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秘密基地で遊ぼう  作者: まる
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秘密基地での成果

秘密基地での成果




====================


野の草や実で、科学実験のまねごとをした覚えは無いかい?


====================






少し皆に聞いてみたい。


普通の何気ない床で、足を取られたり、躓いた事は無いだろうか?


特に濡れている訳でも、段差がある訳でも無いのに・・。






謁見の間‐




深紅の絨毯の左右に、この王国を動かす名だたる要職の方々が立ち並ぶ。


少し離れた背後の壁には、国王を守る騎士たちが等間隔で直立不動で並んでいる。


要職の方々の末席には、一人の青年が並んでいた。


年の頃は20代後半、身長は3キュビット半(168cm)を少し超えやや痩せている。

髪の色は紅色に所々白髪の髪、紅色の瞳と紅縞瑪瑙の様である。


彼は心の中で溜息を吐くと、何故自分はこの様な場所に居るのかを思い返す。






ルドアリリムと呼ばれるこの世界には、十字星の形をしたアブリセイブ大陸と、大陸を囲む海だけしか存在しない。


この世界には魔力と呼ばれる不可思議なモノが存在した


野に居る獣たちを野獣と呼ばれる。

魔力に侵され、変異したモノたちを魔獣、もしくは魔物と呼ぶ。


これらは人間に害する場合もあるが、益となる事もあった。


しかし全く益とならない存在があった。

人間を害するのみの邪悪な存在。

たった一人で世界を滅ぼす存在。

一人にして王、人は邪王と呼ぶ。


人々は邪王の前に、幾たびか滅びに瀕した。

生き延びた人々は、邪王に対抗するための手段を常に探し求めていた。


ある時、魔法と言う技術が生み出された。

邪王を退ける事に成功するが、幾たびかの後、対抗されてしまう。


ある時、魔法陣と言う技術が生み出された。

邪王を退ける事に成功するが、幾たびかの後、対抗されてしまう。


新しい技術が生み出される度、邪王を退けるのだが、幾度かの戦いの後、その技術に対抗する邪王が出現するのだ。


まるでこちらが強くなれば、邪王も強く成る様な・・




邪王の出現に戦々恐々としている人々に、魔法樹と呼ばれる新しい魔法技術が完成する。

魔法陣の応用ではあるが、複数の人間と魔法陣を繋ぎ巨大強力な魔法を放つ。

邪王一人では対処のしようがないと思われる技術だった。


その技術を開発したのが彼であり、国王以下名だたる魔法使いや要職の前での新技術のお披露目を無事に終えお褒めの言葉を頂いたのである。


王宮にて大賢者の称号を与えられ、尚且つ次の邪王出現の備えとして、更なる技術の躍進、後継教育、戦略への組み込みを行うため、軍幹部に任ぜられる事となった。




彼自身は、研究一筋、正直どうでも良い話であった。


自分の研究成果が認められたというのが喜びであり、新たな研究への原動力となる。

ただそれだけの筈だったのに・・何故?という思いが拭えない。






「ザルトーニュクス。前へ」

「はっ!」


自分の名を呼ばれ、前へ足を踏み出す。


王宮はおろか、王都にすら足を運んだ事の無い一介の研究者が、国王陛下を前にして緊張するなと言うのは無理からぬ話であった。


国王は寛大な方で多少の無礼は許されると言いながらも、僅かな時間で謁見の細やかな決め事と作法を叩き込まれはしたが・・


そんな緊張と相まって、普段は研究所の石造りの床しか歩いた事の無い脚は、毛足の長い絨毯に足を取られるのはやむを得ない事だろう。


一歩目、二歩目、は何事も無く進み、体を国王陛下の方へ向きを変える三歩目で足がもつれ、たたらを踏んでしまう。


『カチッン』

「(えっ!?)」


遠くの様な近くの様な、何処からともなくスイッチが入る様な音が聞こえた様な気がした。


そんな事は一瞬で忘れ、要職たちの失笑を覚悟しながら顔を上げると、目の前には誰もおらず、唖然とした表情を浮かべた騎士たちしかいなかった。


「(おや? 要職の方々は何処へ?)」


不思議に思いながらも姿勢を正し、国王陛下の方へ向くと、そこには驚きの表情の国王と、同じく驚きの表情を浮かべた臣下たちが居た。


すぐさま、国王の傍にいた護衛が声を張り上げて叫ぶ。


「・・ぞ、賊だ!」

「えっ!?」


賊?なる程、驚きの表情はそれが原因だったのだと判断。


国王に近い騎士は、国王の盾のごとく傍で防御魔法を展開・・しない?


