山小屋
山小屋
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誰も済んでいない家って、怖いもの見たさに入りたくならない?
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建前上はダンジョンに潜ると言っておいたのだが、商業ギルドを出る前に、グルナートからちょっとした情報が得られていた。
「ノーイの町では、イースト地方からの鉄や金属を買い占められ、困っている人がいると。
ただの買い占めだけでは無く、仕入れを野盗に邪魔させているらしいのです。
ノーノの町周辺では、ダンジョンが近いため冒険者が多いが、依頼失敗やダンジョンでのドロップ品で生活が成り立たない者が野盗まがいの事をしているらしいのです」
「どう思う? 魔薬との関連性は?」
情報の不足を推測でと指定しておいて、相方【助言】から無理やり回答を引き出す。
「否定できないとの判断。
ノーイの町は東部地方からの荷物の移動があります。
ノーノの町は入手経路が不明ですが、金のためとなれば魔薬の売人になり得ます」
「そうなるよな・・、順番にノーノの町から行ってみるしかないな」
【飛行】と【隠密】でノーノの町へ向かう途中、おかしな出来事に遭遇する。
「ん? 冒険者のテントがダンジョンと反対側に? しかもこんな明るい内から?」
町を挟んでダンジョンとは反対側に冒険者がいる事に違和感を覚えながらも、野盗討伐の冒険者たちかなと思い通り過ぎる。
ノーノの町に着くと、【好感】の魔法を掛け、直ぐに情報を集め解析する事に。
この世界は魔法が無いためか、【好感】が予想以上に良く効き、聞かない事まで色々と話してくれる。
「まぁ、得られた情報を纏めると、
魔薬使用者は、薬切れで狂暴化した。
密売人は見つからず、既にこの町から離れていると考えられる。
野盗は町に出入りする荷車を狙い、盗品の売買をせず、冒険者による探索でも足取りを掴めていない。
か、大した情報は集まらなかったな、どう思う?」
『野盗を捕まえるのが早道かと思われます』
「いきなりそう言う答えか・・。まぁ、それが一番ではあるか」
野盗イコール密売人とは限らないが、今の時点では疑うべき状態である。
密売人の行方が分からないなら、野盗を捕まえてしまうのが手っ取り早い。
【隠密】【飛行】【探査】の魔法で、ノーノの町や町へ至る街道を監視する。
監視して数日程で、おかしな動きをする冒険者を見つける。
パーティが二手に分かれ、一方は護衛として雇われ、もう一方は野盗として襲うが、追い払らわれたフリをするのだ。
何とか荷は守れたが、盗賊は捕まえられなかったと冒険者ギルドに報告する。
「ふーん、なる程。冒険者たちによる自作自演ね。
これはランク上げのためか、名前を売るためなのか、それとも・・」
更に数日後、今度は野盗役だけで荷を通行料として3割ほど奪い、自分たちのテントに運ぶのを見届ける。
「ふむふむ、あの時のテントは移動式の冒険者兼野盗の拠点だったか。
加えて自作自演を交えていると、尻尾を掴めない訳だ」
魔法が無く地道に情報を集め、足で確認するならば見つけるのは少々厳しいだろう。
「やり方も拠点も分かった。あとは魔薬の有無を確認するだけか。
しかし、どうやって奪った荷を捌いているんだ?」
荷の卸すルートは後で聞けばいいかと、踏み込もうとした時、誰か来るのを【探査】で察知し様子を見る事にする。
「どうだった?」
「あぁ、商人も荷もいつも通りだ」
後からやってきた男に、テントの中の冒険者兼野盗が答える。
「それで良い。細く長くが秘訣だ。後はこちらで売り捌く」
「ふーん、なる程。自作自演な上に販売人とグルか・・。凝ってるな」
「っ!? 誰だ」
「連動、【衝撃波】起動」
ドンドンドンっと言う音と共に、テントの周辺に張り巡らされた何十と言う【衝撃波】の魔法を放つ魔法陣が連続で起動する。
多方向から連続での【衝撃波】を受けて、意識を保てる者は居なかった。
【衝撃】と【衝撃波】の違いは、【衝撃】が相手に接している事が前提に対して、【衝撃波】は離れた距離から【衝撃】を放つことが出来る。
距離が離れれば威力は弱くなるが、テントの中という限られた状況で、全方位から続けざまの攻撃では話し別である。
彼らの有り金を全て取り上げながら、魔薬の密売に関する証拠を探すも出てこない。
「まぁ、物じゃなくても証言でもいいか。
我求めに、真実を語れ【自白】」
その辺に転がる冒険者に、魔薬について聞き出すがまったく出てこない。
共犯販売者にも確認するが、手掛かりは得られない。
「どうやら、こいつらは魔薬に関しては無関係っぽいな。
ならもう一つだけ聞いておこうか」
そう呟くと、共犯である販売人の財産の在処を聞かせて頂く。
