タンスの肥やし
タンスの肥やし
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何時か使うかも、何時か着るかも・・。それは何時?
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グルナートとの不毛な正義の味方論に終止符を打つため、お茶が空になったタイミングで、「そうそう」とグルナート商会に来た本題を話し始める。
「そうだ。実は別の目的があって相談に来たんだけど、今いいか?」
「ええ、構いませんが。どのような事でしょうか?」
どんなに言葉を取り作っても仕方がないと、直球勝負を仕掛ける。
「ダンジョンの素材を買い取って欲しい」
「素材・・、しかもダンジョン産ですか」
サノの町ではすでに売れなくなってしまった素材の買い取りのお願いをする。
「畏まりました。例えばどのような物でしょうか?」
魔石や雑魚ドロップ品は売れないと考え、中級ダンジョンボスドロップ品を言ってみる。
グルナートは訝しむような表情になり聞いてくる。
「それは確かですか?」
「ああ、多分手持ちで一番高いと考えている」
グルナートは腕を組むと、更に表情が険しくなる。
やはりこれは難しいかと諦め答えを待つ。
「それでは、1デナリウスでは如何でしょうか?」
「はぁ?」
驚きの声を上げると、うんうんと分かったかのように頷く。
「流石にこれでは無理ですな。1デナリウス半いや2デナリウスでは如何でしょう?」
「待て待て待て、何故買取の値が上がる!?」
「・・はぁ? 当然だと思いますが?」
「当然って、助けたからと言って高い値を提示されるのは、正直気に食わんのだが?」
「高値? ・・どういう意味でしょうか?」
「最近の取引では、中級ダンジョンんのボスドロップ品は32アスだったはずだ」
「・・何処の取引ですか、それは!?」
お互いの言っている事が、本来の売り手と買い手と逆になっている事に驚く。
ちなみに、この世界の通貨は3種類で、貨幣は4種類存在する。
小銅貨=1アス
大銅貨=64アス
銀貨=4096アス=1デナリウス
金貨=8デナリウス=1アウレウス
小銅貨で安いパンが1個買え、大銅貨で一般家庭の1日、銀貨1枚で1か月暮らすのがだいたい目安である。
まずは自分が言っている事が正しいと、ザルトーニュクスから状況を説明する。
「いいか? サウス市周辺では、初級中級ダンジョンのアイテムは殆ど値が付かない」
買い叩かれるのは嫌だが、恩着せがましくされるのも嫌なので現状を伝える。
「サウス市? あぁなる程、ザルトーニュクス様のおっしゃりたい事が分かりました」
「おお、やっと分かってもらえたか」」
うんうんと頷くザルトーニュクスに対して、グルナートはふーっと深く息を吐き出すと、よろしいですかと話し始める。
「サウス地方には、上級や最上級のダンジョンが存在します」
「ああ」
「加えて、砂漠や荒野など生活するのにも、かなり厳しい環境です」
「うむ、その通りだな」
ザルトーニュクスは、何を分かり切った事をと訝しむ。
「故に、かなりクラスの高い冒険者が集まり、往々にして活動資金には困らない程度の所持金を持っています。
その結果、購入は元より修理にも困りませんので、初級中級の武器や防具など必要としない状況が発生します」
「そうだ。だから初級や中級の素材が買い叩かれるのは当然なのに・・。
それなのにグルナート会長は、わざわざ高い値を付けようとするのが許せん」
普通は高値で買われて文句を言う者は居ない。
ザルトーニュクスの態度に、グルナートは笑顔を浮かべて話を続ける。
「しかし、その他の地方は初級中級ダンジョンしか無く、過ごしやすい環境です」
「ノース地方しか知らないが、サウス地方に比べれば天国と地獄の差だな」
それがどうしたと言う感じで、ザルトーニュクスが答える。
「冒険者の初心者が多く存在し、デビューもここら辺でするのが大概でしょう。
上級冒険者はサウス地方へ行くので、かなり少ない状況です」
「へぇー・・」
ザルトーニュクスの目が泳いでいる。グルナートの言葉を思いめぐらしている様だ。
「ノース地方は海や湖から鱗が、イースト地方は鉱山で金属が、ウエスト地方は酪農で革が入手しやすいのですが、ダンジョン産は多くありません。何故だかお分かりですか?」
