檻の中
檻の中
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一度でいいから檻の中に入ってみ無くない? 経験したくは無いけど。
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特に哀愁の思いと言う程では無いが、燻製会社とそこで働く人たちが気になってしまった。
どうしようかなー、寄ってみようかなーと思い立ったのは良いのだが、ワンクッション欲しくなりグルナート商会へと顔を出す。
「いらっしゃいませ、ザルトーニュクス様」
「何時もの納品いいかい?」
「ええ、構いませんよ」
素材を受渡ししながら、ふと思った振りをしてコラレに聞いてみる。
「そう言えば、俺が支援した店って経営の方はどうなんだ?」
「本当に今更とう感じですね・・。
ザルトーニュクス様の店は、そうですね・・」
二人の言葉にニュアンスの違いが現れているが、お互い気付いていない様子である。
「最近始めた、魔石加工店は正直厳しいですね。
ザルトーニュクス様の持ち込まれる魔石でトントンといった所です」
クズ石では名前が悪いと、魔物が持つ石で魔石となったらしい。
「あちゃー、そっか・・」
掌を額に付けて天を仰ぐ。
やはり無理にでも止めておくべきだったと後悔。
「いかんせん材料が手に入りにくいですからね。
それでも常に予約待ちの状態なのですが、もうぶっちゃけ宝石より価値がある位になってます」
コラレとしては、素材が無くて店を続けられないと言いたかったのだが、後悔の念に捕らわれているザルトーニュクスには全くと言って良い程耳に入らない。
「反対に素材屋と燻製商会はもうウハウハ状態ですよ」
「何だ、その素材屋っていうのは?」
聞きなれない言葉に、思わず妄想状態から帰って来る。
「持ち込まれている素材の卸業の事です」
「そうか・・」
今度はガックリと項垂れると、もう好きにしてくれという感じになる。
素材に関しては魔石のように加工という段階なしに持ち込めるため、十分な量が持ちこめている。
燻製の方も試食した限りでは、新しい味に触感などまず売れない事はないのだろう。
「それから商会救済基金ですが」
「そういう名前だったんだ、あの投資・・」
「自転車操業状態ですね」
「うゎー」
「正直、貸し付けて、戻ってきたら、また貸し付けての繰り返しですからね」
ザルトーニュクスは、無期限無利子無担保のつもりだったが、グルナートが返済後は、低金利貸付機基金として僅かに利子を取っているため、少しずつプラスではあるのだ。
実際にはこの基金のお蔭で、大商いが出来る商会が増えかなり活性化している。
コラレの言い方にも問題はあるが、プラスのスパイラルという意味での自転車操業である。
「少しあぶく銭が入ったから、預けておくか・・」
「余裕があるなら助かると思います。
素材屋と燻製商会の分も回したら、なお助かると思いますが、如何ですか?」
「そうだな、一言言っておくか」
此処にも発案者の意見と社長としての意見いう温度差が出ているのだが、お互い全く気付かない。
商会救済基金の事で商業ギルドへ行くと、グルナートにそのままヤーデ町長の所へと連れて行かれる。
「・・何故?」
「色々あるのですよ」
「面倒な・・」
町長の執務室の壁は直されていた。
壁を眺めている時に、一枚の羊皮紙が突き付けられる。
「壁の修理の請求か? あれはもう支払済みの・・」
「違う。ノーイの町の一件は覚えているかね?」
「ん? あぁー・・、買占めうんたらかんたらの事か?」
「その時の報酬と、町長の私財に犯罪奴隷の報奨金です」
「どういう事なのかな?」
今更、町長の奴隷落ちの報奨金が渡されてもさっぱり分からない。
「あの事件の根っこの部分では町長もグルだった」
「・・あっ、そういう事。よく分かったな」
「あなたへの報奨金のピンハネが切っ掛けですよ」
グルナートが、町長の言葉を補足する。
「綺麗事だけでは町長はやっていられん。
役立つモノへの正当な評価には、多少の事に目を瞑る必要もある」
「そういった難しい話は、余所でやって欲しいんだけど」
政治的な駆け引きなど、ザルトーニュクスにはお手上げである。
そのまま羊皮紙をグルナートへと渡す。
訳が分からず手に取り、怪訝な表情になる。
「そもそも今日、商業ギルドに行ったのは商会救済基金の事でな」
