王宮の宝物庫
王宮の宝物庫
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昔の王宮は、どうやってお金の出し入れをしていたのだろう?
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騎士団長であるスマラクトは務めを切り上げ、謁見の間にて国王陛下へ挨拶する。
「急ぎ戻りました、陛下」
「都市周りの務めの中、すまぬな」
「いいえ、国家の一大事に不在。いかなる処罰でも」
「そなたの行いは国のためと正しいものだ、罰する事はせぬ」
スマラクトは騎士団を副団長に任せ、自主的に軍を管轄する東西南北の市へ定期的な巡回と鍛練を行っていた。
「よもや王宮に賊が入るとは、誰も思いはすまい」
「今回の賊の侵入は、正にその油断が招いたものと思われます」
「ふぅー、耳が痛いわい」
苦笑いする国王に、スマラクトは苦言を告げる。
「しかも賊はいつの間にか地下牢より逃げおせたとの事。
またいつ襲ってくるか分かりません」
「分かっておる、分かっておる」
自分を心配しての言葉に微笑みながら、落ち着くように手を振る。
「それがしめも、王宮警護に当たります」
「うむ、頼んだぞ」
国王の前より退席すると、騎士団の宿舎へ戻る。
再度事の顛末を事細かに確認し、警備の状況を指示を出す。
その後、使いの者に騎士団の務め故、しばしの間都市めぐりが出来ない旨それぞれの市長へ手紙を持たせる。
ただし南の都市だけ、わずかに内容が違っていた。
本来であれば極秘である内容が記されていたのである。
ザルトーニュクスは完成した地下の家と、初級中級ダンジョンを往復する生活が1か月ほど経ったある日の事、衝撃の事実を商人から突き付けられる。
「えっ!? どういう事ですか?」
サノの町に居る商人に、いつもの様に素材の買い取りを依頼して、提示された金額に驚く。
半額近くまで買値がだだ下がりしているのだ。
「あんたが定期的に売ってくれるのでありがたいんだが・・。
流石にそんなに急に減るもんじゃないし、素材がダブ付き気味でな」
とうとう恐れていた自体が起きた事を知る・・、供給が需要を超えたのだ。
「どうする? 買い取るかい?」
足元がガラガラと崩れて、真っ暗な世界に落ちて行く様な錯覚に囚われる。
「いえ・・、今日は止めておきます」
買取を中止すると、持ち込んだ素材を纏めて帰路に着く。
フラフラと帰り道に、今の世界で自分がやってきた事を思い起こす。
前の世界では研究一筋だった自分が、何故こんな事をと考えない日は無かった。
自宅のある場所や性能の関係上、誰かを家に呼んぶ事は難しい。
レシピや料理を教えて貰うほど仲の良い友人も未だ無く、食べてきた食事を見よう見まねで作ってみたが、基本を知らなくては到底料理と呼べる物にはならずの繰り返し。
外食も極力控えて、パン屋でパンを買い、屋台でおかずを買い、家に帰って食べる。
食事付きの宿に泊まるよりは遥かに安上がりで、僅かずつではあるが蓄えも出来ていた。
蓄えはあくまでも蓄えで、何かあった時のための非常用のためである。
ベッドや布団と言った家具もまだ購入できず、床の上に布を引いて寝起きしている。
ダンジョンのドロップ品も、【助言】に従って一週間に一度と決め、しかも、初級中級とは言え、ダンジョンボスのドロップ品や宝箱のアイテムに絞っていた。
正に厳しい生活費を支える伴侶の鏡のような生活であった・・、研究者なのに。
それなのに今日・・、恐れていた事態が発生してしまったのである。
ダンジョンの素材を今日明日は売らなくても、少しの間は大丈夫ではある。
しかしこの先の生活を考えると不安は募る。
今取れる手段は二つである。
一つは、上級や最上級ダンジョンに入る事である。
サウス市周辺は、ダンジョンと砂漠と荒野の地方。
実際に魔法や魔法陣を試すには絶好の場所でもある。
スキルに似せた身体強化や肉体強化、武器防具強化のための魔法や魔法陣の研究。
物理攻撃防御の魔法や魔法陣の性能向上、種類やパターンを増やす事に余念が無かった。
