香辛料の市場
香辛料の市場
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店先に並んだ香辛料って、何だかワクワクしない?
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グルナート商会に素材を卸した後、ウノの町の商業ギルドに顔を出す。
トラブルは御免こうむりたいが、どうしても距離によるタイムラグが出てしまうため、町長からの伝言があるかどうかの確認をしなくてはならない。
「ザルトーニュクス様、町長から戻られた顔を出す様にとの事付です」
ほらやっぱりと思いながらも、職員に礼を言って町長の所へと向かう。
「呼び立てて悪かったな」
そう言うと、皮袋を差し出してくる。
「んっ? これは?」
「やっと片付いてな、遅くなったが犯罪奴隷の報奨金だ」
「貰ってもいいのか?」
「当然だ」
有難くと受け取ると、町長がこれからの事を聞いてくる。
「ノーウの町へ戻るのか?」
「いや、特に決めていないが」
「なら、ウウの町は近づかない方が良い」
「何かあるのか?」
確かな情報では無いのだがと断ってから話し始める。
「冒険者がな、魔薬による狂暴化で住人を襲ったという噂と、ウウの町は香辛料の町なのだが、荷が奪われているという情報に対して、物流量に変化が無いらしい」
ウウの町は香辛料の町ではあるが、ダンジョンの町でもある。
どちらかもしくは両方に絡んでの犯罪の話は尽きない様だ。
「何かあると?」
「肯定も否定も出来んな」
「ふむ・・、情報に感謝するよ。危険には飛びこまない様にしないとな」
口に出した言葉と、全く反対の考えが頭にはあった。
町の噂で無なく、町長の口からという所に何となく作為を感じもしたが。
ウノの町を出て、ダンジョンと魔石研究所を往復しながら、仮想友人である【助言】に問いかける。
「どう思う?」
『回答に変化なし。ただし王都周辺に拠点の可能性が高まりました』
「理由は?」
『魔薬の供給です』
「密売人が魔薬をどこで手に入れやすいかという事か?」
『肯定』
本来は元締めとなる者から仕入れ、密売人はその町を殆ど動かないはず。
密売人が各地を回るという事は、魔薬の仕入れし易いという事だろう。
「まあ、ウウの町へ行ってみるしかないか」
その頃、以前にノース市に遠征を行っていたイースト軍の幹部が、ウエスト市市長の下を訪れていた。
「今回も良い訓練になった。快く軍の滞在を受け入れてくれた事を感謝する」
「いいえ、こちらも魔物や犯罪者への抑止力になりました。感謝しています」
「また訓練に訪れると思うが、その際にも頼む」
「こちらこそ」
南部地方へ向かう事を告げ、その場を後にする。
ウウの町の商業ギルドへ顔を出し、登録カードを見せて情報を引き出す。
「香辛料の買い付けに来たんだけど、何やらきな臭い噂が・・ね」
ギルドの職員も心得ている様で、小声で言葉短く教えてくれる。
「魔薬を使用した冒険者の狂暴化と、野盗による強奪殺人がありました。ご注意を」
「感謝する」
ギルド職員と言えど、その町の住人である。
町の悪い所は言いたくは無いが、同じ商人として庇護し合う立場でもありと、こう言った答え方しか出来ないのだろう。
町の中でも情報を集めると、噂を含めて同様な話の詳細が集まってくる。
上空で監視しながら、一人二役の【助言】に問いかける。
「依頼をこれ以上失敗できないと魔薬の使用か、使わなくても失敗で野盗化って、冒険者っての没落テンプレートでもあるのか? しかも今回は殺人まで」
二つの事件は、ノーノの町と同様の冒険者がらみと分かっての愚痴である。
『前回と同様であるなら、奪った荷を売り捌く共犯者が要る筈です』
ザルトーニュクスの愚痴をスルーして、一歩先の回答してくる。
魔法とはいえ自分自身の愚痴など、聞きたくないのかもしれない。
「そうだなっ・・と、見つけた。
強盗殺人をする連中だ。まずは救出してから追跡だな」
救出優先ですぐさま突入して、魔法と魔法陣を起動する。
「光よ、音よ、我敵を討て【閃光弾】
三重拡張、二重強化【煙幕】起動」
光系と音系の魔法の合わせ技で、一時的に相手を無力化する。
【煙幕】は文字通り煙幕なのだが、拡張の魔法陣で範囲を、強化の魔法陣で濃度を上げる。
そのまま商人を一気に野盗から引き離す。
「悪いが詳しく話している暇はない」
「えっ!?」
命が助かっただけでも良しとしてもらって、商人をそのままで放置して野盗を追跡する。
追跡すると野盗たちは、ウウの町では無く、ウサの町へと向かって行く。
何とそのまま町へ入り、商会の倉庫と思われるところへと搬入してしまう。
「・・これまた面倒な」
その場限りで見ると、冒険者は荷を運んでいるだけ、商人は受け取っているだけである。
