自主退翌日
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朝礼の傍らで結界魔法陣の修正作業が行われている。
魔力回復量の二割を搾取するのは本来とても危険な事だ。
生活にこそ支障はないが、魔法力が三割を切ると頭痛や立ち眩みなど体に不調をきたす。
魔素の満ちた大地では、人の体内に魔力の巡っているから生かされているのだ。
体内魔力がないと大気中の魔素の圧力に押し潰されてペシャンコになってしまうのだ。
そんな訳で魔法力が零になると死んでしまうのだが、死ぬ前の刹那の瞬間にもわずかながらも回復していくので、魔力不足で昏倒しただけですみ、死なない事が多い。
だが、回復力の二割を奪われれば刹那の回復力が足りず死ぬ確率が高くなる。
今まさにその調整作業に職員達が追われている。
欠伸をかみ殺した生徒が居る。もはや夢の世界に旅立った者もいる。学園長である私も長い話し飽きが来ているが作業が終わるまで引き延ばさねばならない。
ステージ脇のカーテンからカンペを抱えた連絡係が申し訳なさそうに文字を書いている。
―後10分
任せろと目配せをすると連絡係が安堵したように頷く。
「さて、まだ時間が余っているとの話なので、最近気になった事を少しだけ」
先任の学園長から指名された最大の理由にして現学園長たる私の最強の特技は“喋る”どうどもいい話から役にたつ話まで知恵を駆使し飽きさせたとしても口を止めないで居られる根性にある。
職員達の期待を背に私は流れるように話を続ける。
あからさまに肩を落とした生徒が過半数を超えた。
だが、これから私が話すのは授業に関係ない。
私が独自に入手した、つい最近生徒達の間で流行しだしたブランド品が街中で安く手に入る…かもしれない噂について。
やがて衰えていく魔法力よりも若い時に路地裏で鍛えたこのしつこい舌には絶対の自信がある。
いや、生徒達にはつまらん話ばかりで済まないとは思うのだけどね。
アティアが居なくなってしまった供給設定の増加に、炎天下が加わったら何人かは体調悪くしそうだ。
開始から二時間、今日は何人早退するか、それが保険医との賭けの対象になっていたりするんだが…。
ー最近の若い者は軟弱でいかんな?