穀物倉庫
穀物倉庫
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船に積まれた穀物のプールで、遊んでみたくない?
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ノース市市長の執務室へ挨拶に訪れた人物がいた。
イースト市にある軍の幹部の一人である。
イースト市は割と平和な時代にあっても、非常時を常に考え、定期的に大陸の各地に遠征訓練として出掛けていた。
「今回もイースト軍の遠征訓練への協力感謝する」
「いえいえ、こちらも軍が居ると言うだけで治安が良くなりますので」
「町周辺で野盗行為があったと聞くが、支援出来ずに残念であった」
心底残念そうな表情で伝えてくる軍幹部に、微笑み返す市長であった。
ザルトーニュクスは、縦横高さがそれぞれ10キュビット(480cm)の部屋に一人立っている。
部屋は随所に設置された灯りの魔石で十分な明るさが保たれている。
同様に風の魔石できちんと呼吸が出来る様にも配慮されている。
ここは先日、サウス市とサノの町の中間点ぐらいの地下に作られた魔石研究所である。
特徴は床に描かれているのは、魔石を合成するための魔法陣である。
前の世界では、魔石は貴重なため、一対一で丁寧に、時間を掛けて、失敗が無い様に念入りに準備に準備を重ねて合成が行われていた。
今の世界はもう掃いて捨てるほど手に入るので、10個単位とか纏めてドンと言う感じで合成していく。
魔石の特性や組み合わせなど、次々に新しい研究成果として出来上がっていく。
グルナート商会への手土産として、加工できる大きさで、透明度はピンからキリまでの合成魔石と、合成用の魔石を得るついでにドロップした、かなりの量の素材を持参する。
ノース地方の魔薬追跡の一時終了と、合成魔石の受け渡しで半月ぶりにノーウの町に戻ってくる。
グルナート商会へ顔を出すと、有無を言わさず商業ギルドへ連行される。
久しぶりに見るグルナートの、怒りの笑顔に頬を引きつらせる。
「・・ノーノの町で、随分とやらかしてくれたようですな」
「ノーノの町? はて?」
突然の事に何の事か分からない。
「勝手に商会救済基金を向こうの町もカバーする様にして。しかもこちらに丸投げとはどういう事ですか?」
「あぁー・・。やむにやまれず?」
嘘や隠しだてのつもりはなく本当に忘れていたのだ、丸投げなのだから。
それを聞いて、ふぅーっと深く息を吐き出すグルナート。
「せめてその時点で、一度戻って来て下されば」
「向こうのギルド長が上手くやるって言うから・・」
「それはそうでしょうね」
ザルトーニュクスは、商人でもないし、商業ギルドに詳しい訳でも無い。
あの場で他に何が出来たかと言われれば、何も出来なかったであろう。
下手に丸め込まれて、不利な契約をさせられなかっただけましという物だろう。
「他には無いでしょうな?」
「ノーイの町では追い出されたから、何もしてない」
「追い出された?」
グルナートの質問に、ノーイの町の出来事を聞かせる。
「なる程、そうでしたか。なら一安心ですな」
「だろうだろう、そうだろう」
軽口を冷笑で受け流されてすぐに黙ったが、グルナート自身が一安心と言っているにも関わらず、少し何か違った雰囲気を感じ取り首を傾げるザルトーニュクス。
「それでは、魔石商品について話を詰めましょう」
「やっぱり・・やるのか?」
「勿論です」
続けて投資はしたが、本格稼働する前に辞めさせる方向に是非持っていきたい。
あくまでもお遊びだった物が話が大きくなり、何となくだが自分に火の粉が降りかかるような気がしているのだ、絶対に必ず。
「なぁ、身内位にしておけないか?」
「身内、ですか?」
