第三百八十四話
準決勝のもう一試合は大輝の試合が終わって二十分後に行われた。
「――勝者アキ!」
毅然とした態度で剣をしまう秋に合わせて高らかに宣言された言葉は会場に響き渡り、準決勝もう一人の勝者が決定する。その瞬間、歓声が巻き起こり、会場は熱い盛り上がりに包まれた。
もちろん、大輝もその仲間たちもこの結果は予想がついていた。
「やっぱり秋だよね」
「うん、秋ちゃんだね!」
今日はもう試合のない大輝ははるなの隣で観戦していた。予想通りの結果で穏やかに微笑む大輝の言葉に、満面の笑みではるなが何度も大きく頷き同意している。
場内では勝ち名乗りを受けた秋が観客席を一周するように手をあげて歓声に応えている。
そして観客席にいる大輝の姿を見つけると秋は約束は果たしたわよと言わんばかりの笑顔になり、拳を大輝に向けた。この思わぬ秋の行動に大輝は驚いて目を見開き、固まっていた。
「……大輝、応えてあげれば?」
二人のやりとりを見ていた冬子が珍しくニヤリと笑って大輝に声をかける。手で口元を押さえつつも、冬子につられるようにはるなとリズもどこかニヤニヤ顔だ。
「そう、だね」
我に返った大輝にも思うところがあるらしく、すっと立ち上がると引き締まった表情で秋に向かって拳を突き出した。
「おおおおおおおおお!」
すぐに会場にいた人々は決勝で戦うその二人だと気づくと、彼らのやりとりに触発されたのか観客席がまた大いに沸いた。
「胸が熱くなるやりとりですね!! えー、手元の情報では、二人は同じパーティの所属とのこと。果たしてどちらが最強の座につくのか。明日の決勝をお楽しみに!!」
興奮交じりの場内アナウンスが響き渡り、更に会場のボルテージは上がっていく。
歓声は秋が控室に引き上げたあともしばらく続いていた。もちろんこの大会も賭けが行われており、賭けの胴元はこの盛り上がりを歓迎していた。大番狂わせと言ってもいいほど上位予想をひっくり返した大輝と秋の存在はここでも大きな影響力を出していたのだ。
決勝戦のオッズをどうするか、今から仲間内で相談しあっていた。
大輝と秋、どちらかの申し出というわけではなかったが、二人は再会したあと一言もかわさずに宿に戻って行く。
食事も自然と二組に分かれての行動となった。
大輝ははるなと二人で、秋は冬子とリズと三人で。
それは当日会場入りするまで続くこととなる。まだまだ彼らとの関係が浅いリズは二人の関係が険悪になったのかと内心ハラハラしていたが、はるなと冬子は二人が戦いに集中したいために行っていることだと理解していた。
付き合いの長いはるなと冬子には二人の間に流れる空気がどこかぴんと静かに張り詰めていたものの、決して互いを嫌うような雰囲気ではないとわかっていたからだ。
決勝当日、当然のごとく二人の控室は異なり、それぞれが自分なりの方法で集中力を高めていた。
「――そろそろお時間です、入場して下さい」
すると係員から声がかかり、二人はほぼ同じタイミングで入場することとなった。
大輝と秋が互いに反対側の通路から同時に姿を現したことで大きな歓声が会場を包み込む。
予選よりも決勝トーナメントのほうが、決勝トーナメントよりも決勝戦の観客のほうが多く、立ち見がでているだけでなく、通路、果ては会場の外の入り口まで観客が出る始末だった。
「さあ、両者入場してまいりました! 東のゲートより入場したのは剣士ダイキ! 数々の強敵を苦戦することなく撃破してこの決勝までやってまいりました」
熱のこもったアナウンスとともに巻き起こる歓声に対して大輝はふわりとほほ笑みつつ手を上げて、さらには頭を軽く下げて応える。大輝のファンなのか、女性の黄色い歓声が多いようだ。
「続きまして西のゲートより入場したのはこれまた剣士のアキ! 女性ながら華麗な剣さばきで並み居る強豪を押しのけての決勝進出です!」
秋は目の前の戦いに集中しているため、それまでの試合後のように応えることなく反対側から入場してくる大輝の姿だけ捉えていた。立ち振る舞いは凛としているのに、その目には熱く揺らめく闘志が宿っていた。こちらは野太い男の歓声が多いように感じられる。
「昨日も最後まで観戦された方はご存じでしょうが、なんとこの二人は同じパーティに所属しているとのこと! 同じパーティのメンバーが決勝でぶつかり合うということは、ここ数年行われた大会でも記憶にありません!」
決勝を担当するこのアナウンスの男性は国が主催している蒼太が参加した大会のアナウンスも担当しており、ほかにもいくつもの大会の担当をしていた。
