新しい秘密基地
新しい秘密基地
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セカンドハウスって、一度は持ってみたくない?
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ブツブツと独り言を呟くザルトーニュクス。
ノーウの町の人は訝しみながらすれ違うが、それに気付かず独り言を続ける。
「ヤーデという町長も町長だと思わないか?
あのタイミングで、しかもボソッと・・。やり方が汚い」
『では中止の場合の損失を・・』
「誰もやめるとは言っていない」
目の前にグルナート商会が見えてくると、起動していた【助言】を解除する。
町長との会談の後すぐに、ぼっち相談室【助言】を起動して、愚痴を溢したのだ。
「全く。こちらには何のメリットも無いと言うのに・・」
『否定。現在得られている情報から、ヤーデ町長の依頼を行うべきと判断します』
「あぁ!? 何でだ?」
思い出してみると【助言】は、自分に味方していないような気がする。
魔法術式の組み込み方を、何処かで間違えているのだろうかと思いたくなる。
『一つ。新たなる収入源』
「収入源・・。犯罪奴隷の報奨金という事か」
『肯定。加えて犯罪者の資金』
「確かにあれは美味しいな。取られたけれど・・」
犯罪者を捕まえると奴隷落ちの際の代金として報奨金が支払われる。
指名手配犯の場合は、更に賞金が掛けられている場合さえある。
定期的な収入ではないが、ボーナスとしては非常に旨味のある仕事ではある。
しかも犯罪者なので、有り金を何の躊躇いも無く頂けるのが尚良い。
何よりも魔法の無いこの世界では、ザルトーニュクスが負ける事は考えにくい。
『二つ。コネンクション』
「・・偉いヤツとのコネは、有益どころか今回みたいな面倒事に巻き込まれるから、デメリットしか考えられん」
『肯定。ただし、上位クラスの情報入手が可能』
「むーぅん」
実に悩ましい回答をしてくる。
面倒事と言うデメリットは遠慮したいが、情報源と言うメリットは非常に大きい。
今後どの程度必要となるか分からないが、巷の噂レベルに比べると、情報の速さ、精度、量が比べ物にならないだろう。
グルナート商会と言う商業ギルド系の情報網も使えるが、ザルトーニュクス個人に対しては限度はでてくる。
当然の事ながら裏社会では、情報は金になり売買がされているし、町長ともなれば其処とのパイプも持っているだろう。
『三つ。【転移】先の開拓』
「そうなんだよな・・」
【転移】の魔法は、一度行ったことがあるか、マーキングしてあるかと言う条件が必要だ。
【飛行】魔法で、あちこちにマーキングしてくれば良いだけなのだが、旅と言う目的があるならば研究一筋出無精の自分も流石に町を巡る事になるだろう。
「目的があった方が、旅らしくはなる・・か」
グルナート商会の入り口をくぐると、何時ものコラレから挨拶を受ける。
「いらっしゃいませ、ザルトーニュクス様。
本日はどういったご用件でしょうか?」
「またしばらくダンジョンに潜ろうかと思ってな。
素材とかの在庫の状況を確認しておこうと思って立ち寄った」
コラレは確かに、にこやかな笑顔なのだが、何となく腰の引ける笑顔だった。
「ザルトーニュクス様。何時も申し上げておりますが、どこでも引く手数多です。
何時でも不足気味ですから、どんどんお持ち下さい」
「お、おう」
「大量にありましても、こちらでつつがなく流通させて参りますので」
「わ、分かった、分かりました」
流石はグルナート商会。
会長にも勝るとも劣らない気迫を持った笑顔の作り方を教えていると確信する。
「そういえばザルトーニュクス様」
「ん? なんだ?」
「素材の売買の代金は如何しますか? 結構溜ってますが」
グルナート商会に素材を置くかどうかというタイミングで連行される事が多くて、まともに売り上げを受け取る事が無かったことに気付く。
「まだ以前に両替して貰ったのが残ってるからいいや」
「畏まりました。
何時でも言って下さい。直ぐに用立てますので」
