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自主退発覚

ストーリー分離の奇跡

その日、学園では緊急会議が行われていた。

昼を外食で済ませた恰幅のいい男性が自室に戻ると、自らの机は腕輪に占拠されていたからだ。

会議の内容は学園長の机の上を腕輪が占拠していた事なので、大したことない事に緊急会議を開くどうしようもなく狭量な学園長だと悪い印象を感じる事も否めないのだが、その腕輪は今期の結界維持の要となっていた特別製。


もしこれを魔力が少ない常人が触れてしまったとしたら、たちまち魔力が枯渇してしまい、学園の中で最も魔力が高い学園長がソレを手に取る事を躊躇しわざわざトイレから様々なな魔法耐性が付与された“う〇こばさみ”を慌てて持ち出すほどに危険な代物である。

この学園は常に結界に覆われ、その結界を維持するには莫大な魔力が必要としている。必要な魔力を集めるため、生徒のみならず学園に関わる全ての者に腕輪という魔道具を渡し、結界維持に必要な魔力を魔法陣に集めているのだ。


それというのも、本来の結界魔法はどれだけ魔力を注い強固な結界を作ろうとも、相応のダメージや時間がくると消えてしまう。


魔法陣による結界は、どんなに低威力の結界でも魔力が魔法陣に注がれている限り内部に収められた魔法陣が破壊されない限り持続する。


教師や生徒から集められる魔力は、魔力回復量のおよそ二割以下で、学園長は魔力回復量の九割近くを結界維持に充てている。これは常人では信じられないほど危険な行動で、もし学園長が結界内部で魔力総量ギリギリまで魔法を使ってしまうと、ほぼ回復が出来ずに結界は崩壊する。


学園長は、いかなる手段を用いてでも結界を維持出来なければ学園長たりえないのだが、人前で一切魔法を使わずともいいように、実技の授業中は絶対に近寄らないが生徒達からは“昔は偉大な魔法使い”と呼ばれ、教頭は“生きた見本”となれるように魔力徴収は一切なく、度々実技指導に従事しているので、学園長より教頭のほうが生徒達の信頼度は高い。



学園長の学園への献身的な行動はさておき、魔法陣に送る魔力それでも足りない年には高価な魔石を代用し年間で大くの量を消費した記録もある。

学園長のみならず教頭以外は誰であっても結界内で使える最大魔力量が大幅に落ち、今季以前は本人が思ったほどの魔力が使えずに成績が振るわないまま卒業した生徒も多かった。


しかし、今期は魔力総量が高いが献身的な生徒が居てくれたお陰で誰もが思うとおり自由に魔力を行使していた。


まぁ、彼女が入学前に文字が読めないと判明しパトロンでもある侯爵様と二人で大急ぎで文字を叩き込んだのはいい思い出だ。


献身とも言える契約は口頭で了承しているので、成績に関わらず卒業させる予定でいたし、この腕輪の持ち主が、結界に必要な魔力の半分近くを一人で賄っていたからこそ、他の生徒の負担が減り、魔法ギルドから今期の学園生徒は優秀であるという評価がされていたのだ。


魔力のみならず、その生徒は天才すら超えて鬼才と呼ぶに相応しい頭脳をしていた。


大規模な実験施設が必要になるであろう研究を多角的に考察し、莫大な費用を用いてでも実験を行うだけの価値がありそうな論文の数々。


今ではありきたりでわかりきっている実験を本ではなく、基礎を実験して確認する我々ですら呆れてしまうような探求心。


だが、入学以来その人柄は奇抜ではなく至極穏やかであったが、日々やせていく彼女を不気味に感じている者も多いようだった。


手遅れになる前にしばらく学園から離して療養させようかと侯爵と相談していたくらいだったのだが、その生徒の力を密かに利用し政治界への足掛かりにしようとしてきたらしき教頭が反対し先延ばしになっていた。


貴族に教鞭を振るう学園教師は“元”となっても政治に参加できない仕組みになっているのだがね。


この学園で作成された論文は、一つ残らず機密文書として国の研究機関へ渡されている。

そして、その研究機関すら舌を巻くような内容を書き上げた者が今日消えてしまったようだ。

おかげで、結界の効力は弱体化し危険な状態が続いている。


「では、その“彼”は生徒指導室に保管されていたカギを奪い取って自ら腕輪を外したのですか」


「わ、私は必死に止めたのです。しかし、彼は私を引きずり倒し、机の中のカギを奪い取って自ら…」


学園長に、当時の状況を説明しているのは生徒アティアの担任教師である若い男。


「もういいでしょう学園長」


教師の弁明に口を挟んだのは、教頭でありアティアの学年の学年主任である中年の男。


「話を聞く限り、生徒が暴走しただけで彼はあくまで被害者でしかありません」


「…生徒アティアを、呼び出していたのは貴方だと他の者から報告されています。」


なぜ貴方ではなく教師が弁明しているのかも知りたい所だった。


「呼び出したのは確かに私でしたが、どうしても外せない用事が出来ましたので先生に変わって頂いたのですよ。生徒が居なくなったのは残念ですが、プロイセ侯爵が後押しする真面目な教師である彼に生徒が起こした不祥事の責任を取れと学園として強く言えないと思えませんか?」


