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秘密基地で遊ぼう  作者: まる
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秘密基地を失う

秘密基地を失う




====================


宅地開発で公園が無くなると知った時、無性に悔しく無かったかい?


====================






「で、やって来たわけだが・・」


かつて自宅があった場所に辿り着き、自宅があるべき場所の前で佇んでいる。


「しかし、見事に全く違った建物になっているな・・」


腕を組みうんうんと頷いては感慨深そうに呟く。


自宅は別の人の持ち家となっている様で、外観は全くと言って良い程変わり果てている。


組んでいた左腕を顎に持っていき、何かを考えるかの様に視線を巡らす。


「まぁ、同じようだとは思うが・・」


先程までやっていたチョットした遊覧飛行との疲れと相まって溜息を吐くと、別の場所へ足を向ける。




一縷の望みを掛けて向かった先は、自分の研究施設である。


「ものの見事に何も無くなっているな・・、はぁー」


一階平屋とは言え、石造りのかなりの広さと頑強さを兼ね揃えていた研究所は、単なる更地となっている。


一見冷静そうに見えるが、先祖代々受け継いできた資料や設備、長年の研究成果を、一瞬にしてすべて失ったショックは流石に隠し切れない。


深く溜息を吐くと、これからどうするかと頭をガシガシと掻く。






少し時間を遡る‐




「さあ、どうするー。このままこの地下牢で朽ち果てるのかー」


言葉とは裏腹に、牢のあちこちを調べたり、柵の向こう側を覗き込む。


「きっと死刑を宣告され、斬首にされるのだー」


完全に棒読みのセリフを言いながら、腕を組み視線を漂わせる。


「・・・・・」


ザルトーニュクスが黙り込むと、息遣い一つ聞こえない沈黙が訪れる。

流石に誰かの答えを期待した訳では無いが、独り言は悲しい物である。


「はぁ・・。自分の演技力の無さを確認した所で出るとするか」


ちょっとそこまで、といった気軽な感じで脱出を宣言する。


もし傍に誰かいれば、イヤイヤムリムリと失笑してくること間違い無しである。

この世界の住人であれば・・。




「我をいかなるモノからも隠せ。【隠密】」



【隠密】とは、自分の姿、熱、音、匂いはもとより、気配まで隠す事が出来る魔法である。

優秀な魔法の様であるが、探索系の魔法の前では、子供だましにもならない。



「我、望む地へ。【転移】」


そのまま、檻の目の前に【転移】する。


【転移】の条件は、一度行った事がある場所である。

檻の目の前の廊下は、当然一度行った事がある場所に該当する。


また目の前への転移は、見えているだけに全く問題ない。

ただ一歩踏み出せばいいだけの事に対して、無駄が多く誰もやらないだけである。


魔法の掛かっていない場所からの脱出には、このように非常に有効な手段となる。






まずは本来預けていた持ち物の回収へと向かってみる。


国王陛下の前に出る以上、謁見の間に私物を持ち込む事は許されるはずも無く、控室に置いて来たのだ。


とは言っても【転移】魔法の結果から、こちらの世界に来たのは自分の身一つの様なので、多分無いだろうと考えていた。


「(びっしりと蟻の入る隙間も無しか)」


そこには衛兵が嫌と言うほど居て、荷物があったとしても諦める他無かった。


愕然としていたため記憶に無いが、先程の尋問の中で、控室に荷物があると答えたのかもしれない。


【隠密】を使っている限りは見つかるとは思えないが、万が一人にぶつかったり、物が消えたりすれば大騒ぎになるだろう。


仕方無いと溜息を吐くと、脱獄がバレていない今の内に城から脱出する事にする。






侵入者があったためか、騎士や衛兵がひっきりなしに王宮内を行き来している。

一応コソコソと進んでいくが、すれ違う誰からも見咎められる事は無かった。


そのまま城門と思われる方向へ、若干道に迷いながらしばらく進むと、固く閉ざされた城門へと辿り着く。


「(ふむ、魔法や魔力を探知する事は出来ないか)」


やはりと言うべきか、魔法で姿を隠した自分を見つける術がない事が証明される。




グルッと王宮の城壁に沿って一周すると、食材などを運び入れる小さい門が開いているのを見つける。

ただし、警備はかなり物々しいものとなっていた。


「(もし見つかっても、逃げるだけなら・・)」


簡単に決めると、荷車の行列をかき分ける様に通り抜けて行く。


「(全く。実験にもならないな・・)」


余りにもあっさりと抜け出せた事に、物足りなささえ感じた程だった。






王宮を抜けた先の王都の町並みは、来た時と変わった様には見えない。


とは言え、暮らすどころか滅多に来る事の無い王都の変化など簡単には分からないが・・




仕方なく、まず先に目指すは自宅という事で王都を脱出する事にする。


【隠密】状態であれば問題は無いが、周囲に人がいない事を確認し魔法を起動する。