王宮では魔法の使用を禁止されており、ましてや謁見の間に賊の侵入など考えもしない。

準備が遅れたとはいえ、何故魔法を起動しないのか不思議に思う。


自分でさえ非常事態と思い、周りの騎士や護衛の邪魔にならない様に魔法の準備を始めていると言うのに。


「賊が侵入したぞ! 衛兵すぐに取り押さえよ!」

「陛下をお守りせよ!」


賊を確認するため周囲を注意深く見回すと、自分が抜刀した衛兵に取り囲まれいる。


「・・えっ!? 自分ですか?」


思わず呟くと、今度はこちらが驚く番であった。


「大人しくせよ!」

「少しでも動けば、即刻切り捨てる!」

「えーっと?」


もう一度周囲を見回すと、包囲の輪が狭まり、目の前に剣が突き付けられる。

剣を避けながら、そーっと両手を上げ、無抵抗の意思表示をする。


かなり乱暴に床に倒され、縄で縛られる。


「(痛たたっ!? もう少し優しく・・。ぇ!? 縄?

そう言えばさっきも剣で威嚇して・・?)」


手荒さと痛みのために、とても重要な事を忘れ去られてしまう。


その場では何の弁明も許されず、すぐさま王城の地下牢へ繋がれる事になった。






地下牢である以上、真っ暗な物と思っていたのだが、犯罪者の動きを見るためには、多少の明かりは必要なのだろう。壁には転々と松明が炊かれ、僅かな明かりが得られていた。




ザルトーニュクスは生まれて初めての王宮で、作法など何も知らなかった方が悪いのだろうかと、これまた生まれて初めての地下牢で自問する。


きっと国王陛下の前で躓くと、賊として牢屋に閉じ込められるだなと馬鹿な事を考える。


「王宮とは、何と恐ろしい所だ」


王宮は怖い、王宮は怖いと呟きながら、床や壁、柵を丹念に調べる。




その間に王宮警備を担う、親衛隊長や騎士団副団長と言った偉い方々が地下牢へ尋問に訪れる。


謁見の間への侵入は警備の面に限らず、国家威信にかかわる大問題であり、一衛兵に任せられないのだろう。


「名前は?」

「ザルトーニュクスと申します」


自分の立場をこれ以上悪くする訳にはいかないと、正直に答えて行く。


「何の目的で城に侵入し、謁見の間に現れた?」

「いえ侵入したのではなく、呼ばれまして・・」

「呼ばれた!? 一体誰にだ!」


周りの人々が一斉に色めき立つ。

不審者を誰かの手引きで侵入したとなれば、大問題どころでは無い。


「国王陛下に、です」

「・・はぁ!? 国王陛下は、お主の事など知らんと申されておる」

「えっ!? 知らない?」


新しい技術の説明の際には、お供の人と一緒に説明を聞いていたはずである。

少なくとも実験後には、言葉少なくではあるがお褒めの言葉を頂いている。


そんな自分を国王は知らないという。これはどういう事だろうか?

まあ毎日何人もあっている国王が、自分のことなど忘れてしまうことはありそうである。


「そもそも陛下がおぬしを呼ぶ理由が無い」

「それは新しい魔法に成功した成果として・・」

「あぁん!? なんだその魔法とやらは?」

「・・えっ!? 魔法を知らない?」


そんな馬鹿なと思い、もう一つの事を口にしてしまう


「だからなんだと聞いている」

「では邪王は?」

「今度は邪王!? 邪王とは何なのだ! 一体何を言っている? 頭でもいかれておるのか?」




魔法も邪王も知らないという衝撃に、次々と質問があったと思うのだが、何と答えたかも分からず、気付いた時には、ただ一人地下牢に取り残されていた。


ブツブツと独り言を繰り返し、牢の中をうろつく、正直不気味な姿のザルトーニュクス。


「誰も自分の事を知らない?

魔法が無い?

邪王が存在しない?