何度も繰り返し、初級中級ダンジョンで実験を繰り返してきた。
防御の面では何時でも上級や最上級ダンジョンに挑戦する事が出来るが、流石に攻撃魔法無しではダンジョン攻略は難しいと考えている。
身にかかる火の粉なんてドンと来いなら、どんな所でも行ける自信はあるが、新たな稼ぎ方を見つけるまでは、手を出すべき状況では無い。
そうなると二つ目にして、最後の手段かと考えるに至ってしまう。
「盗賊稼業・・。あっ、ギルドに登録しないから野盗か」
踏ん切りがつかない言い訳に、どうでもいい事を考えてしまう。
「はぁー、我は求める。わが知識の泉から答える者を。【助言】」
『質問をどうぞ』
「どうしたら良い?」
『問題定義が不十分なため、回答不可』
また【助言】に、愚痴を零す・・。もうぼっち対策魔法で良いだろう。
『精神的打開策の提案』
「打開策? 野盗のか?」
野盗に身を落とす事、魔法の悪用に対してどのような打開策があると言うのか。
『肯定。魔法実験と割り切り』
「魔法実験? どういう事だ?」
『この世界で、侵入に対して最難関に魔法が通用するか』
「うむぅ・・」
確かに魔法悪用に対する、精神的負担を軽減するための言い訳である。
『そこで荷物の対価として徴収』
「・・・はぁ!?」
荷物? 対価? 徴収? 予想外の言葉に聞き直してしまう。
『国王との謁見に際して、預けて置いた荷物の代金として』
「やはり詭弁な感じはするが・・」
自分の研究成果が認められたのは素直に嬉しい。
嬉しいが、王宮に行かなければ平行世界移動も、金銭的苦労も無かった。
ついでに言うならば、持ち物も失う事も無かった。
「もし侵入するならば、王宮という事か・・」
良くは無いと分かっていても、責任を転嫁し自分の行動の正当性を認めてしまう。
「潜入系の魔法実験には、うってつけとは思える・・」
魔法研究には必要な事であると、無理やり自分を納得させる。
「まずは王都と王宮で、自分の事がどうなっているか調べる必要もあるか」
何やかんやと言い訳のため、理由付けをして王都行きを決める。
王都は既に行った事があるし、マーキングもしてあるので、簡単に【転移】出来る。
王都内では自分に関する噂や、王宮での出来事の話しは耳に入ってこなかった。
「(まぁ王宮への侵入は極秘扱いだろうな)」
当たり前かと納得すると、【隠密】の魔法を掛け王宮へと向かう。
事件から一か月が過ぎており、城門も開かれ、普段通りの営みに戻っている様だ。
衛兵の前をそのまま素通りし、衛兵の詰所や騎士団の詰所を回る。
「(警備の関係上、少しぐらいは話題になりそうだが・・)」
なかなか自分の求める情報は出てこない。
今度は国王の執務室の方へ向かうが、事務仕事ばかりでやはり自分の話は出てこない。
サインをする音と、用紙を捲る音が静かな部屋に響く。
そもそも会話らしい会話すら無いのである。
居た堪れなくなり、入って来ると同じように、秘書官らしき人と一緒に出て行く。
「(では最後に、宝物庫へ侵入を試みるか)」
軽く溜息を吐くと、宝物庫の方へ向かっていく。
【隠密】で誰からも見咎められる事無く、宝物庫に到着する。
これから鍵開けや罠外しと言った魔法を行って、宝物庫に侵入するのである。
実は鍵開けや罠外しの魔法と言うは存在しないのである。
前の世界で行われた、魔法悪用例を簡単に説明しよう。
1.住人を魔法により無力化。
2.金庫の扉を魔法により消失。
これだけである。
家には警報の魔法はあるし、住人も魔法で抵抗をするだろう。
金庫には魔法による結界などの守りは十二分にされている。
それらを突破出来ない場合は、逃げるか捕まって死刑となる。
それだけである。
しかし王宮でしかも宝物庫の扉を壁ごと消し去れば、直ぐに大騒ぎになってしまう。
では、ザルトーニュクスはどのように鍵開けや罠外しをやるつもりだろうか。
「(さて魔法で上手く鍵開けが出来るか)」
やはり自分の研究の成果を試せるのは嬉しいのだろう。
やっている事の善悪は置いておいて、表情は生き生きとしている。
先ず壁に両手を付いた状態で、魔法陣を起動する。
「(【透過】起動)」