「彼はプロイセ侯爵家からの紹介で雇う事になったのだったな、なら学園のためにも不問としておいた方がいいと教頭は考えいるか。」


プロイセ侯爵は政治界に顔が広い事で有名だが、元々この学園に出資し運営しているのは魔法方面に強い侯爵家と即戦力となる人材が欲しい辺境貴族がほとんどだ。


国や有力貴族は騎士学校にある学園の分校にあたる魔法学部にしか出資をしていない。


学園の一員として権力をかさに着るこの教師をよく思っていない者も多いし旨みもないのだが、侯爵様から悪い例として活用すべきとの声があり試しに雇っている。


教頭におべっかを使う教師の姿を見て、その道を行く者の姿の馬鹿らしさを学んでくれるだろう。


下の者には傲慢に振る舞い、上の者にへりくだる。


それもまた大人の姿であると存分に学んでくれるだろう。


「その通りです。今我々が論議するべき事は、結界に対してどう対処するかが先決です。学長として、どうなさるおつもりですか?」



侯爵の後押しとは言い換えればコネの事だ。


生徒が奪い取れる場所にあるとした、生徒指導室のカギの保管のずさんさな管理をしていた教頭にも責任があるのだが、そんな事はおくびにも出さず、逆に彼は現在の学園管理の不備の問題で学園長の責任を問う形で突き返してきた。


いや、私に責任転換してなんになるのだろうな?


いっそこいつらから絞れるだけ魔力絞りとりたいが、その魔力も二人じ全然足りないしめんどくせぇな。


「…わかりました。それなら今回の事は関係者の責任は不問・・といたしましょう。

この実験は破棄し、明日の朝の集会で生徒からの供給量を増やし結界の緩みを補強しましょう」


「承知しました、では謝罪といってはなんですが、私と彼の二人調整の呪文を作成させていただきたいと存じあげます」


それが本当に謝罪ならいいのだが、有力貴族に連なる子供の腕輪の負担は変更しないで通すつもりなのだろう。


卒業後にでも密かに恩に着せるつもりなのだろうか?

いや、親御さんから賄賂を貰ってたりするなら私に酒の一本も送って寄越せ。


「わかっていると思いますが身分成績を問わず全て(・・)の生徒から回復量の二割です。それで足りなければ雑用に雇う(・・)人員を増やして対応なさい」


まぁ、嫌な話なのだが教頭の指摘は確実にやらなければならない大事な事だ。


なにより私の知る侯爵家は学園創設以来関わってきている大事な投資主で、地下には足りない魔力を供給する為の奴隷を繋いでおく空間もある。


たかが実験のためにと歴代の学園長や私自らも懇意にしてきた侯爵との関係に皹を入れていいものではない。


その理由を作る為に、教頭は責任を問われても致命的な事態にならない彼を、自らの人身御供に仕立てあげたのだろうか?


プロイセ侯爵の息がかかった教師を罰せる訳がないとタカをくくってるんだろうが嫌らしいにも程があるな。


プロイセ侯爵に嫌われても何の痛手もないが戦力がなくなるのはやっかいだな。

教師に事情を持ち出し“担任の失態”に作り上げたかはわからないが、生徒アティアを呼び出し実際に話をしていたのは教頭で間違い無い。


生徒アティアは、魔力の保有量は確かに多かったが、攻撃的ではないし魔法を苦手としていたのを“知って”いる。


魔法より内向的なあの性格では、外で冒険者になった所で大成はしないだろうが、器量よしではあったから、探している間に田舎で一人二人産んでしまうかもしれない。


腕輪の本人が居なくなったのならば実験のしようがない。


彼女が在学中の特例として認められた実験で、アティアが卒業してしまえば通例通りの状態に戻す予定だった。それが早まっただけだ。


個人の魔力供給による結界維持と言うより、結界の負担が軽くなった場合、生徒の成績の向上が見られるかを調べていた。


結果は否。


確かに実技は過去より大幅に向上したが、魔力供給が減ろうとも学力には影響しなかった。


それがわかれば十分だ。


さて、優秀な魔法使いの卵が世に放逐されてしまった訳だが、王家も魔法研究機関から王太子の論文を選出してる以上、あの生徒の存在を明るみに出すことは望んではいないだろう。

腕輪が本人にしか外せない仕組みである以上、生徒が自ら外した事に間違いないのだ。

だいたい、これ以上教頭の責任を追求する事は難しいなら、わざわざ奴と顔を合わせている必要もない。


プロイセ侯爵家のみならず王家にも独自に通じているとされるこの教頭がいなければ、学園は私が自由に運営できるというのに、全く持って忌々しい。


ところでキミらには彼女は“彼”にしか見えなかったかね?


まぁ、もし彼らが独自に手駒にしたいと“彼”を探すなら数ヶ月後にはもう見つからんだろうな。


だって“彼”だ。


やせる前の顔は綺麗であったし、髪も伸ばし肌も透けるように白かったんだから将来は相当な美人になるだろうからな。


ウチはウチで侯爵に彼女の捜索を依頼しておこうか…。


近隣諸国にも有名ではあるもののこの学園が国営の学園でなくて本当に良かった、もし国営の学園で彼女の魔力保有量を知って無碍に退学したなら国から首が飛ばされかねんよ。


ここは政治教育分離“政教分離教育”がモットーの体質の国だからな。


元々教師は政治屋から嫌われているのだ、常々私“たち”は教頭にこの言葉を送りたいと思っているのだ。


―魔法使いの墓場へようこそ。


なう。

勉強キライ教師キライ

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