「これなら最悪、死人に口無しでも構わないわけだ」
冒険者たちも何時ぞやと同様に、どこかの専属として支援を受けているのだろう。
調べた限りでは裏帳簿どころか、商人にとっては命と言える帳簿が一切無い。
帳簿類が無ければ現行犯で捕縛するしか無く、そうなれば商人は捕まらない。
『先のパターンにならって、現行犯逮捕に一人二人泳がせて一網打尽を提案します』
「やっぱり王道パターンなのか?」
『肯定』
「・・肯定されたよ。仕方がない、それで行くか」
冒険者崩れの野盗を監視し、タイミングを計って一人二人ワザと逃して残りを捕える。
本当に王道通りに商人の所へ駆け込み、報告をしている所へ突入しぶちのめしておく。
魔薬の所持確認のために、家探しをするが特にそのような物は見つけられない。
「やれやれ、今回も空振りか・・」
ちょっとガッカリしながらも、悪徳商人の私財と、今回は特別にグルナート商会への手土産として香辛料や砂糖を没収させてもらうのも忘れない。
その後、騒ぐ商人と冒険者たちをウサの町の衛兵に引き渡す。
「ご協力に感謝します。しかし証拠が少ないため裏取りに時間がかかりますのでご承知置き下さい」
「了解了解。帳簿類が無いから大変だよな」
「ええ。冒険者の方は間違いなく現行犯ですが・・」
「商人の方が濡れ衣とか言って騒いでいるんだろう?」
「はい。そこで後付けですが、ザルトーニュクス殿を内偵班と偽っています」
「・・あまり大事にしないで欲しいんだが?」
「すでに大事ですから」
此処まで来てしまったらきっちりと片付けるまで後戻り出来ないのだろう。
内偵役なので表に出ないと慰められつつ、犯罪奴隷の報奨金を受け取るまでの一連の手筈を付けておく。
「念の為、冒険者の拠点の方も差し押さ・・じゃない、確認しておくべきだな」
今回はウウの町とウサの町と、二つの町に跨っていたため、冒険者崩れの盗賊の拠点の方にはまだ手を付けていなかった。
彼らの荷物の隠し場所は、直接暴力と魔法で教えて頂いてる。
素材と魔石を集めて、手土産と一緒にグルナート商会へ行って、ウウの町でトレジャーしてと今後のスケジュールを頭の中で組み立てていく。
しかしこの行動はザルトーニュクスにとって最大の失敗であった。
ウサの町で魔薬に関する情報を集める事を怠ったのだ。
ザルトーニュクスは後に、この事を大きく悔やむことになる。
イースト軍の幹部がサウス市市長に挨拶に訪れる。
「ブルートシュタイン殿下、お久しぶりでございます」
「殿下は止せ、今は一市長に過ぎん。
他の者に言っても、誰も彼も一度は必ず口にする」
「はっ、申し訳ありません」
「詫びる必要は無い」
苦笑いで注意するブルートシュタイン市長に、深く腰を折る幹部。
「しかしこんなに早く各地を回るのは大変であろうに良くやる。
我らの軍にも見習わせたい所だな」
「軍というのは、本来は其々の地方を守るのが軍の務め。
我らの訓練の方が風変わりなのです」
自分のやっている事の方が特殊であると言う事で、ブルートシュタインを擁護する。
「確かに訓練の間に、イースト市に何かあっては本末転倒か」
「その通りです。それではしばしの間お騒がせいたします」
「うむ」
席を離れ、軍幹部は自分の管理する部隊の元へと戻って行く。
ザルトーニュクスは怪しまれない様に、人目の無い所で荷車を出す。
今回分の素材と、合成魔石と、香辛料、砂糖を乗せる。
「さてと。こんなもんで良いか
我に戦う力を【強化】
【軽量】起動」
自分の体を強化しつつ、荷車を魔法陣で軽量化して、町まで引っ張っていく。
魔法の無いこの世界で、収納系の魔法で素材を出す荷訳にはいかないため、このような手段を講じているのだ。
「コラレ、今いいか?」
「いらっしゃいませ、ザルトーニュクス様」
「ほれ、いつもの」
「いつもすみませんね」
ほぼ定期的に持ち込まれる素材とクズ石に、ホクホク顔のコラレである。
「あと今回はウエスト地方に行ってきたから、お土産があるぞ」
「へぇー、何です?」
ザルトーニュクスは、商会カードを持っており、かなりの金額を借り入れる事が出来る。
にも拘らず預けるだけで、今まで一度も借り入れをした事がないという。
という事は、素材をその場で売った代金での買い物したという事になる。
ダンジョン産の素材はすべて持ち帰って欲しい所ではあるが、せっかくのお土産にケチをつけるつもりはさらさらない。
コラレは頭の中で予想する。
ウエスト地方は農業や酪農が盛んで、土産で勧められるのは、日持ちの良い干し肉、干し果物、ナッツ類であり、漁業の盛んなノース地方の住民にとってはどれも珍しいが特に選ばれるのが・・
「運よくタダで手に入ってな、香辛料と砂糖」
「・・・・・・はぁ!?」
同量の銀貨で取引される香辛料、倍量以上の銀貨で取引される砂糖が、偶然?タダで?