「じゃあ、頑張って町まで歩いて帰って貰おうか」
その後はノーウの町でやったと同じ様に、精神系の魔法で町へと向かってもらう。
証拠として奪った荷物を持ってである。
そして先回りして共犯販売人の財産を確保し、彼らと待ち合わせて役人に突き出す。
ノーノ町では最近台頭してきた野盗たちが捕まったと大騒ぎとなる。
ザルトーニュクスは事情聴取を快く受け、彼らを捕まえるに至った経緯を説明する。
野盗を演じていた冒険者と共犯者は、濡れ衣と騒ぎ立てるも、証拠証言から全く相手にしてもらえず、犯罪奴隷となる事が決まる。
そしてザルトーニュクスは、かなりの額になった報奨金を受け取るのである。
手に入れた犯罪奴隷の報奨金を、商業ギルドの預けに行く。
今の所使い道もないし、投資や魔石製品の資金にもなるかと考えての事である。
なし崩し的に始めた事とはいえ一旦引き受けたからには責任は取るべきと、変に義理堅いザルトーニュクスであった。
商業ギルドに入ると、近くの職員に問いかける。
「このカードは、融通してもらえるのは知っているけど預入できるのか?」
「もちろん・・。少々お待ち下さい」
しばらくすると、何故かギルド長の執務室へと通される。
「ザルトーニュクス殿、少しお願いがあってな。こちらに来て貰った」
「・・どのような事で?」
非常に面倒な悪い予感が、頭の片隅をよぎる。
「野盗のせいで、経営が苦しい商会がいくつかあってな。
グルナート商会がそんな商会の救済をやっていると耳にして、こちらでもと願った次第な訳だ」
「悪いですけど、俺にはそんな権限有りませんよ」
「商会カードを持っている君が、権限を持っていないはずがあるまい」
信頼度の高い商会カードが、意外な所で裏目に出る。
多分何も知らないと言っても、しつこく粘られる気がしたので話を聞く事にする。
「何をしろと?」
「細かい手続きや処理は商業ギルド同士で行う。この町のためにプールしておく資金をお願いしたい」
貸し出し用の資本金を、一部回す様にグルナートを説得て欲しいとの事らしい。
「ノーウの町の事情は知っているのか?」
「商人同士の情報網での限りとなるが、大体はな」
向こうだってギリギリでやっているだろうし、目の前の人々が優先されるだろう。
「ならば向こうとて野盗の被害で、資金が無いというのは想像できると思うのだが?
そもそもこの手の問題は町あげてやるべきじゃないのか?」
「勿論今までも被害にあった商人や商会へ支援はやってきていた。
しかし野盗騒ぎが解決した今の機会に、町や商業ギルドの資金が足りないのだ」
確かに被害にあう度に貸し付けても、再び被害にあっては返却は難しい。
それが繰り返されれば、資金繰りは厳しくなる。
「なる程、それで運転資金と言う現物が必要なわけか」
「その通りだ」
紙の上だけの信頼ではなく、実際に取引として使う現金が必要な状況である事を知る。
グルナートの方とて他の町まで資金を出せる余裕はあるとは思えない。
ならば今、自分の懐にある金しか思いつかない。
「はぁ・・これでどうにか出来るなら。無理なら諦めてくれ」
溜息といっしょに犯罪奴隷の報奨金と、共犯販売者の資産を机の上に置く。
「・・感謝する」
信頼のおけるギルド同士が手続きをするとは言え、ほぼ即決で大金を出した事に驚きながらも、感謝を伝えてくるノーノ町のギルド長。
得られた金が丸々投資に消え、お悩み相談室【助言】に尋ねる。
「稼いだ金が次々に消えるのは、何か俺に問題があるのか?」
『否定。単なる偶然と考えられます』
【助言】に冷たくあしらわれると、溜息と共に次の事を考える。
「はぁー。ノーノの町はこれで終わりにして次行くか。ノーイの町は何だったっけ?」
『ノーイの町では、イースト地方からの鉄や金属を買い占めと、仕入れを野盗に邪魔させているらしいとの情報です』
「うーん、買占めそのものは問題無いだろう? 良い悪いは別にすれば商売として当然の手段だよな」
『肯定』
「買い占めている商人と野盗の関係か。どっかで聞いた事があるんだが?」
『肯定。ノーウの町と類似の案件です』
「悪い事にはテンプレートがあるのか?」
『肯定。過去の犯罪履歴より、幾つかの同様のパターンが確認されております』
誰でも思い付く、手を染めやすい方法と言うのは限られてくるという事だろう。
「後は魔薬との関連性か。まぁノーイの町に行って情報を収集してからだな」
ノックの音に、入室を許可すると、悪徳商会の狸※が入って来る。
※プライバシー保護のため、一部音声と表記を変更しております。
「狐の様な※町長様にはご機嫌麗しく」
「わしは忙しい。手短にな、狸」
※プライバシー保護のため、一部音声と表記を変更しております。
机の上には何も無く、ただ椅子にふんぞり返っている様にしか見えない。
「商業ギルドの面々が、未だノーイの町の名を貶める事をしておりご報告に」