「そうそう。ノーウの商業ギルド会員証ですみたいな感じで」
「ふむ、それもまた良いアイデアですな」
グルナートはウンウンと頷き、手元の羊皮紙に何やら書き加えて行く。
ノーウの商業ギルド会員が、魔石のアクテサリーを付けて各地を回れば、これ以上の宣伝効果は無いであろう。
ギルド会員向けとしてしばらく作る事は、職人の良い訓練にもなる。
プレセント用の指輪や腕輪以外の方向性に、さらに拍車がかかる。
彼の頭の中では、魔石製品のこれからについて目まぐるしく計算されていく。
ザルトーニュクス自身は、自分の発した一言が更に墓穴を掘った事に気付いてしまう。
にこやかな笑みでザルトーニュクスを送り出すと、直ぐに表情を変えグルナートはヤーデ町長の所へ出かける。
「急にどうしたグルナート?」
「ヤーデ様の耳に入れて置きたい事がありまして」
「うん?」
ザルトーニュクスの、ノーノとノーイの町での活躍を語って聞かせる。
「(まさか動いてくれるとはな・・)」
ダメもとではあったのだが、あっさり動いてくれた事に感謝しつつ、ノーイの町の出来事に話に耳を疑う。
「微罪を見逃す代わりに、追い出すと言うのは・・」
「馬鹿な! 何という事を・・」
「そもそも犯罪を犯した者の私財に手を付けても、特に罪になる訳ではありません」
「そんな事は誰でもやっている」
ヤーデとてザルトーニュクスが、悪徳商会のオークの私財を得ているのを見逃している。
色々な邪推が浮かぶが、ヤーデはすぐさま市長の所へと出掛けて行く。
市長もヤーデの言葉を聞き、ノーイの町へ内偵を送り込む事にする。
その後、ノース地方会議の席でノーイの狐の様な町長の悪事が晒される事になる。
「ノーイの町にありました、盗賊問題は主犯の悪徳商会の狸を逮捕致しました」
狐のような町長※は、自分の手柄のごとく問題の解決を報告する。
※プライバシーの配慮から、音声と表記を変更してお届けしております。
「ノーイの町もですか。
私の方はザルトーニュクス殿に助けられたのですが、感謝の言葉もありませんよ」
「こちらも、ザルトーニュクス殿に色々と支援して貰っております」
「えっ!?」
ノーウ、ノーノの二つの町がザルトーニュクスによって助けられ、しかも支援を受けている事に驚きを隠せない。
ザルトーニュクスという存在が、ここまで大きいとは思いもしなかったのだ。
「自警団だけで片付けるべき問題を、一民間人の手によって解決に導かれた事は感謝に堪えんな。
ましてや町の復興支援まで行ってもらっていると聞く」
話が進む内にザルトーニュクスがグルナート商会との関係者であり、ノーウのヤーデ町長と知り合いでもあると言う事を知り、自分の行いが市長にまで筒抜けではないかと真っ青になる。
「そう言えば、ザルトーニュクス殿がグルナート商会に戻られた時、ノーイの町の事も話してくれたらしいのですが、今回の解決はどうだったのですか?」
いきなりノーノの町長からの質問に視線をあちこちに漂わせながら、感謝する前に町を去ったのでとしどろもどろに答える狐町長。
「そういう報告はきちんとして貰わなくては困るぞ」
「はっ、申し訳ありません」
自分の仕出かした失敗に、ひたすら小さく縮こまっていく。
「では次の議題に移る、資料を見てくれ」
机に置かれた資料に、狐の様な町長は愕然とする。
「ノーイの町長の罷免と次の町長の選出について、だ」
皆に提示された資料には、狐の様な町長の賄賂の件が赤裸々に書かれていた。
ノーウとノーノの町長の視線は特に厳しいものであった。
後日、町長の私財と犯罪奴隷の報奨金を合わせたものが、ノーウの関係者を通じてザルトーニュクスに渡される事になる。
ノース地方の主だった者は、裏方ではあるが有能な協力者の一人を失ったのではないかと心を痛めていた。
