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秘密基地で遊ぼう  作者: まる
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行商人の荷車

行商人の荷車




====================


旅行に行った時、行きに詰めた物が、帰りに入らなくなった事は無い?


====================






前の世界でもそうだったのだが、普段生活するだけであれば、高額貨幣というのは非常に使いにくい物である。


露店や屋台でちょっと小腹が空いたと買い物をしようとしたり、パンなど少額の買い物をする際に高額貨幣を出されても、店の方でお釣りが無いのである。

あったとして両替をどちらがするかだけの違いで、嫌がられるか断られるだけでなのだ。


そのためには前もって両替をしに、ギルドや大きい商店へ行っておかなければならない。


もちろん装備やアクセサリーや、はたまた家などの大きな買い物をする際には枚数が増えるため、高額貨幣が必要となるのだが、日常生活では少額の買い物をする機会の方が圧倒的に多い。




ザルトーニュクスも、王宮で拝借した金貨をどうやって両替しようか悩んでいた。


金貨の出所など聞かれるはずもないのに、やはり盗んだ物への後ろめたさは残る。


「流石に王都で両替というのは不味い様な気がする。

自宅の近くのサウス市近郊での両替というのも・・」


単に気分的な問題なのだろうが、やはり盗んだ近くでの両替は気まずい。


「ちょっと北の方に行ってみるか」


自宅と反対側のノース地方を選んでしまうのは、心理的に仕方のない事だろう。


【隠密】を掛け、通常の【飛行】でノース地方へと向かってみる。






しばらく進むと、眼下に争う人たちを見つける。


「ん? あれは・・」


よくよく見れば魔物退治の雰囲気とは違い、人と人とが争っている様だ。


「うーん・・、ちょっと行ってみるか」


地面に降り立つと【飛行】を解除して、念のためと戦闘用の強化魔法を掛ける。


「我を敵の刃から守りたまえ【鉄壁】

我に戦う力を【強化】

速きなる身【加速】

迫る矢を躱ものよ【反射】

我敵を知らせよ【探査】」




一頭の馬やロバに牽かせる幌付きタイプの荷車を背に、行商人が数人の野盗が武器を突き付けられている。


多分行商人が雇ったであろう護衛は、既に地面に倒れる。


「命か荷かどちらを選ぶ? お前も・・、ああはなりたくないだろう?」

「・・・」


剣の先で地面の護衛を指し示す先に、商人も無言で目を向ける。


「まぁ、荷を選べば両方戴く事になるがな」

「くっ!」


にやにやと笑う野盗に対して、悔しそうに顔を歪める行商人。


その中へザルトーニュクスが空気を読んでいないかの様にサラッと入っていって行商人に声を掛ける。


「取り込み中悪いんけど、金貨を両替して貰えないかな?」

「えっ!?」

「あぁ!? なんだてめーは?」


突然後ろからの声に驚き野盗たちは振り向くが、その隙間をすり抜け、行商人の傍まで行くと、野盗など見えないかの様に話を進める。


「行商人だろう? 金貨一枚、両替して貰えない?」

「も、もちろん両替いたします。ただ、その、ただいま取り込んでおりまして・・」

「分かってますって」


手をパタパタと振って、とても良い笑顔を行商人に向けるザルトーニュクス。


「このぉ!」


自分達の存在を無視する二人に野盗たちが激高し、ザルトーニュクスへ襲い掛かる。


【加速】と【反射】の魔法を施していたザルトーニュクスに、野盗たちの攻撃はかすりもしない。

もし当たったとしても【鉄壁】の魔法で阻まれるだろう。


そして野盗とすれ違いざまに、掌に魔法陣が描かれ攻撃と同時に起動する。


「【衝撃】起動」



【衝撃】は触れたモノに、衝撃波を放つ様に作られた魔法である。



すべての野盗たちに【衝撃】を打ち込み、意識を刈り取る。

襲われはしたが、正直人を殺めた事が無く、気を失わせるまでしか出来なかったのだ。


【探査】の魔法で見る限りは、周辺に他の野盗の仲間は居ない。


「大丈夫か? 事後確認になるが、こいつら野盗でいいんだよな?」

「は、はい。間違いありません」


今さら感はあるが、念のため確認する。


その後、護衛たちの怪我を確認し応急処置を施す。

命に別状はないが一人で歩くのは無理そうなため、仕方なくギュウギュウの荷台の上に無理やり載って貰う事にする。


「あ、ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、それほどの事でも」

「しかしスキル持ちの方と出会えるとは、何と言う幸運でしょう」


魔法を知らない行商人は、スキルに違いないと確信している。

ザルトーニュクスは、口元に人差し指をたてた手を当てる。


「おっと、そうですね。申し訳ありません」


内緒にと言うポーズをすると、行商人の方で勝手に理解してくれたようだ。

もしかしたら、スキルに関しては口外しないような暗黙のルールがあるのかもしれない。


「両替の件ですが今は手持ちがありませんので、荷を届ける店のあるノーウの町までご同行いただけませんでしょうか?」


どうせ何処かの町まで行って両替する必要があるのだ、一緒に行っても同じだ。


「ああ、構わないよ」


野盗は適当に縛り上げているが此処に居るので全員とは限らない為、準備が出来次第その場を離れる事にする。






騎士団長のスマラクトから届けられた手紙を読むサウス市長。


スマラクトの趣味である都市周りが、しばらく出来ない事が簡潔に書かれていた。

ここまでは他の都市の長と同じである。


続きには王宮に侵入者があったと言う機密事項が書かれていた。

何故市長とは言え、一都市の者に?という問いに応えるかの様に呟く。


「一体誰が? こちらはまだ手筈が整っておらんと言うのに・・」


苦虫を噛み潰したかのような顔になる。


「スマラクトの方で無いとなると、あやつの勇み足か」




実は現在のサウス市市長は、国王の兄にあたり、名をブルートシュタインと言う。


武闘派であったが、平和な世にあっては弟の穏健派が良いと、先代国王が指名し継承したのである。


父である国王に決められては逆らえず、ダンジョンの多い南部地方の主になる事になったのであるが、第一継承権を持っていたにもかかわらず、煮え湯を飲まされた事に今なお腹の虫が収まっていない。