「えーっと、持ちきれないからか?」
「その通りです。深く潜れば潜る程、素材は捨てられていきます」
「・・つまり?」
グルナートの理路整然とした話運びに、何となくだが自分の失敗に気が付く。
「初心者向けの素材は元より、中級者もサウス地方へ向かう上級者も、少しでも良質の武器、防具を必要とします」
「その地方で手に入りにくい素材は高値だろうが、特にダンジョン産の素材となると需要となれば・・?」
「勿論常にあり、当然高値で取引されます。
それぞれの地方から産出される素材に比べ、ダンジョン産の素材は質が良いのも理由の一つです。
大概は手に入れた地方で取引され消費され、まず他の地方には回って来ません。
サウス地方からの素材は、輸送費も含めてかなり割高になります。
ましてや持ち運べる量も限られており、品薄感がさらに拍車を掛けます」
そこまでの話を聞いたザルトーニュクスは、既に灰のように燃え尽きていた。
そこへ商人とは思えないほどの力で両肩を掴まれる。
「どの様な物でも買い取ります。
少なくともサウス地方よりは高値ですから、必ずこちらへ持って来て下さい。
売れないからと捨てるような事だけは絶対にしないで下さい」
「し、承知した・・」
全く目の笑っていない物凄い笑顔に、ひたすら頷くしかなかった。
「近い内に全部持って来て、査定して貰おう」
「どのくらいの量があるか分かりませんが、いっぺんに市場に出すと大混乱になりますので、預かるだけ預かって、出荷調整さて頂きますがよろしいですか?」
「よろしいです。売れた分だけ、その都度代金を貰う事でいいかな」
「畏まりました。その辺りは私どもにお任せください」
ザルトーニュクスとしては、素材の販売ルートを確保出来た事で、確実に日々の生活の安定が保証されホッと一安心である。
グルナートとしても人のつながりは大事ではあるが、合わせて商売の機会を得られるならそれに越した事はないとホクホク顔である。
後日持ち込んだ量と質に、グルナートの引きつった笑みと一筋の冷や汗を見逃さなかったザルトーニュクスである。
素材を取って来るので、しばらくこの町を空けると言い残し商会を後にする。
「この辺で良いかな」
キョロキョロと周りを見渡し、ノーウの町の近くで、目立たない場所にマーキングしてから、一度サウサの町の拠点に戻る。
折角だからと魔法実験と称して、今までの分を取り戻すかのように、時間の許す限り初級中級ダンジョンで荒稼ぎをする。
「言われてみれば当たり前と言えば当たり前の事だよな・・」
出荷のバランスはグルナート商会の方でうまくやるだろうと思いつつ、供給過多になればイーストかウエスト地方で売り捌けば全く問題は無いなと安易に考える。
まぁ悪徳商会のオークの資産と、犯罪奴隷の報奨金で、贅沢をしなければ一生分の稼ぎは終わっているのだが・・
「くそ! もっと早く分かっていれば・・、くそくそ!」
サノの町の商人のご機嫌を取っていた自分が馬鹿みたいである。
【助言】に従って、少しずつ売れそうなものを討っていた自分が間抜けである。
少しずつしか溜っていかない貯金に涙した自分が恥ずかしい。
「くそ、消えて無くなれ黒歴史! 闇に沈め記憶!」
八つ当たりされる魔物にとってはいい迷惑ではあるが、それでも誰かに八つ当たりしなければ気が済まないザルトーニュクスであった。
「どんなものでも買い取ってくれると言いていたよな。
いいだろう、全部買い取ってもらうからな・・、クックックック」
誰もいない初級中級ダンジョンで不気味な声が響き渡りる度に、罪も無い?魔物たちが葬られていった。
素材の量と質でグルナートの顔色を悪くさせた後、今度は向こうから相談が有ると執務室に招かれる。
「少しよろしいですか?」
「グルナート会長、話ってなんだ?」
便宜ではないが、ダンジョンのアイテムを適正価格で買い取ってくれるのだ。
多少の事には相談に乗るつもりではある。
まぁサノの町だって、サウス地方に合った適正価格ではあったのだが・・
グルナートは少し前にザルトーニュクスが言葉を濁す事無く、きっぱりと言い出した様にハッキリと頼んでくる。
「投資・・をしてみるつもりは御座いませんか?」
「投資? グルナート商会にか?」
ダンジョンからのアイテムの量を見て思いついたのか?
悪徳商会の奪った資金をあてにしているのか?
