第三百九十三話
その後、大輝たちは、まっすぐ謁見の間へと案内される。
謁見ともなれば、準備をするための時間がかかるものだと思っていた大輝は、すぐに王と会えるということに少々驚いていた。
「すぐ会ってくれるんですね」
にこやかに大輝が案内をしてくれる衛兵に話しかけると、彼はくるりと振り返って緊張に身体をこわばらせながらも敬礼する。
「はい! 先ほどまで別の方との謁見がありまして、ちょうどそちらが終わったとのことでした。勇者の皆様、そしてエリザベス様の来訪を伝えましたら、すぐに会おうとのことです!」
鼻息荒く説明を終えた衛兵に対して、なるほどと大輝たちは頷く。たまたまタイミングが良かったのだと知り、運がいいと皆思った。
「それでは、案内を続けさせていただきます!」
使命感に満ちた表情の彼は再度進行方向を向いて、謁見の間へと向かった。
それからさほどしないで、謁見の間へとたどり着く。大輝たちは間近に迫った王との謁見に気持ちを新たにしていた。
「それでは、私はここまでとなります! 皆さまどうぞ中へお入り下さい」
「ありがとうございました」
大輝が代表して扉を開けてくれた彼に礼を言い、女性陣を引き連れて謁見の間へと入っていく。
部屋に入り、柔らかな絨毯の上を大輝とリズが一歩前を歩く。赤い絨毯のわきには兵士たちが毅然とした様子で並んでおり、荘厳な雰囲気があった。
その中を彼らが玉座の手前まで行ってひざまづいて一礼をすると王から声がかかる。
「ふむ、みなさんが勇者一行ですか……顔を上げて下さい、姿勢も楽にして構いませんよ」
髭面のドワーフであっても性格の良さが顔ににじみ出ている穏やかな表情の王は他国の王族と勇者を迎え入れるということで、いつもの口調ではなく、敬語を使っていた。
「はい、ありがとうございます。自分は召喚された勇者の大輝と言います。右手から順番にはるな、秋、冬子です」
顔を上げて立ち上がり、穏やかに微笑んだ大輝に紹介され、三人もそれぞれ頭を下げる。
「私はアーディナル王国の王女、エリザベス=フォン=アーディナルと申します」
軽装ではあったがドレスを身にまとった時と変わらない優雅な一礼はリズによく似あっているものだった。
「座ったままで失礼します。私がドワーフ国の王です、よろしくお願いします」
それぞれの顔を確認した王はそう言って軽く頭を下げる。
「では、早速ですが、獣人の国の王から書状を預かっていますので、お渡しします」
本題に入ろうと大輝は手紙を取り出して、王とその側近に見せる。
すると近くにいた側近がすすっと大輝のもとへと近寄り、それを受け取る。それは大事な物を扱うように、丁寧な所作だった。側近が手紙の封をといて、安全を確認し、中身を王へと渡す。
「ふむふむ、なるほど……そういうことですか。魔王との戦いのために装備が必要である、と」
手紙を読み進めて目を細めたドワーフの王の言葉に大輝たちは頷く。あごひげを触りながら王は少し悩んだ表情を見せた。
「……職人を紹介することは可能です。ただ、問題は職人の手が空いているか、そして職人が仕事を請け負いたいと思うかどうかですな」
少し間をおいて告げられた、王の紹介であっても仕事に割り込むことができないという事実に大輝たちは驚く。
「おや、驚いていらっしゃるようですな。私も王の座に就く前は職人をしていました。なので、職人の気持ちがわかります。仮に王権を行使して無理やり仕事をねじ込んだ場合、彼ら職人は最高のものを作るのは難しいでしょう。儲けや誰からの命かというのは彼らにとって大きな問題ではないのです」
ゆるりと首を横に振りつつ王は職人の気持ちを代弁する。
このあたりは獣人の国でも聞いた話であるため、大輝たちも理解はできる。
理解はできるが、それでも権威ある人の頼みでもそうであるということは驚くに値するものだった。
「それは……どうすればいいですか?」
自分の内からその問いに対する答えを導きだすことは難しいと考えた大輝は、素直に王に質問することにする。わからないことや困った時に一番最初に人に素直に聞けるのが大輝の特徴でもあった。