「我に天高く舞し羽ばたきをもたらせ。【飛行】」



【飛行】魔法は、その名の通り空を飛ぶための魔法である。


ただし前の世界では、未熟な者同士の激突や、飛行する魔物と誤認され撃墜されると言った事故が多発し、無暗に飛ぶ人はいなかった。


ちなみに【隠密】は、発見次第、使用者を殺して良い法律になっていた。

どのような理由であれ【隠密】の使用を許せば危ういからだ。

とは言っても、物理的に隠すだけで、魔力はダダ漏れなため良い標的なだけである。



そして自宅のある町まで、空からこちらの世界を眺めて行く。






前と同じであれば、アブリセイブ大陸は端から端まで歩くのに、一か月は掛かる。


人が一日歩けるのが歩数にして4万グラドゥス(32km)位だ。

グラドゥスはこの世界の距離の単位で、人の一歩=80cmで表される。


1日は昼8時間、夜8時間の計16時間。


8日で1週間、8週間(64日)で1か月、8か月で1年(512日)である。


アブリセイブ大陸の中央に王都があり、東西南北の端と王都のほぼ中間位までが人の生活圏であり、そこから先は殆どが未開の地となる。


王都と大陸の中間点と、王都の中間に都市が存在する。


名前を付けた人の趣味か分からないが、イースト市、ウエスト市、サウス市、ノース市と言う名前である。


他の町の付け方も同様で、例えばイースト市の北にある町であれば、イーストノースの町、略されてイーノの町と言った具合である。


アブリセイブ大陸の気候や環境は、広大さ故か非常に偏っている。


ノース市の地方は水が豊かで、海にも面し、湖が多く、魚介類を特産としている。

イースト市の地方は殆どが山々で、宝石や鉱石といった物を産出する。

ウエスト市の地方は切り立った崖で、海と隔てられているが、常に天候に恵まれ、農業や酪農と言った物が盛んである。

サウス市の地方は、海とはウエスト地方と同じで切り立った崖で隔てられており、気候は厳しく砂漠や荒地が多い反面、ダンジョンが多く存在する。


ダンジョンは他の三地方の合計が6個で、それぞれ初級と中級が一個ずつなのに対して、初級2個、中級4個、上級2個、最上級が2個存在する。


ちなみに初級は10階層、中級は30階層、上級は100階層で、最上級はそれ以上というランク分けになっている。


自宅があるのはサウス市だったのだが、魔法の研究のため、上級と最上級のあるサウサの町の近くに研究所を構えていたのである。






【飛行】魔法は、術者の体に負担とならない速度設定となっており、精々歩く倍程度の速度のため、サウス市まで1か月ちょっと掛かってしまう。


上位の【飛行】魔法もあるが、他の魔法研究に明け暮れて修得してなかった。

魔法研究とは、当然お家芸である魔法陣の研究である。


「久しぶりだからうまくコントロール出来ると良いんだが・・」


自分に対して言うべきでは無い危険なセリフを呟く。


「【風圧障壁】【荷重保護】起動」


すると目の前に、二種類の幾何学模様が現れる。魔法陣である。

それぞれの魔法陣から、ザルトーニュクスを膜の様な何かが包み込む。



【風圧障壁】は、体に掛かる風圧を軽減する魔法である。

【荷重保護】は、体に掛かる荷重を軽減する魔法である。



何故、こんなに体を守る魔法を掛けたのだろうか。


「【爆推進】・・」


今度は自分の背中側に、サンドイッチの様に三枚の魔法陣が現れる。



【爆推進】は、文字通り爆発的な推進力を得る魔法である。



一度深呼吸をして呟く。


「起動」


ドン!という重低音を残してザルトーニュクスは吹っ飛んで行く。

後方へ流れる風景を見る余裕は無く、遥か先にある自宅がある場所へと向かう。


これが精神的疲労となるチョットした遊覧飛行と言う名の冒険の始まりであった。






失われた自宅と、研究施設の事で落ち込んでばかりはいられない。


一通り自分の居場所を確認し終えると、次になすべき事を考える。


「やはり先立つ物、金は必要になるか」


手荷物ひとつない状況で王宮を飛び出したのだ。

今日の宿ばかりか、食事を得る事さえままならない。


「やはりダンジョンの素材を得る事が、手っ取り早いんだろうな」


その考えに至ると直ぐに、ダンジョンに潜って日銭を稼ぐ準備を始める。




まずはサウサの町へ戻って、情報収集からである。


サウサの町並みは、前の世界と特に変わった所は見受けられない。

魔法で行っていた所を、道具を使っているといった違いはあるが。




まずは冒険者ギルドへと足を運ぶ事にする。


扉をくぐると直ぐに、訝しむ鋭い視線が向けられてくる。


「わが友となれ。【好感】」


用意していた魔法を起動すると、徐々に視線が和らぎ関心が薄れて行く。



【好感】は、魅了系の下位魔法である。

自分に好意を感じる、猜疑心を薄める、と言った効果がある。

前の世界では、こういった精神支配系の魔法は禁止とされていた。



そのまま窓口に居るギルド職員へ声を掛ける。


「ようこそ。サウサの冒険者ギルドへ」

「ザルトーニュクスと言います。ご相談がありまして・・」