「それが何か?」
「今回の報奨金を受け取る権利は無いと思っているが、あーだこーだと揉めるのも面倒だし投資に回した方がすっきりする」
「よろしいので?」
ヤーデとザルトーニュクスは知らんぷりをしている。
「分かりました。運転資金に回すよう致します」
苦笑いで溜息をつくと、グルナートは羊皮紙をそのまま懐にしまいこむ。
そこへ秘書が入室し、ヤーデへ報告書を手渡す。
流石に不味いかと、目を通している間はと二人は追加で話を進める。
「それから素材屋と燻製会社の利益も回した方が良いんじゃないか?」
「そこまでして頂かなくても」
犯罪奴隷の報奨金の殆どを預けられているため、運用資金はかなり膨れている。
「金というのは眠らせるのではなく、動かしてこそだろ?」
「確かにその通りではありますが・・。
分かりました、では余剰分は基金の方に回すという事で」
「それから、あぶく銭が入ってな。銅貨一枚でも足しにはなるだろう?」
「お預かりします」
銅貨と言って差し出された皮袋を笑顔で受け取るが、中身が金貨である事に「・・またですか」と言ってそのまま固まる。
時折商会カード経由で、かなりの大金がちょくちょく入金されているのは知っていたが、こうやってじかに手渡されると唖然としてしまう。
そんなグルナートに気付かない振りをして、こっちの要件は終わったぞと町長に声を掛け帰る事にする。
「じゃあ帰るが・・。どうした深刻そうな表情で?」
「いや・・、行方不明者の報告書でな。どうしても幾人かは出てしまう」
黙って帰るのも悪いと思い渋顔に問いかけると、首を振って答えてくれる。
「ん? どう言う事だ?」
「冒険者が依頼を受けたまま帰ってこない事は良くある事だ。
商人だって事故か事件に巻き込まれてしまう事だってある」
「何か手を打たないのか?」
「勿論、手は打っているがすべて後手に回ってしまうのが現状だ」
言い訳と取られても仕方がないが、人手も資金も限りがある以上どうしても優先順位が存在する。
「ふーん、内訳は?」
「ん? 内訳とは?」
「何時、何処で、誰がっていう内訳だ」
秘書を呼び、行方不明者の詳細な情報を持ってくるように命じる。
町長の仕事は多い。事務仕事だけでもかなりの量となる。
書類をまとめる段階である程度情報が取捨選択され、後ほど気になった案件の詳細な情報を求める形になるのはやむを得ない事だろう。
「何か引っかかる事でも?」
「ちょっと前に、人身売買の連中に遭遇した事があって・・」
カッと目を見開く町長の顔に、しまったと口に手を当てるがもう遅い。
「なんか忙しそうだから帰るよ」
くるっと振り向いて急いで部屋を出ようとするが、ガシッと肩を掴まれ引き戻される。
「詳しく話を聞かせてもらおうか?」
おっさんにえらい怖い笑顔で壁ドンされ、洗いざらい先日の出来事を喋らされる。
ザルトーニュクスからの情報と、秘書からもたらされた資料から、町の外での冒険者の行方不明はまだしも、街中で女子供が行方不明者がいる事が分かる。
「流石に我らの調査意識が低かったと責められても何も言えん」
「まぁ、これから頑張ればいいんじゃないか?」
自分の力不足を嘆くヤーデに、慰めにならない慰めをする。
ヤーデはすぐさまノース市長へと連絡、ノース地方での詳細な調査が開始される事になる。
そんな騒ぎの中では、流石に燻製商会への訪問はまた後日となるのは仕方のない事であった。
別に忘れた訳ではないし恥ずかしくて行きたくなかった訳じゃないと心の中で言い訳をする。
逃げるように再び雲隠れしたザルトーニュクスのマイブームは、今の世界に適した魔法の研究である。
その研究成果を試すために上級や最上級ダンジョンへ潜る事も増つつあった。
素材集めのためには初級や中級ダンジョンへ、魔石はそのまま魔石研究所で実験や合成に使用される。
そろそろグルナート商会へ素材を納入しようかなーとは思うのだが、先の人身売買の一件で、どうも立ち寄りがたいものがあった。
問題の先延ばしをしつつ、せっかくの自宅に用意した台所が、未だ使われていない事に食材を求めてサノの町を彷徨っては結局の所外食で済ませる毎日だ。
夜の町でとても嫌な物を見る、正確には気付いてしまう。
「やれやれ・・、どうしてこう気が付いてしまうのだろうか」
人とは一度気になった事に対して無意識でも、違和感を覚える事を改めて痛感する。
