自主退翌日の報告
「新たな増員は八名ですね」
学園長室に来た短い茶髪の女性事務員が書類を読み上げ薄ら笑いを浮かべている。
朝礼中に増やされた出入りの下働きと内密に地下に繋がれたのが八人。
少なくとも、四人は供給の調整から外されたようだが、外されたのは貴族と貴族と貴族と貴族様か…最近親しくし始めたという商人の息子も居るのかもしれないがどうなのだろうな。
「最近はとくに忙しい様子ですし私達も教頭先生の威光にあやかりたいものですね」
手をニギニギしながらそう言う彼女の目は机の脇に置かれた箱を見ている。
うんうん、私が生徒に買ってきてもらった有名店の限定ショコラ八個入りが欲しいのかね。
「ひと…」
「ケチ」
「…二つ」
「…ありがとうございます。報告も終わりましたのでお茶をお持ちいたします」
「いや、私はいいから持って行きなさい」
箱から小さな袋に入れられたショコラを二つ取り出し彼女に持たせる。
悲しそうな顔をされてしまったが、午後から来る嫁の為に買ってきたのだから諦めなさい。
君ら女子職員にも人気のショコラを私が手に入れる為に食堂のオバサン達の有給を増やす書類にサインしてしまったのだからな?
机の上に放置しておいたら、中身の袋だけ残されて中身がなかったなんて過去があるから若いもんに頼むとロクな事にならん。
ショコラ20個職員18人。もし職員室で石を投げたら犯人でない者にも当たるのだろうか?
それはさておき、我が国の法には賄賂などというしがらみがない。市民クラスは自給自足に近い生活をしているから貴族が良い取引をしてくれなきゃ経済が回らないような国だ。
貴族は軍隊や町ごとの私設警備隊を維持するだけで金が掛かる。他国でならばウラで受け取った金は法に裁かれたりするが、あまり厳しくすると最終的に国税の負担が増えないように済むよう各地域の裏資金には口を挟まない仕組みがある。
賄賂だろうが談合だろうが国へ送る税と払うもん払えば法には触れない。
盗品人買い麻薬の三点に手を出さなければ貴族に対し騎士団が動く事は少ない。
騎士団も貴族の寄付は多い方が嬉しいから迂闊に口を挟まないし、教頭の活動のおかげで学園の入学者が増えるなら私も教師も嬉しい。
私は、渡された書類にサインを入れて事務員に差し出す。
「もともとアティアさんが入学しなければ予定されていた人員だから予算内なんですけど、この内二名が教頭の愛人です」
「…うむ、けしからん乳をしたのが二人ほどいたな」
「学園長。さすがにその発言はセクハラになりますよ?」
「忘れてくれたまえ」
女性を前に失言だった。
ああ私も家内の潤いがほしい。学園長なんてものになると家にも帰れなくなる。愛人がボインとボインか羨ましい。
「えぇ、第二殿下と保険医が知り合いと知って授業中に其方にちょっかいを出して居るみたいで…」
「つまり、〇ッチかね?」
「二人ともビッ〇だったそうです」
「それはもしや保険医の感想かね?」
「…まぁ、若い先生ですから」
NTRか教頭も大変だな。
教頭が当直をしないと家内と会う事すらできない私からしたら鼻で笑ってやりたいくらいだ。
―教頭ざまぁ…プーククク
「それから未確認になりますが、学園長の自宅なのですが最近若い男が頻繁に出入りしてるそうですよ?」
「………ほっ!?」
いい笑顔で“ご愁傷様です”と良いながら彼女は部屋から出て行った。
あのアマ最後に爆弾落として行きやがったぁぁぁっ!?
さて一回裏話話を纏めちゃいましょうかね。