前もって考えていた事を説明する。


上級ダンジョンで、丸裸で救出された。

怪我が原因なのか、記憶が無い。


前の世界でも、ちょくちょく耳にした話である。


「なるほど、それは大変でしたね」


【好感】の効果のため、疑う事無く好意的に受け止めてくれる。


「一通り教えて頂きたく」

「畏まりました」


周囲の人たちも、怪しむことなく受け入れている。




この世界の名前、大陸の形、都市の名前と位置関係は同じだった。


サウス市周辺をサウス地方と呼ぶのだが、ダンジョンはサウス市の北側に初級ダンジョンが2個、東西に中級が2個ずつ、南に上級と最上級と言う配置も同じ。




そしてダンジョンの情報から大きな違いが現れてくる。


「魔法を使う魔物は存在しますか?」

「魔法? 何ですかそれは?」

「火の玉を出したり、雷で攻撃したりする物です」

「はぁ? そんなこと絵本だけですよ。記憶が混乱しているのですね」

「すみません。そうかもしれません」

「記憶を無くされているのですから仕方ありませんよ。

毒や麻痺を持つ魔物は居ますが、魔法とか言う物を使う存在は居ません」


驚いた事にというか、当然と言うべきか、全てのダンジョンに存在する魔物は、魔法が使えず物理攻撃だけであるとの事である。


「色々とお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、何かあれば相談に乗りますから」

「リハビリを兼ねて、初級から挑戦してみます」

「不躾ですが・・、路銀とかは?」


丸裸で放り出されたのだから、心配してくれる。

まぁ【好感】の魔法による影響もあるのだろう。


「助けて頂いた方にから、援助いただきましたので」

「よい方に出会われたのですね。それなら安心です」

「色々とありがとうございました」


ザルトーニュクスは、ギルドを出てしばらくすれば大騒ぎになると思っていた。

【好意】の魔法の効果が切れれば、違和感に気付くはずだからである。


実はここにも魔法の有り無しの影響が出てくる。


人間関係を築く上で、第一印象とは非常に大切なの物である。

そして一度受け入れてしまえば、余程の事が無い限りその関係なく続く。


【好意】の魔法の効果と気付かない限り、この友好関係が継続される。

とはいえギルド職員と冒険者など一期一会、別の意味で関係性は直ぐにリセットされてしまうのだが。






【飛行】に【爆推進】で、サウス市の北側、初級ダンジョンへと向かう。




「まずはと・・

我を敵の刃から守りたまえ【鉄壁】

我に戦う力を【強化】

我を悪しき力から守りたまえ【抵抗】

我敵を知らせよ【探査】

こんなもんか」


物理防御、肉体強化、毒や麻痺防御、探索探知の魔法を掛ける。


「念のため、我を敵の術から守りたまえ【障壁】」


ギルド職員に無いと断言されているが、最後に魔法防御の魔法を掛ける。


「さあ、行ってみるか」


研究心が疼くのか、ウキウキワクワクと初級ダンジョンへ入って行く。






結果から言うと、1時間程でクリアしてしまう。もう一つの方も同じであった。


結局、魔物たちは魔法が使えなかった。

敵が魔法を使えないと分かれば後は非常に簡単であった。


【探査】の魔法で、魔物を見つければ、魔法による遠距離攻撃。

【鉄壁】による物理防御を破れないならと、ひたすら集めて、範囲系の魔法。

ダンジョンボスに至っては、物理障壁の壁で囲っての魔法攻撃。


通常こんな事をすれば、あらゆる有益な素材が駄目になってしまう。

では何故このような事をしたか・・、それは最初の戦闘での出来事であった。




初戦という事もあり、慎重に行動する。


【探査】で魔物を確認すると、魔法を起動する。


「風の刃よ【風刃】」


出来るだけ魔物を傷つけない様、スパッと首を飛ばす。

これは魔物から得られる素材の質を下げない処置である。


ここで前と今の世界の大きな違いが発生する。


前の世界は時空魔法があり、魔物をそのまま収納出来た。

そして持ち帰ってから解体する必要があったのだ。


「えっ!? 魔物が消えた・・」


それに対して、こちらの世界は魔物は煙の様に消えるのである。


「どうやって生活しよー」


棒読みのセリフとは裏腹に、その場に残された石に視線が向けられていた。




時空魔法が無ければ、魔物をそのまま外まで運ぶ必要があり、非効率である。

解体したとしても、持ち運ぶ量には限界がある。


魔法の有り無しが原因かは不明だが、魔物は煙の様に消えると、その場所にアイテムだけを残す事を知ったのだ。


必ずドロップする訳では無いが、素材への影響を考えなくて良いなら、後は魔法が使い放題、魔法による殲滅戦である。




そのまま中級ダンジョンへ向かい、物理防御の強化と重ね掛けで強固にした位で、左程変わらない時間でクリアしてしまう。


「これで一応は生活の目途がたったか」


つかの間の安ど感に包まれながら、初級ダンジョンの町、サノの町へと換金に向かう。





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