第三百六十九話
真剣な表情の冬子は外が暗くなる前に切り上げて図書館をあとにする。
宿に戻ると、既に大輝、秋、はるな、リズは戻ってきており、大輝の部屋に集合して楽しそうに話をしていた。
「冬子、おかえり……どうかしたの?」
冬子がいつになく厳しい表情をしていたため、首を傾げた秋が尋ねる。
「いいえ、少し疲れただけ。それよりみんなは準備はできた?」
だが冬子は首を横に振ってから、話を変える。
「もっちろん! リズちゃんと一緒に色々買い込んできたよ。あっ、安心してね。余計な買い物はしてないから……うん、してないよ、少ししか」
元気よく話に乗って来たはるなの言いよどむような最後の言葉を聞いた秋の眉尻がピクリと動く。
「あ、あの! だ、大丈夫です。ちゃんと必要なものは買ってありますし、余計なものというのもハルナさんのお小遣いの中で買ったものなので!」
雲行きが怪しくなる前にリズが慌ててはるなのフォローに入った。
「買い物に行ってくれたんだから、少しくらい買ってもいいと思うよ。高いものをなんでもかんでもっていうのは困るけど……それはさすがにないよね?」
まあまあと秋をなだめるような大輝の言葉に、はるなとリズは勢いよく何度も頷いていた。
「ふぅ……私だって別に怒ってないわよ。ただ、はるなはたまーに浪費することがあるからちょっと心配しただけ」
ため息交じりに秋は自分が怖がられているとわかっていたため、自分自身のフォローを行った。
「大輝と秋は?」
このまま話が進まないことを懸念した冬子が、装備はどうなったのかと話を振る。
「もちろん私たちも必要なものを買って来たわよ。大輝」
秋に言われた大輝は大きく頷くと、買ってきた装備をテーブルの上に並べていく。
「わぁ、結構買ったんだね!」
次々に並んでいく装備を見てはるなは胸の前で両手を合わせて驚いた。
「うん、僕らはドワーフ国で武器を作ってもらうわけだけど、そこに辿りつくまで使い続けられる武器が必要だからね。今使ってる武器、特に僕と秋の剣は結構傷がついてきているから」
どうしても最前線で戦う大輝と秋は特に武器の消耗が激しい。
「どれどれ……うわっ、結構傷ついてるんだね……」
わかりやすいようにと大輝が取り出した剣を見て、はるなは驚く。
「うん、僕と秋は剣で攻撃を防ぐことも多いし、硬い魔物を斬りつけることもあるからね。どうしても刃こぼれしたり、傷がついてしまうんだ。城で教えてもらった手入れはしているんだけど、それでもどうしても防ぎきれないんだ」
大輝の言葉に同意するように頷きながら秋も自分の剣を取り出す。
「私のもこんな感じよ。大輝と同じく手入れはしっかりとしているけど、これだけ傷ついてしまうの」
二人の剣は城より支給されたもので、その中でも質の良いものだったが、それでも激戦を潜り抜けた彼らの戦いについていくのは困難だった。
「私とトーコさんは基本的に遠距離での戦闘が多いですから武器の消耗は少ないですけど、お二人はもっと良いものを用意したほうがいいですね。戦闘中に武器が壊れでもしたら大変です……もっといい武器を用意させるべきでした、申し訳ありません……」
申し訳なさそうな表情のリズも自身の城が用意した武器の限界を感じているようだった。
「そんなことないよ、いい武器を用意してもらってたら武器の性能に頼っていたかもしれないから、出立時の僕たちにはこの剣が見合っていたと思う」
緩く首を振った大輝は騎士団のフォローをする。これは、王女であるリズの覚えが悪くなるのは可哀想だと思ったことと、言葉のとおりの二通りの思いによるものだった。
「過ぎたことは置いておいて、今日買ってきた武器を使っていきましょう。結構いいものを選んだつもりだからドワーフの国まで十分戦っていけると思うわ」
流れを変えるように手を叩いた秋は買ってきた剣を気に入っているようで、自分のを手に取ると笑顔になっていた。
「僕の剣もなかなかのものが買えたよ。それ以外に短剣とか、リズが使う用の片手剣とかもあるからみんなも使っていいよ。短剣なんかは、いざという時の武器にもなるし、何かを切るのにも使えるからね。僕も一本もらっておくよ」
大輝が並べた短剣の一つを取ると、女性四人も好きなように一本ずつ取っていく。
あえて装飾の少ない短剣を大輝が選び、四人は華美にならない程度に装飾が施された短剣を思い思いに選んでいく。
「……みんな気に入ってくれたみたいでよかったよ。ちなみに、短剣は僕が選んだんだ。四人のことをイメージしてそれぞれ柄に嵌められた宝石の色が違うものにしたんだけど、イメージとおりにいきわたってよかった」
ほっとしたような笑顔を浮かべた大輝の言葉を聞いた四人の動きがぴたりと止まる。
「えっ? 大輝、これ適当に買ったんじゃないの?」
一緒に買い物をしていた秋は驚いていた。大輝は短剣の前で足を止めた時に、それまでが嘘のように迷った様子がなく次々と選んでいたため、そんな意図があったとは思ってもみなかった。
「ぱっと見た瞬間、みんなの顔が浮かんだからね。僕の分はさすがに適当に選んだけど、四人の分はちゃんと考えて買ったよ」
大輝が自分に合うものを考えてくれて買ってくれていたこと、そしてそれを自分たちが彼の意図通り選べたことにはるなとリズは笑顔になって、短剣を宝物のように抱きしめている。冬子は表情には出ていなかったが、嬉しい様子であることは長年の付き合いである三人にはわかっていた。
「ま、まあ、なかなか悪くないセンスね。みんなのイメージカラーに合っているし、いいんじゃないかしら?」
思ってもみない大輝の気遣いに、素直に喜びを表せられずにいる秋を見てみんなは吹き出して笑っていた。
「ツンデレ……」
そして一人、冬子だけは笑わずにぼそりと呟いていた。
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