その彼が言うならば真実味が高く、会場が再び沸きあがる。
「――それでは二人とも中央に」
審判が案内するのに合わせて近づいては来るものの、大輝と秋は互いに視線をそらすことなくにらみ合っている。二人はこれまでにもされた説明を改めて聞く必要がないため、すでに戦いにはいりこんでいた。
「そ、それでは開始位置へどうぞ」
自分の話を聞いてもらえていないことに気づいた審判は動揺しながらもなんとか話を進めていく。普段同じパーティにいるとは思えないほど、戦うことに全力を向けている彼らの様子は近くで見ていた審判には驚きの光景だったようだ。
審判の合図でこくりと頷いた二人は開始位置へと向かう。互いに剣を抜きあって戦闘態勢に入った。
「それでは……決勝戦、ダイキ対アキ――試合開始っ!」
試合開始の合図とともに先に動き出したのは大輝。これまでは待ちでいることが多い大輝だったが、この試合だけは先に動き出す。
反対に秋はその大輝を迎え撃つためにその場から動かずにいる。大輝から視線を逸らさずにしっかりと攻撃を見据えようとしていた。
「せえええええええい!」
攻撃範囲に入った大輝は勇ましい掛け声とともに上段から剣を振り下ろして強烈な一撃を繰り出す。
「――相変わらず力強い一撃ね」
だが秋は落ちついた様子で冷静に自分の剣でそれを受け止めた。単純な筋力でみれば男性の大輝の力のほうが強く、秋が押し込まれる場面を想像する観客も多かった。
「やるね」
「どうも」
しかし、その予想は覆され、秋は大輝の剣を見事に受けとめてその場で拮抗させていた。会場が一斉にどよめく。
「今度はこっちの番よ」
ふっと好戦的に薄い笑みを浮かべた秋はそこから更に力を込めて大輝の剣をはじくと、がら空きになった胴に向かって横なぎの一撃を放っていた。
見事な流れに虚をつかれた大輝はバランスを崩していたが、はじかれる剣を無理矢理筋肉で押さえつけて自分の体に引きつけると次に来る秋の剣を受け止めた。
「そっちもやるじゃない」
「まあね」
再び軽口をたたき合う二人だったが、彼らのたった二合の打ち合いは見ている観客から言葉を奪っていた。いつしか最初の騒ぎが嘘のように皆、手に汗握ってただただ試合を食い入るように見ていた。
それほどに二人の攻防は一瞬のことであり、なおかつ思わず見入ってしまうほどの迫力を持っていたのだ。
「さて、じゃあ次は僕の番だね!」
大輝はすぐに次の攻撃に移る。剣技だけでは二人は互いの動きを知りすぎているため、勝機を見いだすことは難しいと判断したのだ。
ならばと大輝は新しく覚えた技を投入していく。
「“ファイアボール”!」
まずは手始めに火の玉を放つ。大輝の使った魔法を受けるのは秋にとっては初めてのことだった。
「魔法……それがあなたの新しい戦い方ね。――でも!」
冬子が使う強力な魔法であるならまだしも、大輝が使う初級の魔法であれば魔法剣使いの秋にとって簡単に対処できるものだった。
「その程度!」
大輝が放った火の玉は三つ。それが同時に放てる限度だった。そして、その火の玉は魔力を通した秋の剣によってあっさりと撃ち落とされていく。
「……三つ! これで終わり?」
あまりにあっけなく壊せたため、ガッカリだと秋は大輝に視線を向けるが魔法の発射地点には大輝の姿はなかった。
「っ!? どこに!」
初めて間近でみた魔法に気を取られていたことに気づいた秋は慌てて周囲に意識を張り巡らせる。だが火の玉は秋に撃ち落とされた際に軽い爆発を起こし煙を巻き起こしていた。大輝の狙いはその煙に紛れることだったのだ。
すると鎧が擦れるようなガシャンという音が右から聞こえて来た。
「――右!」
秋の耳に音が入り込んで来た瞬間を狙って彼女が剣を振るうも、思っていた手ごたえは感じられなかった。
「こっちだよ」
静かに大輝が自分の居場所を知らせる。その方向は秋が予想していたのとは反対の左側からだった。大輝は左腕を覆っている鎧の一部をはいで右の方向に投げて、自らは左側に回り込んでいたようだ。
「いくよ」
その隙を逃さないと言わんばかりに、先ほど上段からの攻撃を防がれた大輝は、今度は秋の胴に向かって斬りつける。
「――ぐっ!」
これで決まったかと思われたが……。
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本日9/10は「再召喚された勇者は一般人として生きていく?」出版一周年なので、
別途ショートストーリーを投稿しましたので、よろしければご覧ください。