「――ふむ、そうですな。まず質問ですが、みなさんが求めている装備とはどういうものですか?」
王が大輝たちの考えを確認する。
「えっと、どう、と言われても」
「うーん、難しいねえ。良いものが欲しいっていうのはあるけど……」
ここでもやはり大輝とはるなは答えを出すのが難しかった。漠然と強い武器が欲しいと思っていただけの二人にとって、そこまでの具体的な案はなかったのだ。
「……私たちの目的は魔王と戦い、打倒することです。であるなら、この国で手に入りうる最高の装備を求めます。この国に来るまでに、強力な魔物と戦うことが何度かありました。なんとか撃破することができましたが、私たちにはまだ力が足りません」
その時、硬い表情で一歩前に出て答えたのは秋だった。これまでの悔しい経験が頭によぎる。
「もちろん、装備だけ強力でも意味がない……。自らの成長は重要な課題、ただ、それと同時に装備も強化していかなければ、この先の相手と戦うのは……厳しい」
秋の言葉に続いたのは冬子。ぽつりぽつりとした言葉ではあったが、そこにははっきりと意志が込められていた。
「ちょ、ちょっと冬子さん、王様に向かってその口調は……」
敬語を使わずいつも通りの態度の冬子をたしなめるのはリズの担当。先ほどまでの王族然とした態度がちょっと緩んでしまう。
「ほっほ、構いませんよ。それに、あなた方の気持ちは十分にわかりました。それならば、最高の職人を紹介しましょう。武器、防具、装飾品、それぞれトップクラスの職人に心当たりがありますので」
このやりとりで彼らの普段の様子を感じ取った王は穏やかに笑う。ただ強い武器をくれ、というだけだったなら紹介はしなかっただろうが、きちんと自分たちの成長も考えているというのならば考えは変わる。
もちろんその最高の職人とは、蒼太たちの装備を作った三名。
武器のアントガル、防具のボグディ、装飾品のアリサ――この三人のことだった。
「よろしくお願いします。……正直職人さんについては、全くといっていいほど情報を持っていません。紹介して頂けるだけでとても助かります」
再び王女としての振る舞いに戻したリズは王への感謝とともに深く頭を下げる。それに倣って、大輝たち四人も頭を下げた。
王は黙って柔らかく目を細めて頷き返すと、側近に手を振って指示を出す。
「――承知しました。少々お待ち下さい」
返事をしたのは王の側近だった。彼は謁見の間に隣接した小部屋へと移動して、すぐに必要な書状を持って戻る。
「こちらをお持ち下さい」
差し出されたそれを大輝が受け取るが、あまりに早い行動に思わず怪訝な表情になる。
「ふふっ、驚かれましたか? あなたがたがいらっしゃったという話は、街に入った時にこちらに伝わっています。そして、おそらくはこうなるであろうことを予想して、先に作っておいたのですよ」
してやったりといった笑顔で王の側近が説明をした。
「ということは……」
自分たちは試されていたのか――大輝たちはついジト目で王のことを見てしまう。
その視線を受けても王はニコニコと笑みを浮かべ、悪気の一切ない表情で頷いているだけだ。
「そういうことですな。ただ、会ったことのない、あなた方の人となりはわかりませんのでな、少々試させてもらいました。先ほどの気持ちが本心であるならばあなた方ならゆくゆくは魔王を倒すことができると判断しました。それゆえに、彼らのことを紹介しようと判断したということです」
自身が抱える職人たちを守ることが彼の役目であるため、たとえ勇者であろうとそう簡単には許可を出せない。少しの時間だが、彼らの人となりに触れて、足りないものを補い合いながら成長しようと努力する姿を見出し、許可を出したのだろう。
結局、最初から王の手のひらで転がされていたことに、大輝たちはまだまだ自分たちは甘いのだなと内心ため息をついてしまう。
しかし、目的の職人へのツテを手に入れたことで最強の装備への一歩が進んだことを感じていた。
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