第四百十話
それから先は、リズの魔物探知によって、魔物の掃討はどんどん順調に進んでいく。
魔力含有量の多い竜鉄があるこの鉱山には、魔物が近づいてきやすい。
それを理解しているがために、念入りに魔物を倒していく。
素材に関しては綺麗に採集するのが難しいため、核だけを手際のよい冬子が抜き出していく。
それを二時間ほど繰り返したところで、一通り魔物を倒した大輝たちは鉱山の入口へと戻った。
「――ふう、これでこの鉱山は安全だね」
一仕事終えたように一息ついた大輝が鉱山の入口を達成感に満ちた表情で見ている。
しばらくは、という注釈がつくが、これによって竜鉄の採掘は容易になるため、ドワーフの国での鍛冶も活気が増していくこととなるだろう。
「それじゃ、一旦街に戻りましょうか。……さすがにあれだけの魔物を倒したから返り血も落としたいし、マグマの熱でお肌がカラカラよ」
魔物の返り血があちこちについている服を不満げな表情でつまんでいる秋。そう言ってから同意を求めるように、はるな、冬子、リズを見るが、三人は苦笑している。
「もしかして……こんな状態になってるのは私だけ!?」
秋が驚くのもそのはず、血で汚れているのは率先して近接戦闘を繰り返していた大輝と秋だけで、三人の服は綺麗なままだったからだ。
「だって、だいくんと秋ちゃんが先行してどんどん魔物を倒していたからねえ。うちは補助に回ってたし、冬子ちゃんもリズちゃんも遠距離攻撃メインだから」
はるなにそう言われて秋が鉱山での戦いを思い返してみると、気づいた時には大輝と競うように魔物を倒していたことを思い出す。
「あー……確かに、途中からヒートアップして、色々気にせずに魔物と戦ってたかも」
そう言いながら自分と三人を見比べていた秋は、もう一つのことに気づく。
「――ん? もしかして、肌が乾燥してるのも私だけ……?」
更にそこで気づく。よく見てみると後ろにいた三人は何か薄い膜に覆われていることを。
「えへへ、気付いたー? これ、冬子ちゃんが教えてくれたんだけど、魔力で身体を包むことで、周囲の環境による肉体への影響を減らせるんだって! 今回の場合は、マグマだから水の魔力がいいらしいんだけど、そうじゃなくても結構効果あるみたいだよぉ」
気づいてもらえたことを嬉しそうに笑うはるなは自らの頬をつつきながら、みずみずしさをアピールする。
「ちょっと冬子! そういうのは私にも教えてよね! この世界には化粧水なんてものはないんだから……」
肌荒れを起こしたら、それを回復するようなケア用品は存在しない。
それであるがゆえに、秋は口をとがらせ、冬子に不満をぶつける。普段さばさばした雰囲気を持つ秋も、可愛いもの好きだったり、肌ケアに気を使ったりと女性らしい部分がちゃんとあるため、自分だけがこうなってしまったことが悔しいようだ。
「ごめん、でも戦いの中でそこまで細かく魔力を操れると思えなかったから……――あと、大輝と秋は戦いに集中しすぎ」
淡々とした表情で冬子は謝罪するも、きっぱりとした言葉で現実を突きつける。
怒った側の秋が今度は反対に責められることになっていた。
「ははっ、まあまあそのへんにしようよ。外に出たら少し鎧についてる汚れは洗い流そうか。街に戻ったらお風呂のある宿を探そう、ね?」
女性たちの会話を聞いて笑った大輝はぽんぽんとなだめるように秋の肩を軽く叩く。
不満げに頬を膨らませている秋だったが、大輝の案に反対するつもりはなく、その表情のままこくりと頷いた。
普段、キリっとしている秋がたまに見せる子どもっぽい表情に、四人は微笑ましさを感じて笑顔になった。
――ドワーフの国
街に戻った一行は少し高めの宿に入る。
大輝が一人部屋、秋と冬子が二人部屋、はるなとリズが二人部屋の合計三部屋に分かれて宿泊することとなる。
高級宿であるため、各部屋にはお風呂が設置されており、五人はそれぞれの部屋でゆっくりと湯船につかって汚れと疲れをとっていく。
その後は美味しいご当地食材を使った夕食をとって、そのまま一晩泊まることとなった。
翌日、大輝たちは城にいた。
「――なるほど、それであの鉱山の魔物は一掃されたと。それはまことにありがたい!」
心から喜びの声をあげるのは王様だった。
列席していた将軍なども安堵や嬉しさから破顔している。
「王よ、早速部下たちを鉱山に向かわせ、今後は魔物がはびこらないように監視させましょう」
「うむうむ、それがよい。定期巡回をするよう頼む。いやぁ、これはめでたい! さっそく採掘部隊を派遣せねばならんな!」
不安が拭い去られ、これからのことに心躍らせた将軍も王もすぐに動くべく、話を進めていく。
「王様、勇者の皆さまが……」
ハッと我に返った大臣が王に耳打ちする。
あまりに喜ばしい出来事だったため、大輝たちが放っておかれていることを王は失念していた。
「あぁ、これは申し訳ありません。勇者のみなさんには何か礼をしなければなりませんな」
待ってくれていた大輝たちにふわりと笑顔を見せた王は何が良いかと考え始める。
「……あ、あの王様、僕たちは別に何もいりません。こうやって面会もすぐにしてもらえましたし、今回のことも勇者として当然のことをしたまでですから。装備を作る際に助力してもらいましたし、もう十分色々としてもらってます」
慌てたように王に告げた大輝の言葉は、謙遜ではなく、心からのものだった。むしろ鉱山の魔物討伐は新装備のいい試しになったため、大輝たちにとっては礼をしてもらうほどのことではないと思っていた。
しかし、はいそうですかとあっさり引き下がる王でないことは誰もがわかっていた。
上の立場に立つ人間――それも一国の王ともなれば、国が抱えていた問題を解決してくれたことに何もしないというわけにもいかないのだ。
「うーむ、しかしそういうわけにも……しかし、なにか勇者殿たちに報えるものが……何か? 大臣、何かないか?」
王は自分だけではいい知恵がでないため、いつも自分によい助言をくれる大臣に話を振る。
「そうですね、武器や防具は一新されたようですので、移動手段というのはどうでしょうか? 今も恐らくは馬車で移動されているとは思いますが、よりよい馬車に乗り換えるというのも旅の疲れを軽減できると思います」
「それがいい! 大臣、すぐに馬車を手配してくれ!」
「かしこまりました」
名案だと喜ぶ王と恭しく頭を下げる大臣の間でとんとん拍子に話が進み、大臣は神速ともいえる速さで部屋を出ると馬車の手配に向かった。
「えっと、その、あ、ありがとうございます……」
自分たちを置いてけぼりにして次々に話が決まったことで、戸惑いの色を隠せない大輝は礼の言葉を口にするだけで精いっぱいだった。
「――まあ、移動が楽になるのはいいことよ」
「だねえ、今の馬車だとお尻痛くなるもん……」
「よい馬車を望む」
「そ、そうですね……」
今の馬車に少なからず不満があった女性陣は特に抵抗がないようで、それぞれ反応を見せるが、総じて王の提案に喜んでいるようだった。
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