第四話
奥に進む道すがら、蒼太たちは水属性の魔物と何度か戦闘していた。
身体が水でできている豹。水を足から噴射して高速移動を行う虫。水を凝縮させて噴き出すスライム。
半魚人、水のゴーレムなどなど、多様な水属性の魔物が生息している。
それらを蒼太、ディーナ、アトラはあっさりと倒していく。
彼らの実力の前には、水に特化した魔物であっても簡単に突破することができた。
「先に行ったやつがいるはずなのに魔物がいるのは、これもダンジョンだからなんだろうな」
「それもいい質問ですね! ソータさんのおっしゃる通りです。ダンジョンの魔物はダンジョンが生み出していると言われていて、倒されてもしばらくすると復活するとのことです」
またもや現れた水属性の魔物をあっさりと切り伏せ、感心したように言う蒼太の言葉に、ディーナは自信満々な様子で答える。
「なるほどな、だったらさっさと進んだほうがいいな。ゆっくりしていたら、また魔物が出てくるかもしれない」
「そうですね、奥に何が待っているかわかりませんから、戦闘は最小限のほうがいいと思います」
相当な実力を持つのに対して、二人は油断というものを微塵もしておらず、誰が相手でも盤石の状態で迎え撃てるように心がけている。
『……二人を相手にする者に少し同情するな』
アトラは最強ペアを見て、これから二人と戦う魔物、そして奥にいるであろう何者かに同情していた。
そこから更にしばらく進んでいくと、奥から声が聞こえてくる。
「――くそっ、魔物が多すぎだろう。お前たち、隊列を崩すな!」
少し開けたエリアであり、声の主は部下の騎士に叫ぶように指示を出して魔物と戦っている。
対するは大型の魔物であり、身体の長い――いわゆる和タイプの水龍を彼らは相手にしていた。
水をそのまま龍の形にしたような透明感のある身体をもち、動くたびにそれらが流動的に水の流れを生み出す。
その魔物を相手にしているのは、入り口の男と同じ鎧を着た者が十人、そして指示を出している人物を合わせた十一人。
全員が高ランクの武器と防具を装備しているが、水龍を相手にしてはどこか分が悪いようだった。
緊張と不安の表情で戦うその姿は、歯を食いしばってなんとか耐えているのがわかる。
「……ソータさん、どうしましょうか?」
「うーん、倒してもいいんだが、横から獲物を奪われたと言われてもやっかいだからな」
困ったような表情で二人がどうするか相談している間にも、彼らはどんどん劣勢に追い込まれていた。
『あの指示を出している者に話しかけてみるのがいいのではないか?』
アトラは悩んでいる二人、そして彼らの状況を見て、早急に判断する必要があると考えて進言する。
「まあ、それがいいか。行くぞ」
蒼太はちょっと近所に出かけるかのような気軽さで言うと、指示を出している男性のものとへ近づいていく。
「あのー、すみません。通りがかりの冒険者だが、アレは手伝ったほうがいいか?」
「っ……な、なんだお前は!?」
幾分か遠慮がちに声をかけた蒼太にビクンと身体を揺らして指示をしていた男が勢いよく振り返る。
戦闘に集中しているところへ、見知らぬ男が声をかけてきた。
これは彼を混乱に陥れるに十分なものであった。
「あー……俺たちは冒険者だ。あの龍を相手にして苦戦しているようだったから、加勢したほうがいいか? って質問しているんだが」
混乱している様子の男にもわかるように、蒼太は再度、先ほどよりも詳しく。かつ簡潔に話していく。
「お、お前らの加勢などなくても、あんな魔物、私たちだけで十分だ!」
カッと顔を怒りの色に染めた男は、そういって蒼太を怒鳴りつける。
彼にしてみれば、あの魔物を倒すのは無理だろう? とでも言われたように感じており、馬鹿にされているとまで思ってしまっていた。
「えっと、その、でも、大変そうですけど……」
そおっと進言するように、ディーナが戦闘中の十人を指差して言う。
指示をしていた男が少し目を離した間に、十人のうち半数の五人が吹き飛ばされ、それぞれ怪我をしていたり、意識を失ってしまっていた。
「うがっ! ……な、何をやっている! さっさと立ち上がって戦わんか!」
怪我をしている彼らに対してがむしゃらにそんな指示を出したのを見て、蒼太はこれはまずい状況だと改めて理解する。
「ふう、仕方ない……――勝手にやらせてもらうぞ!」