「そうか」
硬貨の擦れるような音がする皮袋を机に置く。
「つきましては、イーウの町の町長に再度お話をお願いしたく」
「仕方がない。また恥を忍んで頭を下げて来るわい」
嫌々の言葉とは全く正反対に、皮袋を見る顔は緩み切っていた。
先のノーノの町と同じ様に、ノーイの町で【好意】を使って集めた情報を整理する。
「それで話を纏めると、
買占めと言うよりは、イーノの町で取引をさせない様に、有りもしない悪い噂を流している悪徳商会がある。
悪徳商会の傘下に付けば、取引が出来る様になる。
悪徳商会の傘下でない商会が他の町から仕入れた荷を奪う野盗がある。
魔薬使用者は、同様に薬切れの狂暴化で、売人は不在で入手不可のためと考えられる。
という事なわけだが、悪徳商会と野盗のタッグというパターンだな?」
『肯定』
「なら泳がせて、黒幕と一緒に捕まえるパターンだな?」
『肯定』
流石にザルトーニュクスも、同じパターンが続けば対応方法も分かってくる。
ただ証拠集めのための地道な捜査と言うのは必須である。
「さてと監視するか」
【隠密】、【探査】、【飛行】による調査を開始する
監視して数日、眼下に荷車を襲う野盗の集団を見つける。
「これは面倒だな」
彼らは森の中の廃屋に、奪った荷を集めている。
そして別の者たちが、廃屋から悪徳商会の所へ運んでいる。
野盗と悪徳商会の接点が無いのである。
「どうしたら良いかね?」
『野盗を一人二人残して、捕える事を提案いたします』
「黒幕の所へ行ってくれれば良しと?」
『肯定』
「もしかしてこれも定石な訳?」
『肯定』
そう簡単に上手くいかないような気がするが、他に手が思い付かず提案に乗る事にする。
後日、野盗行為を見つけると、ばっちり魔法で強化したザルトーニュクスは二人ほど残して捕える。
逃げ延びた者たちは、報告連絡相談のため思いのほかあっさりと、黒幕の悪徳商会の狸へと案内してくれる。
「本当に【助言】の言った通りになるとは・・。在り来たりの手段でも、以外と何とかなる物だな」
『行動パターンは、思考パターンにほぼ一致。対応方法も類似するものと考えます』
「なる程、そういう物なのか」
蓄積された情報に、与えられた情報を客観的に見た結果に感心する。
一方、悪徳商会の狸の方では、野盗役の配下が突然戻ってきた事に怒りを露わにしていた。
「此処に来るなと、あれほど言っておいただろう!」
「悪い! 他の奴らがやられた! たぶん捕まったと・・」
「なっ!? どういう事だ?」
「勿論、あんたの所へ案内してもらうためだよ」
「「なっ!?」」
「はい、ご苦労さん」
悪徳商会の狸と残りの野盗を気絶させ、金品を強奪して役人の所へ連れて行く。
もちろんどちらが本題か分からなくなりつつある、魔薬についても調査済みだ。
ノーノの町と同様に野盗と共犯商人は冤罪だと煩かったが、衛兵がしっかりと証拠と証言を確認しており全く相手にしてもらえなかった。
「しかし不思議だ・・、こんな間抜けたちならすぐにでも捕まえられそうだが・・?」
通常であれば、犯罪奴隷となり報奨金を受け取るのだが、狐の様な町長から思わぬ横やりが入る。
「ザルトーニュクスと言ったかな」
「はい」
「悪徳商会の狸の財産が無くなっていた。知らないかね?」
「いいえ、彼らを捕まえただけですので」
睨み付けるような視線を向ける狐の様な町長。
「・・そういう事にしておいてやる。この町から黙って出て行くがいい」
「何をおっしゃられているか分かりませんが、この町の用事は終わりましたので、このまま出て行くつもりです」
ザルトーニュクスは飄々と返す。
そのまま見送ると引き出しにしまわれた、今回の犯罪奴隷の報奨金に笑みを溢す。
「悪徳商会の狸の私財は手に入らなかったが。今回はこれで良しとするか」
すると今度はザルトーニュクスが出て行った扉を睨みつける。
「ザルトーニュクスと言ったか・・、余計な事をしてくれたものだ。
悪徳商会の狸も狸だ、捕まりおって。ワシがどれだけ裏で手を回していたと思っているのか。
面倒ではあるが次を探さなくてはならなくなったわい」
黙って町を出ると、振り返り呟く。
「流石に、物わかりの良い町長だけではないか・・」
自分が正当な方法で、金品を手に入れている訳では無い事を承知している。
そのため、狐の様な町長の対応にも特に思う所も無く、まぁ見逃してくれただけでも良しとし深く追求はしなかった。
「それにしても、此処も魔薬の痕跡は無しか」
メインの魔薬に関しては、廃屋や悪徳商人の狸の所からは出てこなかった。
2つの町を回って全く手掛かりなしという状況に溜息を一つ吐く。
「素材や魔石の補充もあるから、ダンジョンに潜って、ノーウの町へ一旦戻るか」
そう言うと、サウス市の自宅へ【転移】し、建前のダンジョンの素材集めと、魔石研究に勤しむのであった。




