この街の治安が凄く心配になった
「指導係……ですか?」
「そう指導係。貴方の指導を任されている」
そう言って女の人は私の前へと歩く。
「繋魂使になったばかりの子に繋魂使のハウツーからノウハウまで教えんのが私の仕事って訳。繋魂使には残念ながら参考本も先生も無いからわけでさ、私みたいな繋魂使になって3年目の先輩が一年目の子に教えてあげるのが今までの伝統? みたいな感じなんだよね」
「は、はぁ」
「それで私が貴方の指導係だっていうのことを、あの金髪痴女からさっき伝えられて貴方に会いに来たっていう訳」
「な、なるほど」
そういうことか。たしかに繋魂使になれと言われたもののどうするのか。ということは具体的にはわからない。指導係っていうのは正直かなりありがたい。
「けど、だったら何でさっき私を追い掛け回したんです? それにやけにごっついチェーンソーなんか持って」
「あー、あれねぇ」
そう言って堂六さんはポリポリと頬をかく。
「いやー、なんていうかさー。ただほら出てきても面白くないじゃない? こう、先輩です! 指導係です! よろしくねっ! みたいなんじゃさ」
「は、はぁ」
「それよかさ、インパクトあるようなことしてみたいじゃん?」
「……まさか、それだけで追い掛け回したんです?」
「まぁね」
そう言ってエヘンと堂六さんは胸をはる。
「……」
「ん? どしたん?」
「いやーっ? 別になんともないです」
そんな理由で追い掛け回したのかこの野郎。と正直思ったがそれは胸にそっと秘めておくことにした。
「だって普通に出てきても第一印象あんまり良くないでしょ?」
普通にするより、明らかにさっきの方が悪いよね?
「んもーっ! なんか反応薄いなぁっ! あれ結構私考えたんだよー!? どうすればビックリするかなぁっとか、どんな感じでいったら楽しいかなぁっとか!」
「そうなんですか!? 楽しいかなぁであれになったんですか!?」
「そうだよーっ! だからこの前レンタルして見たホラー映画を参考にしたり、わざわざチェーンソーを町中で持ち歩いたり色々としたんだから! 警察に2回補導されたんだよ!」
「その組み合わせは絶対に面白くならない! シラケるか本当に怖いかのどっちかだ! というかよく補導で済みましたね!?」
「お使いです。っていったらなんとかなったよ?」
私はこの街の治安が少し心配になった。
「チェーンソーを振り回して路地から出てきた瞬間にも捕まったけど、試し切りですっていったら何とかなったし」
私はこの街の治安が凄く心配になった。
「ま、まーそんなとこだよね。さっきまでのは単純にドッキリ。必要以上に驚かしちゃってたんなら一応謝るよ。ゴメンね?」
そう言いながら堂六さんは手をヒラヒラさせた。いや、これ謝るつもりないな。危うく。というか実際に私は不法侵入をしてしまってるわけで、もし通報なりなんなりされていたら、本当に洒落になんなかったよね?
そんな私の気持ちをすくうなんていう考えは、この人の中にはそもそもないらしく、チラッとポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認した堂六さんは、さてさて。と喋りだした。
「まぁ何はともあれ君はこれから繋魂使として頑張っていくのですが……まぁ今日は一旦家に帰ろうか。流石に遅くなっちゃってるし。もう少ししたら雨が降るらしいからね。また明日以降詳しいことはぼちぼちと教えていくよ」
「わ、わかりました?」
「まぁ見た感じ制服違うから、学校は違うとこだろうし……んじゃ放課後にどっかで落ち合おうか。学校に他校の生徒が入るのは色々と問題がありそうだしねーというわけで、メアドかなんか教えてくれるかな?」
そう言われた私は言われるままにスマートフォンを取り出す。そしてメアド交換を行うのではなく、某SNSアプリのQRコードを読みこむことにしたらしい堂六さんは、少し手間取った後、私のスマートフォンに示されたQRコードからIDを読み取り、「登録完了っ!」と大袈裟に手を高くあげた。私も自分のスマートフォンの画面を見てみると『のこ』というユーザー名が記されていた。
「完了完了っ。んじゃ……明日の放課後、また連絡するんで予定空けといてね? 明日はもう少ししっかりと教えられると思うからさ」
「わかりました」
「んじゃまた明日ね」
そう言って女の人はヒョイッと公園の入り口へと振り向く。が何か思い出したようにまた上半身だけこちらの方へと振り返る。
「あ、そう言えばさっきちらって言ったけど、霊器って貰ってないの?」
「霊器? ですか?」
「そうそうそう。金髪痴女からなんか貰ったでしょ? 繋魂使になる時は必ずなんか貰うはずなんだけど」
私は少し考える。
「あーー、そういえばハンマーを貰ったような……」
「でしょ? そんでそのハンマーはどこにあるのかな?」
「……?」
どこに……と言われてみれば、確かに少なからず私の近くにはハンマーは無い。さっき二本も貰ったはずなのに、そういえばどこに行ったのだろうか?
「あー、それも説明してもらってないのねぇー……ったく、今日すぐ私が合流出来なかったらどういうつもりだったんだか」
そういう堂六さんは、私の方を向きやれやれといった様子で大袈裟に両腕を広げていた。
「んじゃあ……それも明日教えるから、学校終わったらなるべく早く動けるよう準備しておいてね。メモ帳なんかも持っとくといいかも」
そう言って「そんじゃあねーっ」とフリフリと手を振った堂六さんは、今度こそ公園の入り口へと歩いて行った。
歩いて行く堂六さんの背中を見ながら、私は一つ息を吐いた。
明日の約束を取り付けて貰ったものの、なんか色々とありすぎて私の頭の中はゴチャゴチャなんてもんではない。正直、追い掛け回されたあたりぐらいからは、凄く現実味のある夢なんじゃないだろうか。と思っているぐらいだ。というかそう考えたほうがきっと、いや確実に楽だ。そう考えれば辻褄があわないことだって強制的に辻褄があうのだから。例えば死んだはずなのに生き返るとかね。
けど……。
「痛てててて」
確かにほっぺたを抓ると痛い。ベタかもしれないがそうでもしないと今が現実であることがよくわからないのだ。繋魂使? 霊器? 門番さん? 生と死の間? 黄泉帰り? 全部普通に生活していれば、いやどう足掻いたって滅多にもしくは絶対に聞いたとしても体験することなんてないことだ。特に繋魂使という言葉については。正直、どこのラノベだっ。という感じである。そんなものが現実にあるなんて……。
……やめよう。考えたってわかんないや。
「帰ろうかな」
よいしょっ。と私はベンチから立ち上がる。上を見上げると相変わらず空は綺麗に輝いてた。私はベンチに置いていたスパナ入りの鞄をとり、
「あれ? チェーンソーが……無い?」
さっきまでベンチの下に置かれていたはずのチェーンソーが跡形もなく無くなっていることに気づいた。確実にこの目でさっき見たはずなのに……。
「……駄目だ。多分私疲れてるんだ。帰ろう。お風呂入って寝よう」
もう考えることを完全にやめた私は、いつの間にか談笑の声もはしゃぎ声も無くなっていた、いつもどおりの道をトボトボと歩いて行った。
家に帰ったあと母からこっぴどひどく叱られたことは言うまでもあるまい。