【転移】で自宅に戻って、使うのは外食だけではそんなに金は掛からない。
自分の懐を弄るように手を動かすとそう答える。
「それから、グルナート会長が必ず顔を出す様にとおっしゃっていました」
「会長が? 何だろう?」
自分の商会と、商業ギルドの会長を兼務して忙しいのに呼出しである。
「・・また無理難題を押し付けたのでは?」
「うーん・・。あのアクテサリー位だけど・・、売る気は・・」
その言葉に周りに居た女性従業員の耳がピクッと動き、一瞬で取り囲まれる。
幾ら魔法で強化していないとはいえ、全く反応が出来なかった。
いや、今のは例え強化していても反応する自信が無かったが。
「ザルトーニュクス様?」
「な、何でしょうか?」
ちなみに今の動きで、コラレは倒され、絨毯の様に踏みつけられていたりする。
「あのアクテサリーは、ザルトーニュクス様がお作りになったのですか?」
「えーっと、ちょっとしたお試しで・・」
恐るべき手練れたちの静かなる気迫にビビりが入る。
「そうですか。期待しておりますわ」
「ご期待に添える様に頑張ります、・・はい・・」
流石はグルナート商会。
女性従業員の気迫も会長に負け無い程のものであった。
どうやら、やらなくても良い事をやる羽目になりそうである。
商業ギルドのギルドマスターの執務室でも同じような状況であった。
「手前が何を言いたいかお分かりですか?」
少し前に持ち込んだ皮袋の中身、魔石で作った指輪と腕輪を弄ぶ。
失敗したという表情を浮かべ、チラリとそれらに目をやる。
「グルナート商会の女性陣に、それはそれは熱烈な歓迎を受けた」
「重畳ですな」
にこやかな笑顔に、血管が浮かぶのは似合わないと思うが口には出さない。
何となく、ただ何となくだが、この結果を分かっていて女性陣に見せた様な気がする。
売る気が無いと言いながら、商売心に火をつけた意趣返しのつもりだろう・・
先程の女性陣はの行動は、クズ石のアクテサリーなら自分たちにも手が届くと考えての事では無いだろうか。
世の女性たちの美への意識を甘く見ていたザルトーニュクスの不手際に違いない。
「このような加工方法は思いつきもしませんでした」
「誰か一人ぐらいはやっているかと思ったんだが、クズ石には見向きもし無かったと言う訳か」
魔法の無いこの世界で魔石は、クズ石と呼ばれるほど邪魔者扱いである。
透明度の高いものは、イミテーションジュエリーとして使われる事もあるが、台座やチェーンに使われる金銀の方が高価な位である。
これは普通の宝石類に比べると、壊れやすいという欠点があったため、身に付けるには適さなかったのである。
ちなみに宝石の硬さを表すのに、
硬度と呼ばれる単位が傷の付きにくさを表し、靭性と呼ばれる単位が割れにくさを表す。
魔石はどちらも低いため、傷つきやすいし割れやすいのだ。
だから誰も商品になるとは思わなかったし、しようとも考えなかった。
しかし壊れやすい故に、加工もしやすい利点があった。
普通は台座にはめたり、穴を開けて鎖に通すのが主流だったのだが、ザルトーニュクスは、塊から削り出したのである。
それにちょこちょこっとカッティングしただけの事だったのだが。
「先に言っておくが本当に脆いからな」
「承知しておりますよ」
ただでさえ割れやすい傷つきやすい上に、加工まですれば更に脆くなって当然である。
「あと透明度の高いものは入手が難しいからな」
「分かっております。まぁ、念のため商品登録させていただきましたが」
商品登録は、誰にでも真似できるような技術は、発明者保護やワランティを得るために、商業ギルドに登録する事で、製造販売中止をさせる事が出来る。
壊れやすく手に入れにくい、そして屑のように扱われる物に誰も見向きもしないだろうに、グルナートは念には念を入れておきたいようだ。
「あーあーあー、もー知らん、好きにしてくれ」
「それではこちらで製造販売の会社を準備してよろしいですか?」
ガックリと項垂れながら、少し考えさせてくれとザルトーニュクス。
ではお茶をお持ちしますと席を外すグルナート。
