第八話
入り口を隠し終えると、日が傾き始めていた。
「ヒヒーン」
蒼太たちがダンジョンから出てきたのを感じ取っていたのか、エドワルドもその場所へとやってきて合流している。
「今から移動するのはさすがに暗すぎるか。ダンジョン探索で少し疲れたから、このあたりで一泊していこう。次の目的地のことも相談しようか」
蒼太はそういうと、入り口から少し離れた場所に移動しはじめ、仲間たちもそれに続く。
湖畔から少し距離を置いた開けた場所に聖域のテントを取り出して、そこで休めるようにする。
「さて、今日は湖畔でキャンプだな」
「ソータさんは休んでいて下さい。夕食の用意をします」
「わかった、頼むよ」
蒼太はディーナに料理を任せると、自分は釣竿を取り出して湖に釣りに行った。
「――アトラはどう思う?」
蒼太は釣り糸を垂らし、その隣に寝そべるように座っているアトラへと質問する。
『どう、とは?』
何について質問をしているのか? アトラは顔を起こしてそう聞き返す。
「あのダンジョンにいた騎士たちのことだ。隊長とかいうやつは話のわかるやつだった。入り口にいたやつも少し単細胞だったが、あれはあれで上の命令をしっかりと守ろうとしていただけだ」
洞窟であった騎士たちの評価をする蒼太。
『ふむ、私の見立てでもそのとおりだ。……それで、ソータ殿は何を気にしている?』
なぜこんな質問をするのか、その真意をアトラは問いただす。
「あいつらには悪意はないようだった。しかし、ダンジョンコアをとってくるという依頼をした依頼主はどうなのかと思ってな。まあ、想像でしか話せないことなんだが……」
彼らは悪い人間ではなく、ダンジョンコアは価値があるもの。
その二つの点から見ればよくある光景だったが、蒼太は何か引っかかっていた。
『ふむ、ソータ殿は何か気になっていることがあるということか……』
ならば、とアトラも今回のダンジョンであったことを思い返してみる。
入り口で会った騎士。
彼は上からの命令で、ダンジョンへ入ってきた者を通さないようにしていた。
水龍と戦っていた騎士たちは、入り口にいた騎士の仲間である。
その彼らは水龍にやられそうになっていたため、蒼太たちがそれを助けたことで事なきを得る。
隊長と呼ばれた騎士は蒼太が入り口の騎士をどうしたのかを気にしていたが、気絶させただけだと話すと安堵した様子であった。
そして、蒼太たちに礼を言うと少し不満げではあったものの、彼らはダンジョンをあとにした。
『ふむ、ソータ殿は彼らのことをどう見る?』
「どう見ると言われると、まあどこかの貴族のお抱えの騎士。もしくは、どこかの傭兵団ってところだろ。どちらにしても、その貴族だか依頼主だかの情報はもらさなかったのはいい判断だと思うが……まあ、しっかりと頭を下げて礼を言っていたのを見ると悪いやつらじゃないと思う」
それが実際にやりとりをした蒼太の彼らに対する印象だった。
『ソータ殿の意見にはおおむね賛同する。……が、一点気になることがある』
「それは?」
アトラは何か気づいているらしかった。
『悪いやつらじゃない、という部分。そこだけは賛同しかねる。あのダンジョンでソータ殿と会話をしている間、確かに彼らからは悪意はなかった。それも当然だろう、助けてもらった身だからな』
そこまで聞いて、蒼太も思い直す。
「なるほど、そもそもいいやつらだったら入り口で通せんぼなんてこともしないわけか。それに、俺たちの力を見たからには敵対するわけにもいかないと、そういうことか」
蒼太の視線は釣り糸から動いていなかったが、アトラが頷いたのを感じる。
『ソータ殿は普段は周囲に対する注意力が高い。しかし、ダンジョンでの時のようにどうでもいいような場合、もしくは圧倒的な力の差がある場合に見逃しがあるのは注意したほうがいい』
静かな口調でアトラに注意され、困ったような表情をした蒼太は自分の頭を掻く。
「全くもって正論だ。しかし、正論は意外と人を傷つけることもあると覚えてくれ」
蒼太は自分の見落としを正当化するつもりはなかったが、それでもアトラの指摘はぐさっときているようだった。見る人が見ればちょっと落胆しているのがわかっただろう。
『――それよりも、竿が動いているがいいのか?』
「わ、わっと、ぐっ……こ、これはなかなか強い引きだ!」
最初は軽く引っ張るような釣竿が一気にしなり、糸もピンッと張っている。蒼太は慌てて立ち上がると気合を入れて竿を引きはじめた。
それと同時に蒼太は、瞬時に魔力を釣竿から糸へと流しいれる。
元々の素材も強固なもので作られていたが、それに加えて蒼太の魔力で強化されたそれはちょっとやそっとでは壊れないだけの強度になっていた。もし大物がかかっていても竿が壊れてしまっては獲物を逃がしてしまうからだ。
「ぐおおおおお!」
どれだけの大物がかかったのか、未だ姿は見えないものの、蒼太の力をもってしても、簡単には引き上げることができない。
『む、むむむ、が、頑張れ!』
これは相当の大物の気配だと思わずアトラも応援に周り、手には力が入っている。
「ふんっ……きょ、強化付与! いくぞおおおおおお!」
竿で獲物との駆け引きをしていた蒼太は一瞬自身の方に流れが来たのを感じ取り、瞬時に自らへ身体強化の付与魔法をかけて、思い切り竿を引き上げる。
湖の水を全て引っ張って来たのではないかと思えるほどの勢いで、ざばあああんと大きな水しぶきをあげ、飛び出たのは五メートルは超えるであろう巨体の魚だった。
「うおおおおお!」
『うおおおおおおお!』
普段は冷静な蒼太とアトラも、想像以上の大物を捕らえたことで興奮したのか、その巨大な魚を見て、二人揃って雄たけびをあげていた。
「ふー……」
『す、すごいな……』
湖のわきで一息つく蒼太とアトラの前で、釣り上げられた魚はビチビチと動いている。
「……このままにはしておけないから、とりあえずしめておくか」
蒼太は剣を取り出すと、魚へと近づいてその息の根を止め、血を出しておく。
『これは食べ応えがありそうだ』
ふんふんと尻尾を揺らすアトラは蒼太たちと旅を共にしていくうえで、肉や木の実だけでなく、魚も美味いものだと見識が広がっており、この魚を食べるのを楽しみにしているようだった。
蒼太は内心で、これだけ大きな魚になると大味であまり美味しくないかもしれない――そう思ってはいたが、喜んでいるアトラの表情を見てそっと言葉を飲み込んだ。
そして料理上手なディーナが、うまいことこの魚をアトラの気にいるようにしてくれることを願っていた。
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