騎士団長であるスマラクトは武闘派支持の立場であり、ブルートシュタインが王になる事を望んでいた。


騎士団を自分の子飼いの者にして、何時でも動ける体制に余念がない。

実は都市周りと言うのは建前で、自分たちへの取り込み工作が狙いであった。




追い出される形になった前サウス市長は、国の中枢に潜り込む事を熱望している。


国からの詫びとして国家指定商人として貰い、立場を利用して裏金を得たり、脛に傷を持つ者たちをせっせと集めている。




ブルートシュタインは、それらの力を使って自分が国王になるべく、国家転覆の密約を交わしていた。






目の前に町の城壁が見えてくる。


「やっとノーウの町が見えてきましたよ」

「そのようだな」


あれ以降、特に野盗たちに襲われる事は無く、滞りなく町にたどり着ける。


護衛たちも、かなり傷が癒えて自分の足で歩いている。

聞けば護衛と言う訳では無く、冒険者でも無ければ護衛のプロでも無い、あくまでも荷物運び要員だったらしい。


「初めて聞いた時は、大丈夫かこの人と思いましたが・・」

「やはり普通はおかしいと思うか?」


ザルトーニュクスの戦闘力はその目で見ているのに、何が問題だったのだろうか。


「荷物は? とお聞きした時、持ってないと言われた私の気持ちわかりますか?」

「自分としてはその日暮らしが当たり前だからな」


王宮へ行ったのは、当座のお金の工面をするためだけだ。

【転移】の魔法で直ぐに行き来出来るため、手荷物の事は全く頭に無かった。


荷物ぐらいなら荷馬車にと勧められた時、内心非常に焦っていたのだが、此処も黙ってにっこりと微笑んでおく。


笑顔を絶やさず、必死に【探査】の魔法で出来るだけ広範囲を調べまくる。


「ちょっと離れる」

「えっ!?」


しばらく進むと、待ちに待った獲物を見つけて狩りに出かける事にする。


「大丈夫だから。直ぐに戻る」

「分かりました」


行商人は直ぐに戻るの声に、たぶんトイレか何かだろうと思い、その場では特に気にしなかった。


しかし本当に直ぐに、野兎を捕まえてきた彼の姿に驚嘆する。


「まぁ、こうやって暮らしている訳だ。

魔物は食えない物が多いから、今日は運が良かった」

「・・な、なるほど」


石をいろいろな形状に作り出し打ち出す魔法を、適当な石を投擲したと誤魔化して荷物の無い理由にでっち上げる。



「武者修行、と言うやつですか」

「そんなにたいそうな物では無く、そう・・本当に単なるその日暮らしだ」


ダンジョンに潜る日々は、日々の糧を得るための物だが、魔法研究を加味すると武者修行とも言えるかもしれない。






城門に居た衛兵とやり取りをして、ノーウの町の中に入っていく。


本来は身分を証明する物が無ければ中に入るのは難しい。

今回は行商の荷車の持ち主が証明してくれるため問題無く入る事が出来た。


そして自分たち行商人を纏めている、グルナート商会へと向かう。


「おぉ! 良く戻って来てくれた」

「ただいま戻りました」


他の店員をかき分け、40代後半ぐらいの鼻の下にひげを蓄えた身なりの良い男性がが出迎える。

人足と荷が無事に着いた事を喜んでいる様だ。


「何事も無く帰って来てくれて、本当によかった」

「いいえ、やはり野盗に襲われ、人足たちも怪我をしました」

「何と! しかしこうやって・・」

「こちらの方に助けて頂きまして」


そのタイミングで、ザルトーニュクスの事が紹介される。


男性はグルナートと自己紹介し、この商会の会長をしており、主にノーウの町周辺の村との行商を纏めていると挨拶の中で簡単に話してくれる。


「この度は何とお礼を申し上げて良いのか」

「こちらも、訳あって助けただけですから」


金貨一枚の両替の件を話すと、会長は何やら意味深な笑みを浮かべる。

どうやら善人の類に誤解されている様な気配だ。


「詳細は後程。まずは詰所へ報告しに行かさせていただきます。

お約束は必ず守りますので、しばし中でお待ち下さい」


