津池さん、鋭いね!
「んじゃ自己紹介をお願いします」
「あ、はい。それじゃあ……」
床から出てきた女の人は二つ咳払いをして、
「私、『棟葉弥生』ていいます」
「はい、よろしくねーっ。ほら津池さんも挨拶」
「よ、よろしくお願いします」
ペコリ。と棟葉さんが頭を下げ、つられて私も頭を下げた。
「はいはい……っと。んじゃ、これで顔合わせはとりあえずオーケーっと。それじゃあ早速依頼に入ってこうかぁ」
「あの……すいません」
「ん? どうかしたのかな?」
棟葉さんがおずおずと手を上げる。
「あのー……まだそちらお二人のお名前を聞いてなくて……」
「あー、それもそうだねぇ……聞きたい?」
「えぇ。なんて呼べばいいのかわかんないので……」
「そうねぇ……別にチビと変なのでもいんだけどね?」
「ちょっと待ってください。変なのってなんですか? 変なのって?」
「私のチビにも突っ込んで欲しいかな」
そういうわけで、流石に初対面の人に……それに、知り合って二日目の乃子さんにそう言われるのも何だかあれなので私達二人は軽く自己紹介をした。
「へぇー、繋魂使? ていうのは死んだ人がなるんですね。てっきり天使みたいな? 感じかと思ってました」
「そそ。私もそうだと思ってたんだけど、実際はこんなもんらしいわー。正直、天使がいるかどうかもわかんないですしー」
「なるほどです。それで堂六さんがなってから3年目で……津池さんがなって1日目と」
「あ、はい。つい昨日なりました」
「……随分ホットですね」
「まぁ……はい」
「新入りも新入りだからね。今日はこの子は私の見学みたいな感じ。まぁ……依頼の内容を見る限り……」
乃子さんが暫く手帳に目を落とす。
「……うん。津池さんにも出来そうだ。つーわけで予定変更。二人で仕事やってみようか」
「わ、私もやるんですか!?」
「おん。まぁー……一人でやるより二人でやったほうがこれはいい感じだね」
「な、なるほど?」
「まま。見てるだけよりやるほうが早いし、そっちのほうが棟葉さんのためにもなるってもんさ」
んじゃ、さっそく。と乃子さんが棟葉さんの方を向く。
「さて、依頼人さん。あなたの未練を教えて貰えますか?」
「え? 既に連絡が行ってるんじゃないんですか?」
「うん。言ってるんだけど……その場で聞くっていうのが、昇天。つまり仏教用語の成仏に必要な条件なのさ」
「そうなんですね」
「そそ。何も聞かずに未練叶えて……まぁいろいろあってっていう事がむかーしむかしにあったらしいんだ。それでその場で聞くのが決まりになってるのさ。あ、それともひとつ。嘘ついたりしたら昇天は出来なくなるからね。気をつけて?」
「そういうことなら……わかりました」
棟葉さんが家の方を指差す。
「その……本当だったらお二人の力を借りるほどのことでもないかもしれないので……あまり胸を張っていえるわけではないのですけど」
棟葉さんが少し俯いて顔を赤らめる。
「……私の日記を探してほしいんです」
「日記を探す?」
「はい……ほんとこんなことで申し訳ないんですけど」
「いやいやいや。そういう願いを叶えてあげるのが私達のお仕事ですから。何も恥ずかしがることはないよ?」
「それなら助かります。……生前。と言えばいいんですかね。まだ私が生きているときに書いていたものなんですけど……まぁあれじゃないですか。人に日記を見られるのって恥ずかしいじゃないですか」
確かに。人に日記を見られていい気持ちはしない。
「むむ? 警察の人とかには押収されてないわけ?」
「多分……されてたら申し訳ないですけど」
「いやいやいや。そんときは……まぁ許してね? 私達も善処はするからさ?」
「……わかりました」
「と、いうわけで津池さん、わかった?」
「ええ。日記を探して……そのあとはどうするんですか?」
「あ、それもそうだ。津池さん鋭いね!」
そんなびっくりされても。
「日記は……そのまま読まないで捨ててもらえますか?」
「わかりました……ちらっとも駄目?」
「勿論です」
「りょーかいしました……気をつけてよ津池さん?」
「乃子さんの方が心配なんですけど?」
「それもそうだねー……というわけで棟葉さん、さっそく家の中に入ってもいいかな?」
「今のそのやり取りを聞いたあとだとちょっと嫌ですけど……はい、どうぞ」
私達は棟葉さんのあとに続き家の中へと入っていった。