えっ、それだけで考えて答えろと?と思いながらも、困った時の【助言】に相談する。
しばらくして、飲み物を持ってきたグルナートに条件を付ける。
「会社を立ち上げるに当たり、条件が二つある」
「どのような条件でしょうか」
「一つ目は、宝石の様に透明度などの価値をはっきりさせる事」
「なる程。確かに必要になりますな」
今までクズ石だった物の価値が変わるのだから当然である。
「二つ目は、購入者の希望に合わせたデザインにする」
「むぅ。それは難しいかと」
クズ石とは言え、加工する技術の習得には時間が掛かる。
グルナートの販売戦略とかけ離れていた。
「加工出来る程の大きさのクズ石って、ダンジョンボスクラスになるんだ」
「そうでしょうな」
「その討伐記念とか、雇い主の強さの証明みたいな感じでさ、コップ何かにしたりして、見せびらかして酒とかを飲むみたいな感じってどうだ?」
「なっ!?」
「そうすれば高い上に脆くても誰も文句を言わないだろうし、数が出なくても仕方がないと思ってもらえないか?」
入手し難く壊れやすいのであれば、アクテサリーでは無く戦利品と言う売り方に驚く。
確かに、その手の物は金持ちの自慢逸品として高値を付けられるだろう。
装飾品として身に付けられながらも、仕舞っておいても良いという考えを定着させる狙いもあった。
「・・分かりました。その二つの条件を吟味させていただきます」
「それじゃあよろしく」
【助言】のアイデアを伝えると、後は丸投げである。
実はザルトーニュクスは、心の友【助言】から、前もって提案され雲隠れしていたのはこの事であった。
前の世界では素材不足で成し遂げられなかった研究があったのである。
それこそが魔石研究であった。
前の世界は魔石を入手しにくく、それでも比較的手に入れやすい低級の魔石を合成して、上級にする技術の開発が盛んであった。
これによって不足しがちな魔石の供給を行っていたのである。
『魔石そのものの研究、魔石の流用方法の研究、合成方法や合成の法則の研究、カッティング技術、研究は尽きないかと考えます。』
「それはそうだな」
今の世界はタダで、幾らでも手に入るので、研究し放題である。
アクテサリー用にするも良し、生活水準向上用にするも良し、マジックアイテム作成用にするも良し。
ザルトーニュクスは、これからの研究に胸躍らせていた。
で、研究の一環で出来た指輪と腕輪をグルナートの所へ持ち込んだのである。
未だサウサの町の近くに掘られた地下の自宅には、家財が一切なく魔石を色々と弄るスペースには事欠かなかった。
最初の内はそれでも良かったのだが、だんだんと資料や魔石の置き場所に困る様になる。
ついに自分の寝るためのスペースが無くなり、魔石研究用の場所を造らなければならない事態に至る。
それではと、自宅の時と同じように、場所の選定から始める。
魔石収集はサウス地方の初級中級ダンジョンが中心になるため、それぞれの大体の中間点はサウス市とサノの町の中間点ぐらいになるので、そこの地下に魔石研究所が建設する事になる。
「さぁてっと。
【土塊収集】起動。
彼の場所を押し固めよ【圧縮】」
自宅の時の様に、周りの土を集めてがっちりと固める。
「今度は大雑把でいいよな
【透過】起動。
【作図】起動。
我に従いて、喰らえ【悪食】」
特に間仕切りと化するつもりは無いので、自宅と同じ大きさの約20キュビット(960cm)の四角形で、高さは10キュビット(480cm)でごっそりと削ってしまう。
魔石と魔法陣を組み合わせて、室内の灯りと換気を設置する。
「そっか魔石とか資料を置く場所を作っておいた方が良いか」
壁の一面を高さと奥行きを2キュビット(96cm)、高さを天井まででごっそりと【悪食】で削ってしまう。
壁側にも灯りの魔法陣と魔石を設置して、簡易版の長テーブルの完成である。
残りの壁三面には、棚の様に何段か四角く穴を開け荷物置き場にする。
此処で【悪食】を例にとって、魔法のコツについて説明しよう。
家具を作る専門の職人がいると言っていたのを覚えているだろうか?
