いいじゃん! いいじゃん!
「おじゃましまーす」
「……しまーす」
「ああ、どうぞどうぞ。散らかってますけどまぁお気になさらず」
「いや……これは気にしないでっていうのが……」
「まー……難しいねぇ」
玄関……からは入れなかった私達は、倉庫で見つけた鍵を使い勝手口から家の中へと入ったのだが。
「これは……すごいね」
「……」
「まぁ……あんなことがあった現場なんで、しょうがないっちゃしょうがないんですけど」
部屋の中は見るも無残に荒らされていた。警察も一度捜査に入ったはずだと思うのだが、……今、目に写っているその光景は事件当時のまま。と言われてしっくりくる。それくらいに『酷い』のだ。
ベージュ色の壁紙は茶黒に染まり、キッチンに備え付けられていたテーブルは部屋の隅に投げ倒されている。天井にかかっていたであろう電気は床に落ちており、それを覆うように被さった埃だけが時間が過ぎているという事実を物語っていた。
「流石に細々したものは集められたみたいだけど……まぁ荒らされてるねぇ」
「……」
「津池さん、ダイジョブ?」
「大丈夫じゃあ……ないです」
「まぁ、でしょーね。ついさっきまでこういうこととは全く関わりがなかったわけだし」
「……はい」
ふーん。と乃子さんが部屋を見渡す。
「……んで? 棟葉さん。日記の場所にだいたいの目星は無いの?」
「そうですね……多分、私の部屋にあると思うんですが」
「多分? 自分で書いたのに覚えてないのかい?」
「すみません……なにせ暫く前ですから。どこに置いたかの記憶が曖昧なんです」
「なーるほどねー」
乃子さんが腕を後ろに組む。
「それじゃあ……とりあえず部屋に案内してもらって探すとして……津池さんはどうするよ? とりあえず家から出る?」
「……残ります」
「ホント? 気分悪くない?」
「……大丈夫です。ここでやらないとダメな気がするんで」
「そうねー……まぁそれなら、とりあえずは見学でいいから私の後ろをついておいで。気分が悪いときはいつでも言いよ?」
コクっと頷いた私は、棟葉さんについていく乃子さんに続いた。
正直、ここにいたいか。と言われれば居たくはない。この状況といい、さっき乃子さんから聞いた話といいあまりにも刺激が強すぎるのだ。こんなところテレビの中でか見ることはないと正直思っていたし。
けど繋魂使として活動していくためには……ここで出来なきゃ何もできない。そう感じるのだ。
考える間にリビングを通る。惨状はキッチンよりも酷かった。破れたソファから飛び出した綿は赤茶の液体で固められていて、床では埃とカビが混ざり合い鼻の中を不快な臭いが巡る。嫌いな臭いとかではなく本能が拒否する不快な臭い。身体全体がこの空間を拒否している。今私は死というものを全身で受け止めているのだろう。
少しでも気を和らげるためにと乃子さんの背中だけを見て進もうとする。が乃子さんの背中にもさっきの倉庫でこびりついた血が付いていた。私はまた少し気分が悪くなる。
そして廊下へと出て、染みがついた階段を登りきりひとつの部屋へとついた。
「ここです。ここがわたしの部屋です」
「ここねぇ……見た感じまぁ普通だね」
「そりゃ普通の女子高生でしたから」
「それもそうか。んじゃお邪魔しまーす」
乃子さんが部屋のドアを開く。そこの中は、
「おりょ? ここは結構綺麗じゃないの」
「まぁ……はい。リビングにみんないる時に襲われたんでですね、二階は荒らされてないと……」
「なーるほど。ほら津池さんも見て見て。ここなら大丈夫だと思うよ」
促された私は棟葉さんの部屋へと入る。そこには。
「……ホントだ」
「うん。すごい綺麗。うわっこれ懐かしー!」
部屋の中は至って普通の女の子の部屋だ。ベッドがあり勉強机があり、本棚があり。壁にはすこし前に流行ったアイドルグループのポスターが貼られている。違和感があるとすればカレンダーの日付が古いことくらいだ。
「なんか、恥ずかしいですね」
「もー、弥生ちゃんそんなこと言わなくていいよー! ここで女子会しよ女子会!」
「や、弥生ちゃんって」
「いいじゃんいいじゃん!……ていうか部屋の配色とか女子力高すぎでしょー! すげー! テンション上がるぅ!」
「ど、どうも?」
キャーキャー騒ぐ乃子さんと、たじろぐ棟葉さん。何というか何とも言えない光景だ。
「私もこれ見習わなきゃなぁ……っと」
よし。と乃子さんが息を吸う。
「もう少しこのきゃわいい空間を堪能したいけど……仕事に入ろうか」
「は、はい」
「んじゃ弥生ちゃんは一旦部屋から出てもらっていいかな? 流石に見られながらだと……やりづらいんでね?」
「そうなんですか?」
「そうそう。それに津池さん……もとい繋魂使にしか聞かれちゃいけない話もしたいからさ……ほら、君の日記と一緒で秘密さ秘密」
「そういうことなら……わかりましたけど」
「ありがとー弥生ちゃん! それじゃあぜっっったいに日記は読まないから安心してね! 私達が部屋を探してる間、家の中を堪能してて!」
「は、はぁ。それじゃあお茶とか……」
「いいよいいよ。多分傷んでるし!」
さぁさぁ。と乃子さんは棟葉さんを部屋の外へと押し出し、部屋のドアを閉じた。
「……さて津池さん」
「? どうしました? 急にそんな真面目な顔して」
「そりゃそうだ。年中私は真面目だよ」
それはないと思います。というのはそっと胸に秘めておく。
「なーんか引っかからない?」
「引っかかる? いや……特には」
私の回答をきいた乃子さんは少し怪訝な顔をする。
「何か……ありましたか?」
「いや、まぁ…、うん……ちょっとねぇ……」
「はぁ」
「……とりあえずはいいか。私達は仕事をするだけだし。んじゃとりあえず日記を探す作業に入ろう」
「あ、はい」
何やら引っかかる様子の乃子さんとともに部屋の中の捜索を始めた。




