自主退者を心配する人
「ちょっとぉっ!アンタ達あの娘を一体どこにやっちゃったのっ!?」
シャルロットはドッパーンと日本海の荒波を負かす勢いで学園長室の扉を開いた。
「ぬわぁっ!!」
シャルロットを中心に暴風が吹き荒れその風舞い上がりかけた書類を必死に学園長は押さえつける。
「アティが学園から居なくなってるってどうゆう事なのよ!」
「ぶぉおぃおぅおぇぁっ!?」
美麗な顔を怒りに染めたシャルロットは学園長につかみかかりガクガクと揺さぶり学園長は奇声を上げている。
「シャルロット少しは落ち着け」
白衣を着た青年がシャルロットの腕を押さえ学園から引き剥がす。
「お放しグラント!まだ話は終わってないのよ!」
「シャルロットにその勢いで揺さぶられたら、流石の学園長でも話が出来ないだろうよ」
引き剥がされたシャルロットはフーフー息を乱し肩を怒らせながら学園長を睨みつけている。
学園長は目眩を起こしたのか、風に飛ばされないよう必死に守っていたはずの書類の山バラバラと崩しながら机に突っ伏していた。
◇
「それで、シャルロット殿下は何しに来たんです」
床に散らばった書類わ集めながら学園長は口を開く。
「どこを探してもアティが居ないし、給食が始まってもアティが来ないの!しかもグラントに聞いたらイジメられて自主退学したなんて信じられない事聞かされたのよ?グラントは役に立たないから学園長室に来るに決まってるじゃないの!!」
「…グラント君、君は彼になんて説明したんだね」
キイキイと喚き立てるシャルロットをよそに学園長は学園医師であるグラントに問いかける。
「あぁ、とりあえずシャルルには“一部の教師に無理ヤリ論文をかかされたり無理難題をふっかけられていなくなったらしい”とは話しましたが?」
「…なるほど、それは確かにイジメだな」
闇に葬った後だけに教頭達に追求は出来ないが、学園長に提出されるアティアの論文は常に一つだけだ。
「…研究論文の横流しとはまたえげつない真似をしたもんだ」
「そうですね。論文提出が始まると、偶然拾った有用な資料を手土産に色々顔を出してるみたいでした。かならず本人の前で廃棄確認してからゴミ処理機に入れて焼却炉送りにしてるのですが、指導がある日には焼却炉がメンテしてるんですよ」
医務室の真横に焼却炉がありグラントは医務室の窓から、焼却炉のメンテナンスをしている清掃員が中から何かの束を回収している姿を何度も見ている。
若い清掃員なので、最初はエロ本か淑女に纏わる品物を広い集めているのだと思い清掃員を問い詰めたのだが教頭からの依頼で小遣い稼ぎをしていると悪びれもせず話してくれた。
「…貴族どころか国が根本(市民レベル)から腐ってますからね」
稼ぎのためなら横領だろうが横流しだろうが便乗するのが上から教えられる常識なのだ。
「…私の所に来ないと正式な提出物にはならんし、ゴミの処分なんか事務局任せだったんだがな」
指導室にだけ性能のいい自動ゴミ処理機導入しようかと悩んだがアティアが退学した後なので無駄だと学園長は肩を落とす。
「で、実際どうなのよ学園長」
「イジメも何も原因がわかった所で、自主退学だから今更誰も責められんぞ?」
「…売り飛ばされたり魔石の代用品にされてる訳じゃないのね?」
代用品とは眠らされ死ぬまで地下のチューブにつながれる犯罪者の事で生徒が知らない学園の暗部とも言える。
「療養措置ならいざ知らず。生徒にそんな非道な真似する訳がなかろう?」
訝しむシャルロットの前に一枚の書類を突き付けながら至極真面目に学園長は答える。
―長期療養申請書。
所謂体調不良や病気になった生徒を療養に出すための書類だ。インフルエンザや疫病でも申請が出来るがアティアの場合は過労と栄養失調症のようだ。
「数日前にグラントが教頭に渡したがやっとアティアが居なくなってから私の所へこの書類がきた。」
教頭のサインは今朝の日付入りで悪びれもしていない様子だったと事務員が話していたとシャルロットに説明する。
「わかったわ。いいから話しなさい」
「コレは私の責任だからな。部外者が混ぜっ返して教頭にまで手を出そうとするんじゃないぞ?」
「あ~もう、わかったってば。」
忌々しげに悪態をつく学園長に対し憮然としながらシャルロットは先を促す。
「そうだな、まずは―」