゃないか」
なるほど。正直まだよくわかってないけどなんかハッピーな気がしてきたよ!
「なら、よし。それじゃこの契約書にサインしてくれるかな?」
そう言って女の人は、私の目の前にあった応接机に和紙で出来た書類を差し出す。
「……なんか分厚いですね。広辞苑ぐらいあるかも」
「まぁな……色々と細かい決まりがあるから仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど……まぁ大抵は気にしなくていいもんだし、要約したやつは契約書の下にある契約書類の一番最初のとこに書いてるから、そこだけ読んでくれればいいよ」
私は表紙を一枚めくり、要約へと目を落とした。
『一、霊の未練を果たし、天界へと霊を送り出す繋魂使となること』
『二、繋魂使である旨を繋天使でないものに伝えないこと』
『三、霊は極力同意の上で天界へと送ることが原則であるが、やむを得ない場合は専門の繋魂使へ依頼しその都度対処して貰うこと』
『四、繋魂使としての任期は原則三年間であり、繋魂使としての任期を終えたあとは自由であることをこの書類をもって誓約するものとする』
『五、もし契約に従わなかった場合には原則、存在を抹消するものとする』
「以上……ですか?」
「ああ、そんだけだそんだけ。つまり自分の立場をバラさずに天界に霊を連れてく仕事を三年間してくれれば後は自由の身ですよーって事だ」
「なるほど」
「まぁ詳しいことは……先輩の繋天使が教えてくれるからそいつに聞いてくれ」
ということで。と私の目の前に万年筆が置かれる。
「僕と契約して魔法少女に」
「それはよくない」
そして促された私は自分の名前を記帳した。
「よし、そんじゃあこれで契約は終わりだな」
いやー、ひと仕事終わったーっ!! と女の人が思いっきり背伸びをする。なんていうか心底嬉しそうな笑顔でノビノビとしていた。
けど本当良かった。まさか恋人の聖地で一人で死ぬなんていうことだけは避けたかったからなぁ……幽霊は怖いけどその代わりに生き返られるんだ。なんて読むのかはわかんなかったけど、なんとか使として頑張らなくちゃね!
「そんじゃあ今からさ、仕事をしてもらう上で必要な知識とか方法とかを教えるから、隣の部屋に移動してくれるかな?」
「わかりましたーっ!!」
私は、勢い良くソファから立ち上がる。何はともあれ生き返られるんならラッキーだよね! なんか大変そうだけど頑張らないと。
ついでに私は、自分の腕をつねってみる。凄く痛い。やっぱここは夢じゃないらしい。
そういうことでちょっと涙目になっている私に、あ、そういえば。と女の人が声をかけた。
「あ、そだ。ついでにソファの横にあるハンマーも持ってきてくれるかな? それ結構大事なものだからさ」
あ、大事なものだったんだあれ。と私はソファの横にあったハンマーを手に取り「ん?」と小さな違和感に気づいた。
「あのー、すいません」
「あ? どしたん」
「なんていうかあのー……この叩く部分? がやけに赤く染まってるのはなんです? それも結構不自然な感じで」
木製ハンマーのヘッドの部分がこれでもかというほどに赤黒い色に染まっている。その赤黒は柄の部分にももところどころ飛んでおり……これどうみても……血だよね?
「……」
「……えっ?」
「……まぁこっち来い。こっち来てから教えるからさ」
「えっ? えっ?」
「ほら、こっちの部屋だ。もう契約はしたんだからな? 後戻りはさせねぇぞ?」
「は、はい」
さっきまでとは打って変わって、緊張感を醸し出している女の人はそう言ってニヤリと笑った。
……なんだろう、すごく嫌な予感しかしない。
そういって隣の部屋に進んだところで、私の記憶は遡り終わった。