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とある冒険者のとある戦い

               ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・

 息も荒く、周囲を伺うこともなく、走る足音も気にせず走る・・・走る・・・走る・・・本来は「ココ」でそんなことをしていては命は無い。今更素人じゃあるまいし・・・そんなことはわかっている。だが走らざるを得ない。いつもはいる頼もしい仲間がここにはいない。一緒にいるのはただ一人残った魔術師のエレン一人だけ。しかし彼女ももはや息も絶え絶えだ。戦士として冒険を重ねはや3年・・・アルベルトは己の不覚に歯噛みした。

 「ココ」はバァル領の大迷宮の第一階層「大魔境」。広大な森林地帯に数多くのモンスターが徘徊する天然の迷宮。ほとんどの冒険者はまずここに入り迷宮の入り口に入るいわば迷宮の入り口。本来であれば数こそ多いがこのあたりのモンスターに後れを取ることなどありえない・・・筈だった。

 大森林に踏み入り、いつもの調子で迷宮に向かう最中、本来であればもっと奥にいる筈である老木の妖魔が襲い掛かってきた。突然のありえない襲撃に思わずエレンが火の魔術を放ってしまったことが更なる事態の混乱を招いた。妖魔は程無くして仕留められたが放たれた火は辺りの森林に飛び火した。あわや山火事になるところであったがなんとか無事消火することができた。しかしこの火災が辺りのモンスターを呼び集めていたのだ。

 無事鎮火を終えて一休みしようとしていたアルベルト達にいきなり矢の洗礼が与えられた。魔術師ののエレン、僧侶のピコは勿論、アルベルトや同じく戦士のモーヴィス、壁役のクラウン、素早さが自慢のユーリまでがその攻撃をまともに受けてしまった。そして畳み掛けるように現れたゴブリンの集団・・・正に最悪であった。最悪なことにこの時鉄鎧を付けていた前衛3人は鎧を外していた。攻撃は容赦なく体に突き刺さった。

   畜生ッあんな雑魚に!


 いつもはカモにしている連中に逆にカモにされる屈辱。悔しくて悔しくて悔しくて情けなくて仕方が無い。こうなったらやられてもいいから連中を一匹でも多く斬り伏せてやろうかとも考える。だがそうもいかない。傍らにはエレンがいる。男のアルベルトはもしここでゴブリンどもに敗北してもせいぜい死ぬだけだ。悔しいがそこで終われる。だがエレンは女だ。もしゴブリンに捕まれば「苗床」としての地獄が待っている。

                            嫌だった。それだけは死んでも嫌だった。

既にエレンは戦えない。背中と脇に矢が深々と刺さっている。肩を貸さなければすぐに倒れ伏せるだろう。彼女を見捨てられない。絶対に・・・。

「アル・・・」

 か細く彼女が呼ぶ。目で何かを訴えているが声までは出ないようだ。矢に毒でも塗られていたのだろうか?息が荒く、汗が異常だ。

「・・・もう・・・いいよ・・・」

聞きたくない・・・それが何を意味するのかなんて・・・

アルベルトは聞こえないふりをして更に足を速める。追っ手はまだ確実に・・・いる!

   どうすればいい?どうすればいい?どうすればいい?クソ・・・何も思いつかない・・・

 戦うことばかりで頭の悪い俺には必死に逃げることしか思いつかない。エレンが万全なら・・・モーヴィスが、クラウンがいれば・・・せめてピコだけでもいてくれれば・・・

 頼ってばかりの自分が恨めしい。何か無いのか?何か?何か?なに・・・

 突然エレンが重くなり地に伏せる。引きづられるようにアルベルトも地に這う。

「エレン!」

 声を掛けるとうっすら目を開け、力なく笑う。

 ・・・もう走れない。

 彼女の訴えをアルベルトは必死に否定する。いいや!走れる!逃げ切れる!がんばれ!もうすぐだ!あと少しなんだ!だがそんな呼びかけには応えずエレンは自分の足に視線を送る。アルベルトはその視線を追い、彼女の目線の先を見る。

 いつからだったんだろう。彼女のふくらはぎに錆びれたナイフが突き刺さっていた。刺さったまま暫く走っていたせいなのであろう。傷口が広がり大量に出血していた。血は敵に確実に自分たちの居場所を教えていた。

 ああ・・・こんなことにまで気づかないなんて・・・まったく情けない。

 アルベルトはエレンにやさしく微笑むと、彼女の頬に軽くキスをし、その身を離す。残念だがこれ以上一緒にはいられない・・・そのことが分かったから・・・

 二人はこの前の冒険の時にある一対のアイテムを手に入れていた。そのアイテムは2つが引き裂かれた時瞬時に呼び合いどんなところからも駆けつけることができる「比翼の石」のはめ込まれたペンダントだった。あまりに少女趣味だとアルベルトは付けていなかったが彼女の首にはそのペンダントがあった。考えるただ一つの方法だった。

「あなたの下へ。」

 ペンダントに手を添え、あの時二人で決めた「キーワード」を唱える。そのわずか一瞬にして彼女の姿は光に包まれ、飛翔する。

 コレで彼女は助かるだろう。アルベルトはペンダントを宿に忘れてきていた。彼女はペンダントの片割れのある宿に飛んだ。一抹の寂しさがあるが、うん、これでよかったと一人納得する。


 キイキイという不快な泣き声が近づいてきた。だがアルベルトに先ほどの悲壮感はない。自慢の長剣を抜き放ち、敵の来る方に向かって獰猛な笑みを浮かべる。

 は!上等だ!弱い奴にしか手を出せない雑魚の分際で!数をそろえりゃ勝てるってか?甘ぇ考えだぜ!俺がくたばるまで手前らはたして何匹活きていられるかな?さあ!試してみようじゃねえか!


あんまりささくれだったのじゃない、のんびりな作品を書いていきたいと思います。

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