表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

とある衛士はとある事件に思いを馳せる。

今回は衛士のお話。

 その日夜勤の勤務を終えた衛士コルト=サブナックは夜勤警備の仕事を終え、愛する妻と子供のいる我が家のいる我が家へと向かっていた。町はいよいよ目覚め始め人々が行き交い始めている。

 家路に着く前にと少し2丁目に足を伸ばし、昨日不足していた食材と何かお土産はないものかと店舗を除き見る。あ、いや、毎度毎度買っていっては家計がいくらあっても足りないとまた怒られてしまう。

                            今日は早々に切り上げてしまわねば。


 買い物を終え、更に一本道を行くと3丁目に入る。ここは多くの冒険者のための宿泊施設兼食堂が建ち並んでいる。

 冒険者というのは流れ者だ。悪い人間も混ざっていることもある。そのことをこの町の創立者も分かっていたのか、3丁目から4丁目の間は妙に距離があり、4丁目には衛士たちの居住区画があり、固い塀のある建築物が多く、住民たちの居住は更にその向こう側だ。

 ふとコルトは少し前から係わり合いになっている一軒の宿を思いだした。

            今彼らはどうしているだろうか?

 そういえばあそこは料理も旨かった。子供たちの世話で忙しい妻に今から食事を作らせるのも酷な話だし、何より今手元には早く読まねばならない「あの事件」の報告書がある。

 あそこで朝食にしながら読み進めようか。

                 そう思った彼は少し足を伸ばすことにした。

 「小狸亭」・・・そんな名前の店だ。


 ・・・カランカラン・・・

 扉に何か仕掛けられているらしく、扉を開けると軽やかな軽い木のぶつかりあう音がする。

 その音を聞きつけたのか、そそくさと男が顔を見せる。

 「いらっしゃいませ」

           その顔を見て・・・少々コルトは眉間にしわを寄せた。

 「マリウス君・・・もう仕事みせに出ているのかね・・・?」

 ここの店主は先代の父よりいきなり店を譲られ、今はこの店を切り盛りしているという。

 まあそれはいいのだが、いかんせん気負いすぎているように見える。

 冒険者の宿は実質上24時間運営が続いているというのに、彼はほとんど店に出ずっぱりだ。偉いとは思うが、聞けば仕入れや帳簿も全て自分でやろうとして従業員に止められているという。

 そのうち倒れるぞ・・・・と忠告したら既に3度ほど倒れていると聞かされ、なお心配になった。

「ああ・・・いや、今は仕入れの片付け中でして・・・」

 そう言って気恥ずかしそうに自分の鼻の下を指す。

 成程、彼は店にいる時付け髭を付けているが今は付けていない・・・気を抜いている証拠だと主張しているのだろう。

 そんな見かけに拘る辺り、どうも噂の父親に似ている気もするが、あまり言うと反発してしまうんだろうな・・・と思って黙っている。

  正直こちらとしてはむしろそんなところが愛らしいとすら思う。


     ひょっとして休みに入るところだったのだろうか・・・少し悪いことをしたかもしれない・・・


 「ああ・・・いや、今日は夜勤明けでね、少しこの前の『モーニング』を頼みたいと思って立ち寄っただけなんだ。」


 気にしないでいい、と手を振ると、少しホッとした様な顔でまた奥に引っ込んでいく。

 どうやら料理人には信頼を置く者が就いているらしい。

 他のことももっと多くの者に任せても良いとも思うのだが、若いとその辺り、考えられないものなのだろうか。まあ、ここはかなり老舗だと部下も言っていた。助けようとする者も多い。そのうち身の丈にあった店主に成っていくだろう。


 それにしても静かだ。この選択はあたりだった。


  冒険者の出立は早い。日が昇り始めるまでには出立組は出て行ってしまう。朝食目的の客もはけ、まばらな状態だ。少しゆっくりするには丁度いい。

 「すまん、モーニングを一つ」

 カウンターに座り、奥で話を聞いていたコックが軽くうなずいて作業に入る。

 さて、では早速自らの職務を果たすとしようか。

 彼はその調書を見ながらあの痛ましい事件に思いを馳せる。

 願わくば今日出て行った冒険者たちに幸あらんことを

    二度とあのような悲劇が起こらないことを切に思う。



           第一の事件 ブロンコフ=オロノアの事件

                                証言者:ハンナ=バレリア

                                記録者:ロビン=アーシュレイ

      『その日私たちは討伐依頼を受け、大魔境に入りました』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日、私たち、・・・あ、私たち「妖精の宿木亭」を拠点にしている冒険者なんですけど・・・