ため息交じりにあきらめをつけた蒼太は夜月を右手に持って水龍へと向かって行く。
残った五人の騎士も満身創痍といった様相で、動きが鈍くなっている。
そこへ水龍が水のブレスを放とうと、タメの姿勢に入っていた。
ぐるぐると力のうねりを感じさせる水の塊が水龍の口元に集まっている。
「ディーナ!」
「了解です! ――精霊さん、お願いします!」
嬉しそうにくるんと一回転した精霊はディーナの呼びかけに応え、残った騎士を守るように水壁を作り出してブレスを防ぐ。
ここまでずっと顕現していたため、十分な水の魔力を蓄えることができていた水の精霊。
水龍のブレスに抗するだけの強力な水壁を作りだすことに成功する。
放たれた水の強力なブレスは、本来なら岩ですらあっさりと貫通しそうなほどの威力だったが、精霊が生み出した水壁がブレスをしっかりと防いでいる。せき止められた水はうねりながら分散して消滅した。
「……ガルル!?」
防がれると思っていなかった自らの攻撃を急に現れた水の壁が防いでいる。
それは、水龍にとって理解できない光景だった。
「おい、お前たち一旦下れ。そのままやってもいたずらに命を失うだけだぞ!」
叱咤するような蒼太の指示に、どうしたものかと動きが止まる騎士たち。
これまで指示を受けて戦うばかりだった彼らは、上司以外の指示を受けても戸惑うばかりで身体が動かないようだった。
しかし、その間にも水龍は次の攻撃に移ろうと準備していた。
力を蓄えるような動きをしている水龍は、尻尾を大きく振り回して蒼太とディーナ、そして騎士たちを吹き飛ばそうとする。
「アトラ!」
『承知!』
しかし、尻尾は途中で止められることとなる。
蒼太の呼びかけに瞬時に飛び出したアトラは尻尾に体当たりをして、その動きを止めたのだ。
「――ふんっ!」
蒼太は走る足を止めず、まっすぐに水龍へと向かい、そして夜月で斬りつけていく。
これまでに騎士たちは、剣や槍で水龍に攻撃を当てていた。
それらの攻撃は水龍に当ててはいたが、それがダメージに繋がっているかというとそんなことはなかった。
水の身体を持つ水龍は、水でできた自身の身体を一瞬だけ騎士たちの攻撃分隙間を開けさせ、彼らの攻撃の全てを受け流していたからだ。
「し、信じられない……」
「……こんなことがあるのか?」
これまで歯が立たないまま苦戦を強いられていた騎士たちは驚き、そして目の前で繰り広げられている光景を呆然とみていた。
蒼太が放った夜月の一撃は、水龍の身体をあっさりと両断していた。それこそ水龍が対応する隙を与えないほどに鋭い一撃で。
それは水をただ分断しただけではない。
狙いすまして切り裂いた身体の中から、力の源である魔石が飛びでてきたため、それを華麗に蒼太がキャッチする。
「なかなかいい魔力を持っていたみたいだな」
見定めるようにじっと見つめる蒼太が手にした魔石の大きさは、そこらの魔物の比ではなく、成人男性の拳程度の大きさをしていた。
件の水龍を全く苦戦することなく倒した蒼太は、待っているディーナとアトラのもとへと戻ってくる。
当然の結果を出してくれた蒼太を、二人はどこか嬉しそうに出迎えた。
「獲物を横取りしてすまなかったな。とりあえず、倒れているやつらの治療をしてやるといい」
振り向きざまに蒼太がそう助言するも、指示をしていた男は口をあんぐりと開けたまま、ただ茫然と倒れた水龍を見ていた。
魔石を無くした水龍はあっという間に形を保てなくなり、水龍の鱗などの素材だけのこして消滅した。それを蒼太はひょいっと拾い上げて自身のカバンの中へ押し込む。
「……はっ、そ、そうだ! まずは傷ついた者の治療を行うぞ!」
去ろうとする蒼太から声をかけられ、ハッと我に返った男の指示を受け、動ける騎士たちが仲間の騎士たちを安定した場所へと運ぶ。そして回復薬を使っての治療を始めていった。
それを確認したリーダーの男は、改めて蒼太たちと向かい合う。
「……何者かは知らないが助かった。ありがとう、礼を言う」
深く頭を下げ、一見すると素直に礼を言う男だったが、あげた顔は唇をかみしめ、厳しい表情だった。
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配信は電子コミックサービス「LINEマンガ」、漫画担当は濱﨑真代さんとなります。




