第六十六話
前回のあらすじを三行で
蒼太「早く帰りたい」
王「土産を持たせるから待ってろ」
執事風の男:何か持ってくる
執事の格好をした男性は部屋へと入ると手にもった荷物の布をとり、その中身を蒼太達へ見せた。
そこには豪華な装飾が施された短剣が置いてあり、柄には王家の紋章が刻まれていた。
「豪華な短剣だけど、欲しいかと言われると……」
蒼太は眺めるだけで手に取ろうとはしなかった。
「そ、ソータ殿。これは受け取ったほうがいいですよ。これがあれば関所は見せるだけで通れますし、王城への入城許可もおります」
余程の代物だったのが、ナルアスの声はやや震えが混じっていた。
「ソータさんすごいです!」
アレゼルもそれを見て、飛び跳ねんばかりに興奮していた。
「うーん、これを貰ったとして、関所を通ろうとしたとするだろ? そうしたら、貴様! これをどこで盗んだ!! とか言われそうで……」
「そ、その可能性は考えてなかった。うーむ、確かに人族が持っていたらそういうこともありえるのか……」
執事風の男はガックリと肩を落とし、うなだれた。
「はー、せっかくこんな格好してまで来たのにこいつじゃダメだったか……」
オールバックにしていた髪をくしゃくしゃにし、眼鏡を外し、あごひげを外すとそこには先ほど広間で会った王の顔があった。
「やっぱりあんただったか……」
蒼太は正体がわかっていたため驚きはない。
「え、えぇええええぇぇえええぇぇ、もごもご……」
アレゼルは驚きのあまり、城内に響き渡るほど大きな声をあげそうになったが、いつの間にか後ろにいたローリーによってその口をふさがれた。
「はーい、静かにしようねー」
「もご! もごもご!! もご……」
アレゼルも最初の内は抵抗しようとしていたが、ローリーの力の使い方の前には身動きがとれず早々に諦め身体の力を抜いた。
「はぁはぁ。す、すいません、驚きすぎて大声出してしまって……」
解放されたアレゼルは息も絶え絶えに皆に謝った。
「うん、わかればいいんだよ。大きな声を出したら衛兵さんが来ちゃうでしょ、そしたら王様が困っちゃうよ?」
「うぅ、王様ごめんなさい」
ローリーに注意され、泣きそうな顔で謝った。
「あ、あぁ、そんなに気にしなくてもいいんだよ。私がこんなことをしたのが悪いんだからね」
そういって頭を撫でると、アレゼルはくすぐったそうに目を細めた。
「で、何の用なんだ? わざわざ来たってことは、別にそれが本題ってわけじゃないんだろ?」
「君はどんな場面でも変わらないんだな……だが、君の言うとおりだ。ますはディーナ様に謝罪を。私の部下が失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」
王が頭を下げる、この部屋の中でなければ大事になっていたであろうこの行動に皆が驚いた。
「き、気になさらないで下さい。既に謁見の際に謝って頂いてますし、もう十分です」
それを聞き、頭を上げるがその表情は冴えなかった。
「いえ、あの時は王としてですが、今この場では一人のアグラディアとして謝らせて下さい」
そして、再度頭を下げる。
「あんた……アグラディアって名前だったのか」
蒼太は頭を下げていることよりも、初めて聞いたその名前に関心があった。
「え、あぁ、そうだ。ソータ殿や皆さんにも謝らせて欲しい……本当にすまなかった」
自分たちにも頭を下げているアグラディアを見て、蒼太は気が抜けていた。
「ここに来る前にナルアスが言ってた通りだな、アグラディアが王なら悪いことにはならなそうだ」
「ですね」
「そうですね」
「だねー」
「ですです」
四人も蒼太に同意し、頷いていた。
「な、何かしてしまったかな?」
蒼太達の反応にとまどいそんなことを口走った。
「いや、あんたがいいやつだって話をしてたんだよ」
「そ、そうか。それはありがとう、でいいのかな?」
困惑しながら礼を言うアグラディアに皆はおかしくなり、笑いを抑え切れなかった。
「ははっ、あんたやっぱ面白いやつだな。もう謝らなくていい、その短剣もありがたく受け取っておくよ。代わりに俺からも友好の証に何か……」
短剣を受け取ると蒼太はマジックバッグを探り、癒しの苗木を取り出す。
「これをやろう、これとこの聖水があれば癒しの木を増やせるはずだ。苗木を植えたら、数滴かけてくれ」
苗木を1ダース、聖水を一瓶取り出しアグラディアへと渡す。
アグラディアは口を大きく開け、目を見開いてそれを見ていた。
「予想になるが、今ある癒しの木は一気に取られたあとに残った木からなんとか再生したものなんだろ? 供給量が著しく少ないことから考えて、弱い種になってしまってるんじゃないか?」
「よくわかりましたね。その通りです、今ある癒しの木は種として弱く、つける葉の量も少ないため流通量がどうしても少なくなっているんです」
「やはりな、元々の木であれば売るほどの枚数をつけるあの葉が尋常じゃない値段ってのはおかしいと思っていたんだ」
ナルアスの回答に得心がいったと蒼太は頷いた。
「アグラディア……おい、アグラディア!」
二度目の強い呼びかけでアグラディアは自分を取り戻した。
「な、なんですか。これは」
何故呼んだのか? この苗木は一体何なのか? その二つの意味を込めて蒼太へと質問をする。
「これは、今の弱い種の癒しの木ではなく、元々の強い種の癒しの苗木だ。これがあれば、癒しの木の葉の流通量の回復に役立つと思うんだが……なぁディーナ?」
「ほ、本当に?」
アグラディアは手元の苗木と、蒼太の顔と、ディーナの顔とを見比べていた。
「本当ですよ、それは私がソータさんに渡した千年前の苗木です。問題の改善に役立つのであれば、お使い下さい」
蒼太の言葉にディーナは話を合わせた。その言葉は淀みなく、蒼太の意図を汲んだものだった。
「ありがとう、ソータ殿。ありがとうディーナ様」
アグラディアは苗木を横に置くと、それこそ額が地面につくのではないかというくらい頭を深く下げた。
癒しの木の葉の問題は、他種族差別の根源となっていた問題でそれが解決されることはアグラディアの望む他国との国交正常化に向けた大きな一歩となるものだった。
「そんなに頭を下げなくても……それより、この短剣を使えるように、衛兵や門番たちに連絡をしておいてくれよ」
「もちろんです! 国の救世主と言っても過言ではないあなた方が不自由なく移動出来るよう言い渡しておきます」
頭をあげると、深く頷き、そう強く宣言した。
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