この魔法により、壁の部分だけ透過して宝物庫全体を見る。
「(透過した物を、イメージとして描け【仮想模型】)」
頭の中に、宝物庫が模型として描かれる。
「(正しい鍵を見つけ出せ【主鍵】)」
頭の中で、透過しながら鍵の機構を調べ正しい鍵を作り上げる。
これがザルトーニュクスの考え出した方法である。
当然考えただけでは無く、何度も魔法実験も繰り返してきた。
練習台となった鍵付きの扉や宝箱は、中級ダンジョン以降に良く現れるため、素材集めと合わせ、練習台には打って付けであった。
「(流石は王宮の宝物庫。容易では無いな)」
そして頭の中なので失敗しても全く影響が出ない。
だが最終的に見つけ出すのは自分なので、非常に根気と忍耐と時間が掛かる。
実際に二度ほど城の役人によって、宝物庫が開け閉めされた程である。
「(どうやらこれが【主鍵】になるか)」
ふーっと深く息を吐き出すと、感慨深そうに呟く。
鍵の解析が終了すると、【仮想模型】で何度か開閉を繰り返し、問題がない事を確認する。
ただ、このまま扉を開けてしまえば、傍にいる衛兵に気付かれてしまう。
「(偽りの姿を示せ【幻影】)」
まず扉が閉まった状態が見える様にする。
続けて、扉の開閉の音を消す様にする。
「(周囲の音を掻き消せ【無音】)」
これで傍にいる衛兵には気付かれないはずである。
「(扉よ開け【開錠】)」
【開錠】は、【主鍵】と連動して実際に鍵を開ける魔法である。
魔法を起動すると、罠が発動する事無く、宝物庫の扉が開かれる。
【透過】する前、ザルトーニュクスは、宝物庫と言うのは金銀財宝が山の様に置かれている部屋を想像していた。
つまり一枚ぐらい失敬しても、分からないだろうと考えていたのだ。
しかし宝物庫の中は、きちんと綺麗に整理整頓されている。
棚の上の箱の中には金貨が、きちんと決められた枚数で納められている。
宝石も仕切られた箱の中に並べられている。
奥の方では武器や防具、アイテム等が整理されながらも所狭しと並べられていた。
「(これは無くなったらすぐにバレるんじゃないか?)」
バレるも何も出納担当者の不正を防ぐために、毎日決められた時間に、複数の人間がチェックしているのだからバレないはずはない。
最も偽物と入れ替わっていれば、簡単には調べきれないとは思うが。
極力騒ぎを起こしたくないし、起きたとしても出来るだけ時間を稼ぎたい。
手持ちの銅貨に先程使った【幻影】の魔法を掛ける。
魔法によって出来た偽金貨と、金貨を一枚だけ交換する。
金貨一枚とは、贅沢しなければ、普通の一般家庭の一年分にあたる金額である。
宝物庫の扉を元の様に戻し、【幻影】と【無音】の魔法を解除する。
複雑な気持ちで手にした金貨を弄びながら王宮の出口へと向かう。
城門へ向かう途中で二人の騎士とすれ違う。
背中に視線を感じて何気なく振り返ると、騎士の一人も振り向いており、目が合ったような錯覚を受ける。
驚きを押し殺し、慌てず騒がずそのままゆっくりと進んでいく。
騎士の視線はそのまま動かず、見えない何かを探るかの様子。
「どうされました、スマラクト騎士団長?」
もう一人の騎士に声を掛けられるが、しばらくザルトーニュクスが居た所を見つめ続ける。
「・・・いや、気のせいであった。何かが居た様な気がしたのだが・・。
侵入者の件で気が昂っていた様だ」
軽くい詰めていた息吐くと、小さく首を左右に振って応える。
「そうでしたか」
もう一人の騎士の声に、向きを変えそのまま立ち去って行く。
「(騎士団長・・ね。あのクラスとなると気付くのか)」
【隠密】は、自分の姿、熱、音、匂い、気配まで隠す事が出来る魔法である。
魔法や魔力の探知が出来れば簡単に気付いたり見つけられるだろう。
しかしこの世界では魔法は存在しない。
考えられるのは、自分の動く事で起こった僅かな空気の流れ位である。
その様な違和感に気づくと言うのは、並大抵の技量では無い。
「(中々に良い収穫だな)」
ザルトーニュクスも振り返り、出口へと向かう。
気付かれたと言うのに、頬が緩むのが抑えられないと言った様子であった。