 ・・・あ、はい、住所は・・・3丁目・・・3の3・・・はい、そこです。


 そこで私と、トレビと・・・レナと・・・キャリーとラン・・・それからそこに泊まってないけどカルラさんでチームを組んで「迷宮潜り」をやってます。リーダーはカルラで、・・・ええ、女ばっかりです。基本的には第四階層で調査して帰るっていうのがいつもの仕事ですかね。チーム名ですか?・・・いや・・・特には決めてないんですけど・・・

      じゃあ便宜上カルラ団で・・・・・・いいじゃないですか・・・センスなんて。


 まあその日も遺跡に潜る為に早朝5時に出立しました。確認は衛士隊の赤毛の巻き毛の人に聞いてください。

 進入先は無難に第一ポイント「正面玄関」からの予定でした。あそこなら第4までおルートが確立してますんで。

 で、第1階層の途中のはずれの方から私たち、妙な声がしていることに気がついたんです。

 なんていうか・・・場違いな声の響きでしたね。クスクス笑う声と、なんか優しげにささやく声・・・そしてゴブリンの嘶き・・・ね?普通一緒に聞こえてくる取り合わせじゃないじゃないですか。で、キャリー・・・あ、彼女盗賊スカウトなんですけど、彼女を前衛にして近づいていったんです。

 そこに彼・・・ええと・・・ブロンコさんがいたんです。それも素っ裸で・・・

 周囲にはゴブリンが2,3匹位かな?ぐったりしていて最初死んでいるのかな?と思ったんですけど、微妙に息してるのが分かったし、なにやら呻いているヤツもいました。で、彼の傍らには元気なのもいました。

 戦闘でもあったのかとも思ったんですけどちょっと違うなって感じたんです。ちっともワク・・・ドキドキしてこなかったので・・・はは・・・


 んで、彼、そのまだ元気なゴブリンの手を繋いで何やら語ってるんですよ。指を絡めようとして、そのゴブリン、必死にそれ振りほどこうとして暴れてたんです。

 で、聞き耳を立ててみるとなんとその男、ゴブリン相手愛をささやいてるんです。で、「大丈夫」とか「俺にまかせて」とか・・・あれってそうですよね?そういうこと考えてるってことですよね?

 しかもそのゴブリン・・・「雄」だったんです。

                          ね?気持ち悪いでしょ?

 私、ゴブリンとか何考えてるか見てもわかんないって思ってましたけど、あの時のは分かりましたね。嫌がってました。うん、間違いありません。


 ・・・妙だって思わなかったのか・・・って?思いましたよ。

 で、すぐカルラさんに調べてもらったんです。おかしな魔術に侵されてるんじゃないかって。周囲に彼の仲間を探してみたり・・・。

 ・・・直接保護しようとしなかったのかって?

うーん・・・本当はその方がいいんでしょうけど・・・なんか嫌じゃないですか。ソレに関わるの。

 ソレにですね、アイラさんとレナが様子をうかがってくれてたっていうのもあります。アイラさん「素材が捗る」っていってたから何か気がつくことがあったみたいでしたから2人に聞いたら何か・・・

            え?聞いた?なんだか分からない?・・・そうなんですか・・・ああそうですか。


で、暫く後ですかねぇ、近くで気絶してたゴブリンの意識が戻りだして矢の攻撃を思いっきり受けた辺りで流石に放置できないってことで救助に入ったんですけど・・・

             結局あれって何なんですかね?

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


              ー酷い・・・-

 思わず報告書から目を逸らし、天井を眺めた。目に熱いものが溜まる。

 彼の身元を確かめた所、彼が叙勲間もない騎士であること。「彼が自らを鍛えようと名を隠しこの地で訓練していた」ということが分かった。哀れなことだ。己の研鑽に励む若人がこのような辱めを受けるなどあってはならぬことではないか。

 このことを本人に伝えない方が良いと思うが・・・残念なことにそのことをうちのクソ上司に知られている。あの人は言う・・・人の嫌がる顔が大好きな人だからな・・・

 むしろ先にオブラートにくるんで伝えてやるのがせめてもの情けだろう・・・


 「どうぞ・・・」


 頼んでいたモーニングが出来たようだ。

 柔らかいパンにスクランブルエッグ。サラダに薄いハムが一枚というメニューだ。朝食のワンセットというコンセプトが実に的を得ている。それにこの黒い飲物「コーヒー」これがいい。香りが良くその臭いだけで落ち着くこの飲み物は、深みのある苦味の中に確かな味がありクセになる。

 少し落ち着いてから次の報告書に目を通そう。



           第二の事件 ヘクトール=モードの事件

                               証言者:ポール=キャンドル

                               記録者:オッズ=グーマ

      『その日はなんてことはないふつ~の昼下がりだってんです』

 --------------------------------------------

 その日は子供たちが友達を連れてきちゃってパタパタパタパタ走り回る音で騒がしくって仕方がなかった。

 おいおいお前等もう少し静かにしろよな~んていっちゃったりして・・・

 そしたらさ、一際大きな足音がする。

 なんだろ?おかしいな?連れてきた友達にデブでもいるのかな?と思ってみてみたらそんな子はいない。

 よーく聞きいてみるとその音

              屋根の上から聞こえている。

  ドンドンドン!