こんな予想の斜め上の手土産なんか絶対にありえない。
「そんな訳ありますか!」
「入手経路は大きな声で言え無いがな」
その一言としーっというポーズで何となく察する。
潰れた店の商品や盗品が地域活性化として、分配されたり横流しされる事がままあるのだ。
「あーっ・・、何となく分かりました」
香辛料や砂糖は地方で取引される場合、普通は掌に乗る大きさの皮袋での取引なのに、ででーんと樽と箱が目の前に存在する。
土産と言っていたが、グルナート会長に報告しなければならないだろう。
死んだ目のままのコラレをそのままに、ウウの町へ徴収と向かう。
冒険者と言うのは明日を知れない命、その日のうちにパッと使ってしまう者が多い。
武器や防具の買い替え、修理のための貯金は冒険者ギルドが銀行の代わりをする。
しかし犯罪に手を染めている冒険者は別である。
いつ指名手配を受け、冒険者カードの使用停止となるか分からない。
そのため常に身に付けているか、何処かに隠しているものである。
冒険者崩れの野盗から暴力と【自白】でそう言った場所がウウの町の近くである事が分かっており、魔薬の確認と私財の没収に向かう。
「荒稼ぎしてたんだな」
隠し場所を調べると、結構な金額が出てくる。
奪った荷物はそのまま商会へ持ち込み、所持金は懐に入れていたのだろう。
「やはり、魔薬は出てこないか・・」
密売人は常に動いている以上、今回も外れであると予想はしていたが、あぶく銭で魔薬を手に入れ、自分で使用や売り捌く可能性もあった。
「はぁ、サウス地方まで移動したか」
そう呟くとウサの町まで戻り情報を集める事にする。
ウエスト地方は、天候に恵まれ農業や酪農が盛んである。
特にウサの町近郊は酪農に力を入れており、ウウの町からの香辛料と相まって、非常に肉料理が美味しいのである。
情報集めの目的もあり、わざわざ混んでいる店に入り順番を待つ。
一番のおすすめを注文し、出来上がりを待ちながら噂話に耳を傾ける。
ちなみに注文は食い逃げ防止のために前金である。
注文品と交換は出来上がった後に金が無いでは無駄になるので、これもあり得ない。
「お待たせいたしました」
笑顔で元気よく注文品を運んでくる女性店員。
突然、店の外が騒がしくなる。
「衛兵を呼べ!」
「医者を!」
女性店員と目を合わすが、「さぁ」という感じで首を傾げる。
興味を惹かれ、外に出てみると喧騒に包まれていた。
「まだ暴れているぞ、気を付けろ!」
暴れているの一言に、目を見開き駆け出すザルトーニュクス。
人込みをかき分け現場に着くと、まさに地獄絵図が待ち構えていた。
わが子を抱きしめる母親、母親に縋る子、その他多くの人が傷ついていた。
「我を敵の刃から守りたまえ【鉄壁】
我に戦う力を【強化】」
食いしばる歯から、絞り出す様に詠唱し魔法を起動する。
小銭を集めに行っていた・・
おすすめの肉を食べていた・・
ウサの町を素通りした・・
密売人は移動している・・
この世界での魔法は無敵・・
自分は何でも出来ると言う優越感か?
とんだ道化だ・・
目の前の光景に頭の中がグワングワンと回る錯覚。
自分一人で何でも出来るとは思わない。
しかし出来る事やるべき事をしなかった後悔は残る、深く深く・・
騒ぎの元凶である人物に近づく。
気付いた犯人は、手にした剣で切り付けるが【鉄壁】を破る事は出来ない。
腹部への一撃、くの時になった顔面へ一撃、10グラドゥス(8m)程吹き飛ばす。
しかし魔薬の影響により痛覚が麻痺しているのか、そのまま立ち上がると目についた人を襲おうとする。
一瞬で距離を詰め、顔を掴み地面に叩き付ける。
「荒ぶる雷の蛇よ【死紋】!」
雷に打たれたかのように、犯人の体がビクビックンと跳ねたかと思うと、今度は体が丸まっていく。
【死紋】は麻痺系の魔法の上位魔法と位置付けられており、【麻痺】は筋肉や神経を痺れさせるのだが、【死紋】は筋肉の活動電位を狂わせ強制的に拘縮させる。
いかな魔薬の影響であっても、筋肉の縮みに従って足が手が好き勝手に折れ曲がる。
猿ぐつわを咬ませ完全に無力化すると、懸命に処置をする人々を見守るしかなかった。
己の魔法の無力さを強く噛みしめながら・・