どちらにしても、金銭的に余裕が一番あるのは自分であるのは認める。
人を見る目が肥えている訳ではないが、グルナートは人の金を当てにするような人物ではないように感じていたのだが・・
「いいえ、手前どもではありません」
大小に係わらず商いをするには、元となる資金が必要不可欠である。
手持ちの資金で不足する場合、他の人や商会から資金を借りてくる事があるのだろう。
「じゃあ誰に投資するんだ?」
「悪徳商会のオークによって、荷が奪われ、運転資金が尽き、潰れかかっている商会がいくつかあります。
彼らの商いはそれぞれですが、皆、誠実で経験も実績もあり、資金さえ得られれば十二分に利益は見込めます」
「・・そいつらに俺が投資しろと言うのか?」
あからさまに渋い顔をするザルトーニュクスに、頷くグルナート。
「それから実際に盗賊に殺され、片親となり商会を手放すしか無く、更には日々の生活にさえ困窮する家族もあります」
「そいつらは、何の利益ももたらさないように思うが?」
「確かに。申し訳ありませんが援助と言う形になります。
ただ他の商会が立ち直れば、その者たちに仕事の斡旋が出来る様になります」
「その資金を出せと?」
グルナートは目を逸らす事無く、「はい」と答える。
虫が良い話である事は、十分承知している様である。
グルナート商会であれば、投資も考えても良いが、何の信頼関係もない赤の他人に、ポンと出す金など銅貨1枚だってありはしない。
「悪いが、少し考えさせてくれ」
「勿論です。今直ぐに答えがいただけるとは思っておりません」
しばらくにらめっこすると、目を逸らし深く溜息を吐いて考える猶予を貰う。
【転移】の魔法でサウサの拠点に戻り、独り言ごまかし魔法【助言】に、今あった事を相談してみる。
『グルナート会長の申し出を受けるよう提案いたします』
「・・何故だ? 悪いが正義の味方をするつもりはないぞ」
不機嫌を隠す事無く問い質す。
野盗から酷い目にあった事は同情するに値するが、そこは町なり都市の役人が考えるべき仕事だと思う。
ザルトーニュクスは自分が聖人君子とは思っていないし、一人で出来る事など限られているし、やるべきではない。
『投資である以上、幾らかの見返りは必ずあります。
低額であれ、長期的な収入が見込めます』
「ぐっ・・、なる程」
ダンジョン品の売買、盗賊稼業以外の新たな収入源となるという考え方だ。
「しかし、片親の方はどうする? なにも見込めないぞ」
『新しい商会を立ち上げ、今までにない商品を取り扱います』
「商会? 今までにない商品?」
自分が忘れていた、記憶の底に眠っているお宝を掘り起こす【助言】の提案を最後まで聞き終える。
「ふむ、面白そうだ。やってみる価値はあるか・・」
一言呟くと、ちょこっと言い訳がましく、ちょこっとだけ研究心に火がついて【助言】のアイデアに乗ってみる事にする。
翌日グルナートへの面会を求めると、直ぐに執務室に通される。
「ザルトーニュクス様、今日はどのような・・」
「片親になった家族は料理は可能か?」
グルナートの言葉に被せる様に、片親の方から確認する。
「えっ!? ええ母親が残っていますので可能かと思います」
「人数は?」
「5家族15人程度だったかと」
自分の言葉に被せられた事を気にするでも無く、質問に答えて行く。
「商業ギルドはあるのか」
「ある事はあるのですが・・。
実は、悪徳商会のオークせいで商業ギルドが名前だけになっていまして」
「すぐさま商業ギルドを立て直してくれ。まずはそこからだな」
「えっ!?」
片親の家族を助ける事と、商業ギルドの再開が直ぐには結び付かない。
「いつまでに出来そうだ?」
「直ぐに商会の主だった者たちを集めて行えば、一週間ほどで再稼働できるかと・・」
「良し。一週間後を目途に戻ってくる。
片親の家族のために商会を一つ作ってくれ」
「なっ!? ・・分かりました。早速取り掛かります」
ギルドの立て直しの目的に驚くが、すぐにやるべきと長年の感に従って素早く行動に移す。
グルナートに今やって欲しい事を伝えると、ザルトーニュクスはとんぼ返りでサウサの拠点に戻り、ひたすらダンジョンに潜る。
時間が無いので、他の冒険者と被らないよう【探査】で注意しながら上級やはたまた最上級まで潜っていく。
【助言】が言っていた片親の家族を助ける鍵となる、あるレアドロップを求めて。




