自主退当日深夜の侵入者
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アティアが自主退学した当日深夜の出来事である。
「…あら?おかしいわ」
部屋に明かりを灯したその娘は部屋中を見回して呟いた。
元々使っていなかった木製のベッドの上に鎮座しているのは寄せ集めの実験道具達だ。
さながら実験室のように揃えられたアティアお手製の調合器具は依然と配置が変わっていないのだが、紙束やノートで散らかっていた机や棚などは綺麗に片付けられ、チェック済みの基礎教科書も机の引き出しに“仕舞われた”メモみたいに書き込まれた本人すら何を書きたかったか判別不能の紙屑が仕舞われた引き出しの箱ごと空になっている。
「あまりに汚くて、いよいよ強制処分でもされたのかしらね?」
薬品混じりの臭いがする部屋の前を通ると“異臭がする”と度々噂になっているとは聞いていたがとうとう“強制撤去”されたのだろうかとシャルロットは小首を傾げる。
仕草はとても穏やかな女性なのだが、肩口の開いたドレスからみえる首筋は女性にしてはやや逞しさを感じさせる。
「アティアが帰らないのはきっと独房にでも入れられてるのね。アレほど私が部屋を片付けろといっておいたのに言うこと聞かないからこうなるのよ」
倉庫部屋と呼ばれる男子寮の日の当たらない部屋に押し込められているとは言え“女”まで失う事はないかっただろうと小さな友人を思い浮かべる。
ただ、汚い部屋ではないし廊下にいると何だか匂いがするのだ。学園指定のローブの下に着ていた衣服は町の露天で買って来ていたらしいが、サイズ調整に金をかけたくないとスソを折り曲げて調整していただけだから、だぶだぶのシャツとズボンしか持ち合わせていなかった。
ソファに座ろうかと考えたが、アティアの衣類が無造作に広げられ座れそうもない。
このソファもゴミ捨て場から彼女が拾ってきた物で、拾った時からボロボロだった。仕方なく衣類を隅に寄せそっとソファに腰がけ腕を組む。
腰の下のクッションが不自然に歪んでいるのは潰れた綿の代わりに布切れがギュウギュウに押し込められているからで、部屋の主はこのソファの上で丸まって眠っているが座り心地も寝心地もよろしくなさそうだ。
シャルロットは思いついたようにローゼットに向かう。
クローゼットを開くと案の定中は空っぽになっていた。
「本当にあの子どうしちゃったのかしら、家捜しされた後みたいで気分悪いわね」
彼女が台所と呼んでいた洗面台の棚には調味料としおれかけた野草が置かれ、小さな洗面器に張られた水の中には小さな皿とコップが浸されている。
夜食にしていたクラカオの実など研究に関わりそうな物は一粒も残されていない。
「…せっかくあの子が好きなお菓子持ってきてあげたのに。明日もう一度来てみましょう」
そして、シャルロットは部屋の隅の床板を動かしシャルロットは床下へ消えていった。
―翌日、シャルロットはバラバラに解体されたソファに遭遇する事となる。