前にも言った様に、魔法とはイメージである。
魔法の得手不得手、器用不器用が現れてくるのが、このイメージである。
【悪食】は物質をバターの様にスパッと噛み切るイメージ出来る者と、【悪食】はゴリゴリ削るように食べるとイメージする者では出来上がりに歴然の差が現れる。
自分の得意分野では、このイメージの切り替えがスムーズなのに対して、余りやった事の無い、もしくは不得意の分野では、こういう物という固定観念をなかなか捨てきれないのだ。
そして長く同じ事に携わる事で、こうしたらより良くなると言った、効率的と言う考え方が生まれ、更にイメージの幅が広がり、切り替えが早くなるスパイラルが出来てくる。
自分が作った机や棚の表面を撫で、多少ざらざら凸凹していても、これ以上の物を作り出すことが難しい、良く出来たと納得するしかないザルトーニュクスだった。
魔石製のアクテサリーの件の商談が終わると、さてと席を立つ。
「これからどちらへ」
「働かざる者食うべからず、だ。両替して貰った金貨の分がもうすぐ尽きるからな」
「犯罪奴隷の報奨金は?」
「全部、投資に回したぞ」
悪徳商会のオークの資産だけでは無く、奴隷の代金まで渡してくれていた事に驚く。
金貨の下りは、働く事への照れ隠しであると好意的に捕えていた。
「それでしたら、こちらをどうぞ」
「ん? これは?」
「勝手ながら、商人カードを作らせて頂きました」
「なっ!? 勝手に・・」
出来る限りザルトーニュクスと言う名前を公式の場に残したくない。
「ご安心を。商会名義の物でございます」
「商会名義?」
「本来は個々人にカードが発行されますが、商会そのものという事でも発行可能なのです。
所持者を商会が身分を保証しつつ、ある程度資金の融通も致します」
「そうか、それならまぁいいか・・。ちなみに融通ってどのくらい?」
「そうですね、金貨十ま・・」
「いい、その先は言わなくていいから」
とても危険な言葉が聞こえそうな気がしたため言葉をさえぎるザルトーニュクス。
このカードはグルナートとしては、精一杯の感謝の気持であった。
「なので、間違っても紛失や盗まれたりしない様、努々ご注意下さい」
「えっ? やばいのか?」
「所持者が誰であれ、商会からの代理人と認識されますので・・」
「・・そりゃあもう、気をつける。うん、絶対気をつける」
誰でも使用できる上、商会そのものが担保と言うハイリスクなカードであった。
グルナートは、黙ってザルトーニュクスを3つの商会の代表にしてある。
商会救済基金、燻製商会、素材卸業で、魔石店で4つ目になる予定だ。
返却が完了すれば商会救済基金は不要になるが、商業活性化のために、そのまま低金利貸付基金として、必要に応じて貸し付けてはと考えている。
燻製商会は、いずれ王都にも卸される一品と確信しており、製造ラインが軌道に乗ればかなりの収益が見込まれている。
魔法の存在を知らないのでザルトーニュクスがかなり苦労しているだろうが、素材卸業については既にそれに見合うだけの膨大な利益をたたき出していると思っている。
正直、薄利多売の行商業のグルナート商会などとっくに追い越している段階である。
グルナートはザルトーニュクスの資金繰りにについて、かなり誤解していたのである。
ザルトーニュクスが自宅を所持し、魔石を使った風呂に入っている事は当然知らない。
グルナートは彼が風呂に入っている様子で、いつも身綺麗にしているため、風呂付の高級宿に泊まっていると思い、かなり消費しているとも考えていた。
故に莫大な利益を上げていても、手元にはあまり金銭は無いであろうと。
浪費は悪徳という考えはあるが、誰かが使わなくては金は動かないのも事実。
しかもザルトーニュクスの得た利益は、誰かを苦しめて得たものでは無いまっとうな物である。
そう思っての商会カードでもあった。
そんなグルナートの秘めたる思いなど露知らず、ノーノの町へと向かって旅立って行くザルトーニュクスである。