この牢も魔法が使われていない・・

剣で脅し、縄で拘束した・・

そう言えば、謁見の間の人も変わっていた・・」


確かに賊として自分は捕えられた。

自分を知らない人々の前に突然現れて、しかもそれが国王陛下の前に飛び出れば、当然侵入者となるだろう。


違和感はあった。


賊に対して国王を守る騎士たちは文字通り身を挺していた。

魔法で結界や障壁を張る事無く。

これは時間が無かったとはいえおかしな行動である。


魔法を使える者を賊として捕えるのに、一切魔法を使わずに、剣を持って威嚇し、縄と言う物理的な手段で拘束しする。

しかも捕えている地下牢には、封印系の魔法、つまり破壊防止や逃亡防止、身体拘束といった魔法がなされていない。


極めつけは邪王がいないである。

邪王は町の小さな子供でさえ知っているのに、国を守るべき親衛隊長や騎士副団長が知らないと言うのはあり得ない話だ。




徐々に混乱してきた頭が冷えてくる。

この思考の海からの脱出を行うために一つの魔法を起動する。


「我は求める。わが知識の泉から答える者を。【助言】」

『質問をどうぞ』


頭の中に感情を含まない平坦な声が響く。



【助言】と言う魔法は、自分の質問に対して、記憶にある様々な情報から、質問に対して客観的な回答を導き出してくれる。


決して一人ぼっちになり易い研究者のために作られた訳では無い。



「【助言】に問う。以下の条件で考えられる事は?

一つ、誰も自分を知らない。

二つ、魔法が概念がない。

三つ、邪王が存在しない。

このような状況はあるのか?」

『情報が不足のため、回答に正確性がありません』


当然これだけの情報では、まともな答えが返ってくるはずが無い。


更に今置かれた状況を、出来る限り細かく情報を与えて行く。


「以上の情報を加え正確性は求めない。あくまでも推測としての回答を」

『三つの条件と、追加された情報から一つだけ推測されます』

「それは?」

『パラレルワールド。すなわち平行世界への転移です』

「・・はぁ!? パラレルワールド?」


何だそれは?思ったが、待てよと頭の隅に引っかかる物を思い出す。


「確か異世界と並んで存在すると考えられている別世界の事だよな?」

『肯定』


ある学者団体が本気で研究しており、研究成果と称した論文を見たが、自分の研究とは縁もないし眉唾と思って忘れていた。

【助言】は良くもまぁ記憶の片隅から、こんなものを引っ張って物だと感心する。




「パラレルワールドか・・」


今出せる条件や現状を鑑みると、これ以外の答えが無いように思える。


ではいつこちらの世界に来たのだろうか?


時間を遡って自分の行動と皆の自分に対する態度を思い返すと、謁見の間でのつまずいた時の『カチッン』と言う音を聞いた時しか無いとの思いに至る。


「謁見の間でつまずくと平行世界へ転移するのか・・。

やっぱり怖い所だな、王宮という場所は」


誰に聞かせるでもない冗談を呟く。




もしパラレルワールドであるならば、自分と王宮の人間側の意見の違いは絶対埋まる事の無く、死刑かこのまま一生牢屋暮らしで終える事になるだろう。


まったくそんなつもりは無いので、さっさと脱出する事にする。


「我、望む地へ。【転移】」



【転移】は条件を満たす事によって、自分の望む場所へ瞬時に移動できる魔法である。



しばらくしても風景は変わらず、牢屋のままだった。


「むむ? 失敗した?」


ならばと別の場所へ【転移】するも、結果は変わらず地下牢のままだった。


「馬鹿な!? どういう事だ?」


【転移】先に選んだのは自宅と魔法陣の研究施設だ。

毎日通っていたのだから失敗するなどあり得ない。


なぜ失敗したのか原因を考える。


「光りよ【灯火】」



【灯火】は自分の望む場所に灯りを灯す魔法で、生活魔法と呼ばれるほどマイナーな、小さな子供でさえ成功させられる。



指先に明かりが灯る。

魔法は間違いなく起動できる。となれば自分では気が付かない封印系の魔法があるかと思ったが違ったようだ。


「魔法自体は起動が可能と。となれば・・」



【転移】には条件が二種類ある。


一つは一度その場に行って、その場を記憶している事。

一つは自分の魔力でマーキングしてあるという事。


どちらの場合も、転移先の環境や状況が大きく変わっていると失敗する事がある。



そこまで考えて、ふと嫌な考えがよぎる。


魔法が無い世界なら、魔力でのマーキングは存在しないのではないか。

いや、そもそもこの世界に自分が存在しないなら、自宅はおろか研究所だって存在しないのではないかと。


「なる程。どこにも【転移】出来ないと言う訳か・・」


改めて突き付けられた【転移】不可の状況に、以外と冷静なザルトーニュクスだった。





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