人工的な明かりの少ない今の世界では、人は明るい内に活動をする。
これは作業効率及び、安全性に格段の違いがあるからである。
それなのに暗くなってから夜にこっそりと動く者たちは、それなりの事情を抱える。
勿論、冒険者は夜動く魔物もいるし、暗い方が集めやすいアイテムもあるだろう。
商人としても時は金なりで、商売のチャンスに緊急に出立する事もあるだろう。
一概に夜動くイコール犯罪では無いとは思いつつも、先の魔薬組織や人身売買の件から、魔法を使う事にした。
「我目に見通す力を【透視】」
一応プライバシーに配慮して、地下の家を作る時に使った魔法陣で使った魔法の【透過】では無く、【透視】という別の魔法を使う事にする。
【透視】は遮蔽物を透過させるのではなく、音波の反射、熱、などの情報から統合的にこんな感じという物を見せる魔法である。
そして荷の中身は、人間である事が分かる。
「うわぁ・・、やっぱり重なる時には重なるんだな」
自分の運の悪さと引きの強さ、無意識の気付きという大きな存在に驚嘆する。
今の世界では奴隷は首輪をして、証文を持った主人と一緒でなければ町の外には出られない。
証文も、本人、主人、公的機関の第三者の最低でも三人のサインが無い物は無効である。
流石に【透視】では首輪の有り無しまでは分からないが、わざわざ荷を隠して夜出立などまともとは考えにくい。
「どうやって町の外に出るつもりだ?」
ふと、どうやって町の外に出るのか見てみたくなり様子を見る事にする。
荷車は堂々と衛兵に近づいて行く。
すると突然飛び出してきた酔っ払いとぶつかりそうになり、喧嘩を吹っかけられる。
衛兵に助けを求め、酔っ払いは衛兵と揉め、衛兵はそのまま門の外へ出る様に支持する。
「なる程、このパターンね。というか衛兵、温くないか?」
酔っ払いはしばらくすると酔いが醒めたのか、衛兵に平謝りして去る。
一息ついた様なので、衛兵に声を掛けてみる。
「今みたいな事結構あるのか?」
「ん? まぁ、冒険者が多いからな。いちいち捕まえていたら、町として成り立たないし、牢も足らん」
「いや、荷車の方だが」
「ああ、誰か守りながら酔っぱらいを捌くと万が一という事もあるし、さっさと行かせてしまった方がこっちとしては気が楽なんでな」
「ふむ、そう言う事か」
「それがどうかしたか?」
人攫いの面々は、町々の特性を良く掴んで対応しているという事だろう。
「うーん、さっきの荷車の荷な」
「うん?」
「人間だったぞ」
「なっ!?」
自分が動くより、きちんと資格を持った衛兵の方が良いと思い伝える。
「追い掛けるとか、仲間に連絡するとかした方が良いぞ?」
「まさか。そんな事を言って我らを騙して、お前が何かしようと企んでいるのだろう!
捕まえられて牢屋にぶち込まれたくなければ、とっとと帰れ、帰れ」
シッシッと手で払いのける動作をする衛兵に、適当にはいはいと町の中へと戻ると【隠密】と【飛行】を起動して先の荷車を追跡する。
直ぐに荷車に追いつくが、荷車は止まる事無く先へ先へと急ぐ。
町からひたすら離れるように、夜通し進むのかと思っていると、やっと荷車が止まる。
【飛行】のみ解除して、彼らに近づき会話を盗み聞きする。
「しかし今回もうまくいったな」
「イーストの方の連中はしくじったみたいだけどよぉ」
「此処まで来れば、あとは王都の悪徳商会の蝦蟇※に届けるだけか」
※プライバシーの配慮から、音声と表記を変更してお届けしております。
その声が聞こえたのか、荷車からすすり泣く声が聞こえる。
ザルトーニュクスの頭にウノの町のトラウマが蘇り、無意識に戦闘モード魔法が起動される。
「悪いが今の話をもっと詳しく聞かせて貰おうか?」
「なっ!?」
荷車の中の者たちは、突然の会話とほんの一瞬争う音に驚き、その後の何やらブツブツと独り言に自分たちのこれからに絶望を感じ取る。
直ぐに自分たちに被せられた覆いが取られ、見た事の無い人が声を掛けてくる。
「直ぐに家に帰してあげたいんだけど、明るくなってからの方が安全だから。
今の所はゆっくり休んでいて」
本人としてはかなり優しく声を掛け、笑顔を向けたと思うザルトーニュクスだった。
しかし怯える女子供にどれほどの効果があったかは、被害者しか分かりえないのだが。
ちなみにつかまっていた女子供の聞いていた、ブツブツと言う独り言は、今後の方針を仮初の恋人【助言】に相談していた声である。




