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ChAiN soul Girl  作者: 甘味 亜月
元いた世界のお話
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通せんぼ

 女の人がいないことを確認して民家を飛び出した後、置き去りの自転車を回収した私は家を目指しトコトコと歩いていた。

 自転車のライトがストロボのようにテカテカと足元を照らす。先ほどまで薄明るかったこの町は、私が家に近づく頃にはすっぽりと夜に包まれていた。道行く人は部活帰りの中高生や仕事帰りの大人ばかり。そしてそんな人たちの頭上では、光が漏れだす民家の窓やポツリポツリと立っている街灯に雑多の虫がたむろしていた。

 道を歩いていて聞こえくるのは自転車の車輪が回る音や家から洩れ出す談笑の声、それに中高生達のはしゃぎ声。なんの変哲も無いいつも通りの道はさっきまで非現実なところにいた私を安心させてくれた。

 やがて我が家の入り口が目に入る。家の中には周りの民家同様灯りがついており、私は安堵するとともに両親に怒られてしまうかもしれない。という不安感に包まれた。けど仕方がないよねあれだけの事があったんだから。帰っこれたのがむしろ奇跡かもしれないのに。何か聞かれたら素直に不審者に追い回されたって言おう。

 そして家の前につく。工具が出しっぱなしの車庫に向かい、車庫の中の自家用車の横に自転車を置こうと歩き出したところで、

「はいストップ」

 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。呟くような女の人の声が。

「……」

 今日何度かもわからない冷や汗が背中を滴る……間もなくびったりとキャミソールにひっついた。そろそろキャミソールは大変なことになっているんじゃないだろうかと正直思う。これほどの汗をかかせた要因はだれか。そうチェーンソー両手に私を追い回すスプラッタ映画さながらのアクションを行ったこの女の人だ。丁度塀の影になっていた暗い場所からじぃっと私の方を見ているこの人物。

 いわゆる不審人物兼やばい人物。意味が一緒だとかそんなことは置いといて、チェーンソーを振り回して尚かつ自宅を特定してくる。今この場で通報したって誰にも恨まれないであろうそんな人物だ。というか、むしろ通報したほうがいいに決まってる。けど自宅を特定してくるような人を通報して逆恨みされたら……何されるかわからないわけで。

 ということでシカト決めて正直これ以上お関わりになりたくない私は、華麗に女の人を無視して家の中に入ろうとするが、

「無視しないで。私はあなたに用がある」

 女の人が私の前をぐいっと遮ってきた。じとっとした無表情のまま両腕をいっぱいに広げているその姿は、通せんぼしているポーズそのままだ。私の目の前を塞ぐ女の人とそこに立ち尽くす私。チェーンソーが無いことを除けば先ほどとほぼ同じ光景である。

 ただ決定的に違うところはといえば、さっきの場所はたまたま周りに人がいなかったものの、ここは時間帯の割に通行量が多いところだということだ。当然というか何というか、行き交う人々からは奇異な視線が向けられる。「姉妹喧嘩か?」だとか「どういう状況なんだろ?」とかいうヒソヒソ声が味味に入ってきた。ふざけるなこっちが聞きたいよ。

 家の前を塞がれたこともあるが、何より周りから向けられる視線や声。に耐え切れなくなった私は早くこの状況を終わらせる為に。と女の人に質問することにした。

「……さっきから一体なんの用なんですか?」

 これ以上注目を浴びたくない一心からか、自然と小声になる。そしてそれを聞いた女の人は一瞬気が抜けたような顔をしたあとキョロキョロと周りを見渡して、

「人から見られてるとまずいから、ここじゃ言えないな」

 ふっと笑いながらそう言った。いや、誰が注目を集めやがったんだ! と全力で叫びたくなったのだが、これから先のご近所生活を考えた私は、ぐっと堪える。「え、何? そういう関係?」とか「見ちゃいけません」とかいう周りの声が聞こえる。何だろう小声作戦は逆効果だった気がするよね。

「ここじゃ不味い理由があるんですか?」

「まぁちょっとね……。出来れば二人きりがいいかな」

 「やっぱりそういう関係か!」とか「ぐへへへへ」とかいう声にならない声が周りから聞こえてくる。不味いこのままここにいたら大変なことになる。不本意だが今すぐこの場を離れることが吉だと考えた私は、それだったらと一つ提案をした。

「それじゃあ……流石に周りに人がいないってのは正直不安なので……あ、そうだファミレスとかどうですか?」

 我ながらいいチョイスだと思う。人の数のわりに周りの会話が気にならないし、逆に誰も人の会話なんか気にしやしない。カフェだと静かすぎるしカラオケだと密室になる。そう考えると賑やかだけど話しやすいファミレスはすごくいいんじゃないかな? という感じで考えた私の混信の提案を聞いた女の人は、残念そうに首をフリフリと振った。

「私、ファミレス苦手」

 思わず拳が上がりそうになる。けど未だ向けられる周りからの視線を気にした私は、半笑いのまま拳を押さえつける。

「それじゃあ……私の部屋は? ほら友達っていったら何とかなりそうですし」

「友達でもない人の部屋はちょっと」

「なら……どこかこう違う路地とか」

「人の目がある」

「だったら家の庭とか」

「嫌」

「……」

「……」

 ふっと女の人が私から目を逸らす。いやなんだこれ。一体なんの時間なんだよ。私の提案はことごとく断られていく。というかそもそも女の人に選択権はないはずなんだけどな? 私がお願いされてる側の気がするんだけども。

 そうこう考えていると、ピクッと女の人が動いた。ジトッとした目が少しだけ開く。何かが閃いたようなそんな表情だ。

「私、公園がいいかな」

「公園ですか?」

 コクっと女の人が頷く。

「公園……いいですけど、この時間帯だと暗過ぎませんか?」

 この辺で公園というと、滑り台とブランコと申し訳程度の砂場しかないような小さな公園しかない。ベンチは二人掛けがひとつだけ。当然というか何というかそこの街灯はほとんど機能を果たしておらず、夜になってもベンチの周りをぼんやりと照らすだけなのだ。ベンチから2〜3mも離れてしまえばもう見えやしない。

「公園がいい。あそこなら色々と楽だから」

「……色々と楽?」

「すごく楽」

 ふふん。と言う女の人は自分の意思を変えるつもりなんて全くないらしく、どうやら従うしかないらしい。

 というか何だかこの女の人に着いて行くこと前提になってしまっているが、なんか楽とかいう引っかかるワードがあるし、よく考えてみたらこの女の人(危険人物)についていく事自体あれなんだけど……。なんていうか直感的かな。この人についていっても大丈夫。そんな気がするのだ。

 まぁ流行然り、私が流されやすいから成り行きでそう思ってしまっているのかもしれないけど。

 女の人がくるっと向きを変えて、公園の方へと真っ直ぐに女の人は歩いて行った。不思議なことにさっきまで街灯に集まる虫のように、私達の周りで騒いでいた人たちは一人残らずいなくなっていた。なんていうかみんな飽き性なのかな? 私は念の為。と車庫の前に無造作に置かれていた工具のなかからスパナを取り出し、自転車の籠の中に置いたバッグの中に入れ女の人の後を追っていった。

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