出廷
「え!? ちょ……ええっ!?」
私はドアへと駆け寄る。
「ちょ……ちょええっ!?」
開かない。いくらドアノブを回しても一向に開く気配がないのだ。建付けが悪い。とか何か重たいものを置かれている。という感じではない。ただただドアが固いのだ。
「ちょちょちょっと! ねぇ棟葉さん!? ちょ開けてくださいよ!?」
「ちょ、焦りすぎwwwwwww」
「笑ってる場合ですか!? そりゃあんなの聞いてからこんなドンピシャで焦らないわけがないでしょ!?」
「まぁまぁまぁ……いいから落ち着きなって」
「いや、だって……開けてっ!? 開けてよ棟葉さん!?」
「そんなドア叩いて、開けてくれるなら最初から閉じないでしょうが……あーもう、落ち着けっ! えいっ!」
「うっ!?」
乃子さんの右拳がすごいスピードで私の脇腹へとめり込む。私は痛みのあまり倒れ悶えた。
「あちゃー……思ったより綺麗に入ったね」
「おお……痛っ……な、何するんですか」
「だから……もう、落ち着けって言ってんじゃん。さっきも心の準備のために話しますって言ったじゃんか。ったく……パニックになって焦ったところで何にも解決はしないんだからさ。いい? 今は落ち着け? 津池さんが落ち着くことが今は最善の手なんだよ?」
「は、はぁ」
「落ち着かせるために説明したったのに、それで焦っちゃ本末転倒でしょ? ほら深呼吸深呼吸」
私は速くなっている鼓動を抑えるために荒くなっている息を少しずつ落ち着かせていった。吐いて吸って。吐いて吸って。
「……すみません」
「いや、落ち着いたんならいいよ。動揺するなっていうほうが難しかっただろうし……うん、殴ったのは悪かった」
ごめんっ。と両手を合わせて乃子さんが謝る。
「……つーわけで、こうなると緊急事態なんで……これからの対策を伝えるよ? 最悪のパターンと最良のパターン二つ言っておこうかな」
「……おねがいします」
「んじゃ、まず最良パターン」
乃子さんがバッグの中から日記を取り出す。
「これを目の前で焼いて終わりの巻!」
「……手っ取り早いですね」
「うん。最初の目的を達成して、昇天させてめでたしめでたしやね。これが理想だし一番」
そして。と乃子さんは続ける。
「次が最悪のパティーン」
「……最悪」
「そ。……この感じだと確実にこっちなんだけどぅ」
すっと腕で首を切る仕草をし、そのまま親指を床へと向ける。
「幽霊退治の始まりだね」
「……退治ですか?」
「そ。……私もできれば避けたいんだけど……どうやら無理みたい」
そういって乃子さんが見る先には、
「ドアの隙間から煙が入ってきちゃってるねぇ」
ドアの下側から白い煙が入ってきていた。
「えっ!? 何!? 火事!?」
「どーなら……話し合う気は無いみたいね……もしかしてだけどさっきまでの会話聞こえちゃってた?」
「……全部聞いてましたよ」
「あちゃー」
「……そ、その声は」
ドアの向こうから聞こえる低く這うような声。その声にさっきまでの雰囲気はなかった。
「棟葉……さん?」
「……」
ドア越しでも感じる異常な殺気。……私は生まれて初めて感じる感覚に、腰が抜けそうになる。
「……日記を燃やしても許してくれにゃい?」
「……そもそもそんな日記に用はないんです」
「まじかよー探した時間返せよー」
ブーブーと乃子さんが気怠そうに文句を言う。
「いや、そんな文句言ってる場合ですか!? ちょ棟葉さん! ここ開けてくださいよ!? 私達死んじゃいますって!」
私は力一杯ドアを叩きつける。がやはり微動だにしてくれない。
そんな私の必死な様子を嘲笑う声が、ドアの向こうから聞こえてきた。
「ははははっ……だって貴方達元々死んでるんでしょ? だったらいいじゃないですか」
「そんな!」
「だってそうでしょう?……なんで貴方達だけ生き返られるんですか。なんで私が報われないで、貴方達だけ能のうと生きてるんですか? えぇ?」
ドアの向こうから聞こえる声には顔を見ないでもわかる怒りや恨みの感情が聞こえてきた。
それを聞いた乃子さんが大きく舌打ちをする。
「あーもう……なんだよくそっ! 恨みの矛先は私達かよ……とっくにこの世への未練はなかったのかい……」
「当たり前でしょ? そんな家族への恨みなんて、五年も経てばどうでも良くなりますよ。今の私には貴方達が憎いんです」
「私達が……憎い」
「そうですよ……たまたま運が良かったら。才能があったから貴方達は、死んでも生き返られて。私みたいな努力をした人間は何も報われずに死ぬだけで……ふざけないで下さいよ!」
ガンッ! とドアに強い衝撃が走る。
「ド、ドアに拳のあとが……!」
ただ驚き怯えることしか出来ない私と違い、さっきから気怠そうにしていた乃子さんが、首をぐるぐると回したあと眉間にシワを寄せた。
「あー……本格的に地縛霊になっちゃったねぇ……こうなるともう話し合いは無理みたい……まぁ最初から弥生ちゃんに話し合う気があったかはわからないけどさ」
さてさて。と乃子さんは指の関節を鳴らし、手首足首をプラプラと動かす。
「津池さん少し下がって」
「は、はい」
私は乃子さんに言われた通り数歩後ろへと下がった。
「……んじゃ津池さん。私が今からやること……っつーか言う事を真似して貰っていいかな?」
私はコクっと首を振る。
「これが今度教える。て言ってたことで……ホントはもっとゆっくり教えたかったんだけど……緊急事態だから仕方ない」
そう言いながら乃子さんは、足を肩幅に開きやや半身になりながら右手を胸の前へと差し出した。そしてゆっくりと息を吐き、
「しっかりと聞いといてよ」
もう一度思いっきり息を吸い込んでから掌を大きく開き、空気を切り裂くように叫んだ。
「出廷!!」