そう言うとグルナート会長と行商人の二人揃って、衛兵の詰所へと向かってしまう。


店に居たコラレという男性従業員に商会の中を案内される。


荷車から荷を卸したり、詰みかえたりと忙しそうに働いているが、どうも怪我人が多く、荷物も少ない様な感じがする。


「なぁ、いろいろ聞きたい事があるのだが」

「まぁ、いろいろありまして・・」


流石商会務めしているだけあり、視線と雰囲気から察して言葉を濁して答える。


そして応接室に通されると、出されたお茶を飲み商会が受けている野盗被害についての話を聞きながらグルナート会長の帰りを待つ事にする。






コラレと雑談をしていると、皮袋を持った会長が戻ってくる。


「大変お待たせいたしました」

「いや、そちらこそ大変だったのだから」


では早速と、金貨を受け取ると皮袋を渡してくる。


「一応生活しやすい様に両替致しました」

「助かるよ」

「そしてこちらを。本当に気持ちだけで申し訳ないのですが」

「うん?」


護衛の報酬という事で、大銅貨を一枚渡される。


実際に護衛した場合の報酬がいくらかは知らないが、口ぶりからすると本当に気持ちだけの金額の様だ。


「私たちの行商では、冒険者や護衛を雇う事など到底無理なのです」

「そう言う物なのか」


一応有難く受け取り、皮袋へ一緒にする。


ノース地方は、水が豊かな土地で、湖が多く、漁業が盛んではある。

しかし魚だけ食べている訳では無く、農業や酪農を当然取り組んでいる村もある。


そう言った村々とノーウの町の物流を担っている一つがグルナート商会らしい。


村々に薄利多売や高額な売り付けも出来る筈は無く、細々とやっているとの事だ。

そこで護衛を雇えば、当然の事ながら赤字になってしまう。


「しかし、この辺りに野盗が出没するようになりまして」

「コラレという従業員にもいろいろ聞いたが、衛兵や冒険者たちは?」

「勿論掛け合いました。町長も頭を痛めています・・」


衛兵は元より、冒険者ギルドに常時依頼を掛けていると言う。


「効果が出ていないと言う訳か」

「はい、芳しくなく」


町一つ動けば事が片付きそうな物である。


「野盗たちは何か特別なのか?」

「この辺りに出没して、他の商会の荷も奪っております。

ただおかしな事がありまして・・」


口を濁すグルナート会長に尋ねると、渋々ながら話してくれる。


「野盗の奪った荷物が、時折他の村に流れているという噂があります。


この町で急にのし上がってきた、ある商会の荷だけが被害にあっておりません。

その商会から勧められた護衛を雇うと、野盗の被害に遭わないのです」


あまりにも分かりやすい構図に、頬を掻きながら尋ねる。


「・・どう考えても、その商会と野盗がグルじゃ無いのか?」


身内の中から情報を流していれば、簡単には捕まえる事は出来ない。


「誰もがそう思いますが、証拠が無いのです。

その商会は、新参の自分たちを貶める罠だと騒いでおりまして・・

確かに限りなく真っ黒なのですが、あからさま過ぎるといえば、そんな言い分も分からなくは無いのです」


ここまで分かっていながら人が良すぎ、この街は大丈夫か?と思ってしまう。


「せっかくの旅の途中に、つまらない話をしました」

「いや、こちらが無理にと尋ねたのだから気にしないでくれ」


グルナート会長が詫び、そのまま別れ商会を後にする。






その足で、ノーウの町を管理している町長の所へ向かう。

町長には会えなかったが、秘書が対応してくれる。


「確かにその話は町長にも上がっています。

如何せん証拠が得られず、平等公正の立場上、簡単には踏み込む訳にも・・」

「なるほど、そうですか」


町長もグルだったりと思ったが、聞く限りでは無関係なようだ。


「さてと。袖触れ合うも多生の縁と言うし・・」


何処から手を付けようかと、顎に手を当てて考える素振りをする。





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