時は戻ってグルナートに送り出された後、そのまま商会の方へ素材を渡しに戻る。
「かなりの期間、ダンジョンに潜られたとはいえ、あの素材の量は何ですか?」
「加工できるサイズのクズ石を探していたらな」
「クズ石の方も、多様な質の物を持って来ていただいたようで感謝はしますが・・」
「まぁ最初はある程度の物を揃える必要があると思ったから」
コラレの溜息と、女性職員のキラキラした目から視線を逸らしながら答える。
魔石加工店辞めさせたいくせに、素材を持ってきてしまう自分こそ、実は一番溜息を吐きたいのにと思うザルトーニュクス。
素材を整理しながら、魔石加工店は魔石集めに問題が出そうだと言う話を聞く。
価格と質と採取でバランスが取りにくいらしい。
素材集めのついでに、出てきたら必ず持ってくる事を約束させられる。
「はぁー・・、やっぱりこっちに矛先が向いて来るよな・・」
「何か仰いましたか?」
「いいや、何でもない」
それとは別の話の中で、興味深い話が出てくる。
「そう言えばウエスト地方では、きな臭い話が出ている様ですよ」
「ウエスト地方?」
「ええ、肉や穀物を仕入れている商会からの情報ですがね」
あくまでも世間話程度で聞いてるふりをして、情報収集に余念が無かった。
すぐさまウエスト地方、ノーウに最寄となるウノの町へと向かう。
【隠密】と【飛行】でを起動しながら、頼れる隣人【助言】に今回の事を聞いてみる。
「ノース地方からウエスト地方に、魔薬の事件が移った理由は何だと思う?」
『騒ぎが大きくなった事による移動と、最初から移動する予定だった事が考えられます。
後はただの偶然の一致という事になります』
今の限られた暫定的な情報では、不確かな回答にしかならないのは仕方がない。
「もし計画的な場合の最大規模としては考えられる事は?」
『王都周辺に製造拠点を持ち、大陸全土に販売網を持つ大組織です』
「・・・そんなまさか」
馬鹿だなと笑い飛ばしながらも、否定できない現状が非常に悩ましい。
ウノの町周辺の村々を回った後、ウノの町の酒場や市場を回り情報を集める。
「ここ最近、穀物の収穫高が下がっているみたいで、少しずつ値上がりしてる」
「穀倉地帯のウノがそうなら、ヤバいんじゃないのか?」
「でもウノの町だけらしいんだよな」
「兼業している他の町はそうじゃないって話だし」
町の中では、おかしな不作の話が多く聞かれる。
「(そりゃそうだ。此処に来るまでに村々で聞いた限りでは、供給過多で値下がりしていて、買い叩かれてると嘆いていたからな)」
村では買い叩き、町では高く売り捌き、差額はどこへ消えたのかという話になる。
「(穀物を平等に一括で買い上げているから、操作をしているのは町の役人だよな)」
町の事は町でと思いながら魔薬に関する情報を求めるが、一切入ってこなかった。
「どうやら魔薬の件は外れ。ノース地方だけだったか」
一人呟くとこれからどうするか、サウス地方の初級中級ダンジョンに潜っては、魔石を合成しながら考える。
むむぅと悩んだ末に、呟き仲間の【助言】から一応証拠集めだけでもと言われ、主だった町役人のを調べる事にする。
価格調整が可能な者から調べて行くと、財務官や税務官が関わっている事が分かる。
彼らはご丁寧にも二重帳簿をしっかりと残してくれていたのである。
不思議な事に差額で得た利益でプライベートパーティを開き、政敵者を招いていた。
「(わざわざ何で自分の益にならない人物を呼んでいるのかと思えば・・。
此処で魔薬が絡んでくるとはね)」
そう魔薬を使って自分たちの敵対勢力を骨抜きか、潰すためのパーティだった。
「(はぁ、ノーイの町長の件があるから、役人のトップとはあんまり関わりたくないが・・)」
説明も説得もしている時間が無いと、そのまま突入する事に。