 何だ??怖いなー恐ろしいなー・・・そう思っていた。

 そしたら子供たちの悲鳴が聞こえた!きゃーっ!! という悲鳴!

何だ!何だ!一体どうしたんだ!そう思って僕は外へ飛び出した!そしたらそこには子供たちがいてみーんなうちの屋根を見ている!そしたらね!そこにあのへーんな男がへーんなカッコで突っ立っていたんだ。


「悪いやつは許さないッ!!正義の魔法少女まじかる★モーリン!!」


・・・もう一度いいますよ?へーんな「男」です。

そのs

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

きつい!!直視しきれない!!酷い!酷すぎる!!


 コルトはあまりのおぞましいその内容にもう目を向けていられなかった。

 そのへーんな格好は既に確認している。ピンクのフリフリだらけの付いた明らかな女物。貴族という世界は分からないが、こんな丈の短いスカートが流行っているのかと首をかしげる洋服だった。

 彼は発見された時、その姿で見えない「何か」と戦っていたという。

     「何か」とは何か・・・

                          実は何もいなかったのである。

 彼は何もないところに向かい、なんだか変な呪文のようなものを叫んで「攻撃」して、「敵からの攻撃」を喰らい、屋根の上でばたばたと暴れていた。

 子供たちは「魔法少女」「魔法少女」と大うけだったらしいが、辺りの大人たちはあまりの痛々しさに涙ぐむものまでいたとか・・・

 報告書に協力してくれた方も、今後はこの話はしたくないという。子供たちにも言い含めるといってくれている。

 だが最も不運なことに彼はその一部始終の記憶が残っていた・・・。

 彼もまた叙勲すぐの騎士だ。それがそんな格好をして多くの人の前で醜態を晒し!しかもそのことを鮮明に覚えている!

我が身にしたらもしそんなことになったら一体どんな顔で妻や子供たちに顔を見せられるだろうか!おぞましすぎてわけが分からなくなる。

 コーヒーの入ったカップがカタカタとなるのが聞こえてきて、自分が震えているのに気がつき、これ以上読み進めることを断念した。


 この一連の事件の犯人、薬師クリス氏は、「自らの薬に有害なものなど入っていない!」と主張しており、製造に使った全ての薬品を提出して徹底抗戦の構えでいる。少なくとも「悪意」はなかったようだった。実際危険なものは確かに含まれてはいなかった。だがこれらが合わさった際に生じたあの臭いは・・・

 一応は検証のために少し袖に掛けて嗅いでみたが、あまりの臭いに耐えられず吐いてしまった。周囲の者も悲鳴を上げ、逃げ惑うものが多く、已む無く誤魔化すために衛士退社の窓口嬢ヘレンから香水を借りて誤魔化したが、いまだ匂いが残っているようで気持ちが悪かった。


 しかし幻覚効果があるわけではないはずなのだが・・・疑問は残るが実際出てしまったのだから納得するしかないのか・・・


 全ての調書、分析結果に目を通し終え、この事件を省みてみる。


       この事件は結局誰も得をすることがなかった事件であった。

 当人である被害者加害者は言うに及ばず、薬師を雇っている店舗にも被害が及んだという。


 被害者は今も病院に入っている者一名、部屋に閉じこもり出ようともしない者一名。

                              心の傷は深く再起のめどは立たない。


 加害者は現在投獄中で、自主制作の薬は没収、永久封印になるだろう。


 事件現場となったこの店にも悪評が広まっており、

             ひょっとするとかの騎士団から何某かの圧力もあるかもしれない。


 幸いと言えるのは、この薬品は非売品の試薬であることを渡す時に言っていることが証言から得られていることと、幸い死者が出ていないことである。事件性は無しとして、やがて「事件」から「事故」へと書き換えられる。

 だがコルトはこの悲劇を教訓とし、薬物の監視を強化する必要を感じている。

 

 ---少し長居をしてしまったか・・・---

 コルトはお代を置くと、家路に向かい、足を早めた。

 こんなむごい事件の後は、やはり妻と娘の笑顔が見たい。

      今日はお土産も買ったし、少し帰りが遅れたことも許してくれるだろう。

      唯一の心配は、香水程度であのにおいが誤魔化しきれるか心配だがまあなんとかなるだろう。

 

 この町は地獄の一歩手前の町だ。せめてこの地では皆の安らげる地であって欲しい。彼は少し高くなりすぎた朝日に向かってそう祈るのであった。



???「うーーーーん・・・お嬢いれすぎちゃったねぇ・・・」

???「・・・中々難しい・・・失敗・・・てへぺろ・・・」

・・・世界が平和でありますように・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