戦闘②
衝撃がさっきよりも後側の方から走る。部屋の壁がガラガラと崩れていく。
「もう! どこに一体いるんですか!! 早く死んでくださいよ!!」
(死ねって言われて、安々と死ぬわけないでしょうっ!)
さっきから棟葉さんが、衝撃を撃っているペースを考えると……恐らく直ぐに撃てるわけじゃない。感覚からして、一分くらいは少なくともラグがある。それなら、その間に動けばいい!
私は立ち上がりわざと足音を立て歩く。
「っ! そこですか!」
しかし棟葉さんは直ぐには衝撃を放たない。どうやらラグがあることは間違いないらしい。それなら……やることは決まった!
「っ!!」
私は血付きハンマーを棟葉さんの部屋へと投げ入れる。ガンッ! という鈍い部屋が棟葉さんの部屋の中で響いた。
「そこですか!!」
棟葉さんが衝撃を放つ。大きな揺れのあと棟葉さんの部屋の中から廊下へと、押し込まれた白煙が吹き返す様子が見えた。
「もう……何をするつもりかしらないですけど逃しませんよ……」
ペタッペタッという棟葉さんの足音が部屋へと向かって歩いていく。
そしてドアの外側でピタッと止まった。
「今度こそ……これで最後ですよ」
空気が円を描く。そして、
「……撃って」
激しい衝撃が再度棟葉さんの部屋の中を走る。そして……。
「……行く!」
私は棟葉さんの部屋へと駆ける。
「そっちじゃないよ!」
「っ!? 何で後ろに!?」
棟葉さんが勢いよく振り返る。私は走る勢いを全てハンマーへと乗せ、驚いた表情をした棟葉さんめがけ、
「これでがら空きだバーカ!」
全力で振り下ろした。
「っぐぁ!!」
ジャストミート。棟葉さんの脇腹を叩きつける。棟葉さんは勢いのまま、階段の下へと転がっていった。が、
「……かはっ! ……後ろからは汚いですよ」
「……やっぱりまだ生きてるんですかっ」
棟葉さんは階段の下から私の方を睨みつける。しかし、すぐさま動いてこようとしないあたり、ダメージは食らわしたはず。衝撃を打つ間があることと相まって若干ではあるが、時間が出来る!
私は棟葉さんの部屋へと駆け込む。そして手探りで血付きハンマーを回収し、崩れかけた壁の前へと立った。
「……やる!」
私は両手にもったハンマーを振りかぶる。そして、
「えぃっ!」
全力で壁を叩きつけた。グラァッという衝撃が足元まで伝わる。ハンマーの衝撃で部屋全体が震えているのがわかった。そして僅かだか空気の流れが変わった気がする。
「……これならいけるかも!」
私は何度も何度も部屋の壁を叩き続けた。右から左から、上から下から。ひたすらがむしゃらに。
「……こんだけやれば十分でしょ」
無数にヒビの入った壁。骨材は歪み、断熱材はほとんどさっきの衝撃で破壊されている。もう少し壊そうか。と考えていると、
「何してんですかぁ!? えぇ!?」
後ろから聞こえる棟葉さんの怒号が聞こえた。そして空気を円形に集め、
「死ね!」
私の方向目がけ、衝撃を放つ。
「それを待ってたんですよ!」
私は二つのハンマーを縦にしながら、横の方へと飛ぶ。間一髪衝撃はハンマーを掠めながら壁へと直撃した。すると、
「……!? 部屋の煙が!」
部屋の空気が勢いを持ち部屋の外へと掻き出されていく。それに乗って煙も外へと飛び出していった。
「……大成功!!」
何度も衝撃を受けた壁はかなり脆くなっていた。そこを徹底的に、かつ集中的に叩けばどうなるか? そして集中的にもろくなった場所に更に強い衝撃を加えればどうなるか? 答えは簡単である。
部屋の壁がなくなった。衝撃で外へと吹き飛ばされたのだ。
「これで……煙なんか関係ないですよね」
どんよりした雲の上から降る夕焼けが、部屋の中をぼんやりと照らす。私は棟葉さんの前へと対峙した。
「もう逃げも隠れもしませんし、させませんよ?」
私はハンマーを手元に構える。
「そういうなら……遠慮なく」
棟葉さんが再び腕をこちらにむける……がまだ衝撃は来ない。私はその隙に、
「もういっちょ!」
棟葉さんへと飛びかかる。棟葉さんは今全身ががら空き……倒せるはず! 私は全身に力を込め棟葉さんに飛びかかる。
と、その瞬間だった。
「っ痛……っ!?」
腹部に強い衝撃が走る。私は姿勢を崩し、後方へとすっ飛ばされた。背中から壁に激しく打ち付けられる。その衝撃で軽い脳震盪になったらしく、酷く頭の中がグラグラと揺れた。
「あぁっ……! かはっ……! はぁっはぁっ」
うつ伏せに床へと倒れ込み、一瞬遅れてから全身を痛みが襲う。頭が背中が、腹が胸が。全身がくまなく痛むのだ。私は少しでも楽になればと何とか呼吸を整える。
「……何が……あったんですか?」
私は、ぼやける視線を上へと上げる。が、そこに棟葉さんの姿はなかった。
「……?」
何が何やらわからない。……何があった? まだ棟葉さんが衝撃を放つには時間があったはずだ……。どういうこと? そもそもラグなんてなかったのか?
と、そこまで考えたところで、背中に強い痛みが走った。
「っ!!」
背中が焼けるように痛む。しかしそれは衝撃を感じたような痛みでは決してない。例えるなら……何か身体を抉りとられているような、そんな痛み。
「……っ!! っ!!」
あまりの痛みに意識が飛びそうになる。もしかしたらもう痛みに任せて気絶しちゃった方が楽なんじゃないか? そんな考えさえ浮かんでしまう。
だが、私は必死に声を絞りだす。
「はぁはぁ……棟葉さん……? 一体何を……したんですか?」
「……」
問いかけに反応はない。が、一つだけ棟葉さんについて気づいたことがある。
夕焼けに照らされた室内の壁に映っている影に人の姿がないということに。
そして、人の姿がいない代わりに今までに見たことのないような形の影が、壁へと映しだされていることに。




