捜索①
「それじゃ……どこから探そうか」
「どこから……ですかねぇ」
部屋を探すとなったものの……それじゃあどこを探すかとなると正直迷う。本棚とか机の中とかそういうところを探すのが一番ベターではあるのだが。
「まぁ……あらかた捜索されてるだろうねぇ?」
「そう思います」
棟葉さんの部屋の中は本当に綺麗だ。本は作者の名前通りに整理整頓して並べられ、勉強机の上には何一つ載っていないし落書きすらもない。もちろん細々したものは回収されたということも考えられるけど。
「あと目ぼしいところは……クローゼットと……」
乃子さんがベッドの下を覗き込む。
「ベッドの下なんだけど……見た感じは何もないね。埃しかねぇや」
ケホッケホッと二三、咳を払う。
「まぁ……そうなると、本棚の本の隙間とか、家具と壁の隙間とか……クローゼットの中とかとか、あちこちをしらみつぶしに探していくしかやっぱないみたいだし……はぁ、手分けしてぼちぼちやろかー」
「そー……ですね」
「んじゃとりあえず津池さんは……本棚周辺を頼むわ。私は机の中とかを荒らしてみるよ」
「荒らすのはやめましょうか?」
乃子さんが指定した通り、私は本棚の方へと。乃子さんは机の方へと移動した。
「さて……それじゃあ始めようか」
「はい」
とりあえず本棚の端から一冊手にとってみる。表紙を見た感じどうやら参考本のような感じで、中まで目を通してみると何やら難しいことが書かれてある。確か棟葉さんは当時私とほぼ同年代のはずだけど……この内容は到底私には理解できそうにない。
次の本は、参考本……ではなく学術書。次は論文。次は不思議の国のアリス……の和訳じゃないやつ。
「……すっげー真面目……ていうか私の部屋の中身とはあまりにも違いすぎて……」
「うん……机の中からもいろいろ出てきたよ」
乃子さんが書き殴られた紙を取り出した。
「これは論文、これはプリント。これは……よくわからない図面。……弥生ちゃんハンパねぇな」
まったくもって同感である。
「部屋の女の子カラーとあのゆるふわ感に騙されたわ。……羊の革を被った狼かよ」
「狼かはわからないですけど」
「とにかく……これだけきちっとした性格だし……日記もどこかに律儀に置いてあるとは思うんだけどねー」
棟葉さんの勤勉さを思い知った私達は、再度部屋の捜索を始めた。正直かたっ苦しい本ばかり眺めているのはつらいけど……日記を探すためだ。仕方がない。本棚の上の段から順々に取り出し片していく。
「これも参考本、これも参考本……これは論文……」
「ホント勉強の本だらけだねー」
「はい……半端じゃないです。そんでこれは……うわっ何語だこれ!?」
「んあ?」と乃子さんがこちらの方にトテトテと歩いてくる。
「なんかあった?」
「いや……なんか凄いのが出てきたんで」
「あぁー……見た感じロシア語かなぁ? 私もよく知らんけど」
「ロシア語……」
「読めないし書けないけど、たぶーんそうよねぇ。ドイツ語とはまた違うし……」
ペラペラと乃子さんが本のページを捲る。
「途中の絵みたいなのを見る限り……これも論文かぁ……よっぽどこの子勉強してたみたいねー」
「そうみたいです……って乃子さんもう机を探すの終わったんですか?」
「うん。一番上の段以外は空だったみたい。そんでデ○ノート方式でも探してみたんだけど」
「ああー、あの二重引き出しの」
「そそ。そもそも穴が無かったわ」
「……まぁ普通は日記でもそこまではしないでしょうね」
「それもそうだよね……というわけで私も本棚手伝うよ」
二人体制になり本棚を探していく。
「……また論文だ」
「……こっちもだねぇ」
と、そこからまたしばらく探し、本棚の二段目へと差し掛かるその時だった。
「あれ? この本、側と中身が違うぞ?」
乃子さんが何かを発見した。
「え? どの本ですか?」
「これこれ」
そういって乃子さんから本を渡される。
「表紙……つーかカバーは古典文学みたいですけど」
それは見た感じは……ここにきて慣れた至って普通の本だ。
「中身がなかなか……すっごいよ?」
「中身ですか?」
「そそ。見てみて?」
乃子さんに言われて私は本の表紙を捲ろうとすると。
「あれ? 開かないですよ?」
「そそ。それでなんじゃこれゃと思ってね」
「……確かに……なんですかねこれ」
「なんだろうねぇ……」
中にある本……だと思われるものは見た目も触り心地も本そのものなのだが、なぜだかまったく開かない。糊付けされている。という感じもなくぎっちりとくっついているような感じなのだ。
「…………インテリア?」
「じゃないでしょ。周りの本が既にインテリアになってるし……わざわざいらなくない?」
「それもそうですよね」
「……とりあえずそれは置いといて、続きを探そう。あんまり弥生ちゃんを待たせてもあれだし。あとで聞こう」
「それもそうですね」
といって続きを始めるが……。
「……これは本当に外と中身がバラバラ。これはカバーだけ。これは……中身が破られている」
「……急に不穏になってきたね?」
「そう……ですよね」
二段目に差し掛かってから急に本棚が荒れてきた。あれだけきっちりしていたらはずなのに中身がバラバラだったり破れていたりとお世辞にも綺麗とは言えない。
「……何だろう。あんましいい感じはしないよ?」
「……はい」
「……まぁいい。今は日記を探すのが先決だし……早く探そう。そんで雨が降る前に帰ろう」
「あ、そういえば天気悪いんでしたね」
「うん……それにやっぱりひっかかるんだ」
「ひっかかる……ですか?」
「あんましここに長居することは……もしかしたら不味いかもしれない」
「……え?」
「いや、これはあくまで私の勘なんだ。別にこれといった確証があるわけじゃないし、もしかしたら急にこんな感じになってるのを見て動揺してるだけかもしれない。ホント……うん」
「……」
今までになく真剣な表情で考える乃子さん。その表情は昨日のドッキリの時よりも暗く無表情で、何か考えを巡らせているようだった。
「……津池さん。クローゼットを開けてみない?」
「……今の雰囲気で言いますか?」
「いえす。……それとも先に全部の本を探してみるかい?」
「……乃子さんがそういうなら先にクローゼットを見ますよ」
「うん、そうさせて。それにもしかしたら……」
乃子さんの言葉が詰まる。
「……早く日記を見つけよう。ない時は全力で謝ろう」
「わ、わかりました」
本棚を探すことを途中で切り上げた私達はクローゼットの方へと向かった。