「光よ、音よ、我敵を討て【閃光弾】。
三重強化、【衝撃波】起動」
【閃光弾】は呪文の通り、光と音で一時的に相手を戦闘不能にする魔法である。
あらかじめ用意しておいた【衝撃】の魔法を、魔法陣で強化して起動させ完全に制圧する。
そのまま放置して、衛兵たちが踏み込んでくるのを待つ。
音の魔法を合わせたのは、この為でもあった。
その間にピンハネに絡んだ役人たちの私財を没収、衛兵が踏み込んだのを確認して二重帳簿を持ってウノの町長の所へと向かう。
「そんな訳でパーティ会場には衛兵などでごった返している」
自分の配下の者と、渋い顔で裏帳簿を確認するウノの町長。
ザルトーニュクスも一緒にペラペラと捲って、バッと取り上げられ肩をすくめる。
「協力に感謝する、ザルトーニュクス殿。
出来れば事を起こす前に声を掛けて欲しかったところだ」
「それはすまない。正直時間が無かったのでな」
肩を竦めて、そのまま出て行こうとすると声が掛かる。
「このまま町を出るのか? 何かの時のために所在を知りたいのだが」
連絡を取る方法を聞いてきたため、商人カードを見せる。
「商業ギルド経由なら、連絡が取れる」
「ノース地方の商業ギルド、グルナート商会か」
「迷惑が掛かるから呼出しだけにしてくれ、頼むから」
ちらっと浮かぶはグルナートのあの笑顔・・。
「・・・本当に頼む」
承知したとの町長の声を聞きながら、部屋を退出する。
ウノの町の一件の後、ダンジョン産の素材を持ってグルナート商会の入り口をくぐると違和感を覚える。
女性店員のザルトーニュクスを見る目が、それはそれは非常に甘ったるい感じであった。
逆にザルトーニュクス自身には、悪寒を覚えさせる視線ではあった。
傍のコラレに素材を渡しながら、何があったかを聞いてみる。
「これですよ、こ・れ」
自分の左腕に付けられた、クズ石製の腕輪を見せる。
女性店員は右手の小指にクズ石製の指輪が光るのを見つける。
「えっ!? もう販売されたのか? しかも買ったのか?」
「いいえ、グルナート会長が、商会の店員は身に付ける様にと」
「あっ! あぁー・・」
「心当りがあるのですよね?」
「いや、まったく・・」
「ほ・ん・と・う・で・す・か?」
無い無い無いと首を振るが、しつこく疑わしそうな眼を向けながら話してくれる。
「見本と広告、耐久性のテスト、職人の技術向上という事ですね」
「そんな事していたら、直ぐに在庫が無くなるだろう」
必要な事ではあろうが、幾ら初級ダンジョンでドロップする魔石のサイズで削り出せる指輪と言えど、そんな使い方をしていれば供給が追い付かない。
「確かにそうなのですが、実際に使い勝手を調べない事には・・」
「まぁ、商売としてはそうなんだろうけど・・」
用意させられる身にも少しはなってほしいと思う。
「先日お話しした通り、バランスの問題がネックとなっておりまして」
「削り出せるほどの大きさで、質をともなると流石にな」
「ですから大きいクズ石は、記念品といった財力や権力の誇示する方々を対象とした売り方を考えている様です」
「あぁー、結局そっちに行ったか・・」
切っ掛けを作ってしまったのは、確かに自分ではある。
「あと指輪サイズであれば初級ダンジョンで何とかなりますから、ちょっとしたプレゼントとして自分で取ってきたクズ石を加工して貰えるのが好評ですね」
「えー、そっちも手を出すの?」
まぁ、初級ダンジョンの卒業を切っ掛けに告白もありなのだろう。
「まぁ広告のためとはいえ、女性店員にはかなりの好評のようですがね」
「・・それは何よりだ」
クズ石とはいえ、また仕事とはいえ、自分をより美しくしてくれる装身具には違いない。
溜息を吐くと、少なくとも自分が居なくても何とかなる様に、釘を刺しておくべきかと考えるザルトーニュクス出会った。




