第三百六十六話
大輝たちが盛り上がっているのをよそに立ち上がったグランは仕事用のデスクへと向かう。
「……ギルドマスター?」
それを気にとめたのはミルファだった。
「こいつらがドワーフの国に行くなら、いくつか工房を紹介してやったほうがいいだろ」
ぶっきらぼうに言い放ったグランは工房の一覧と著名な工房への紹介状をしたため始める。
「ふふっ、なんだかんだいってみなさんのことを気に入っているんですね」
「べ、別にそういうわけじゃないが……ソータに比べたらこいつらは素直だし、可愛げがあるからな。少しは力になってやろうと思っただけだ」
口元に手をやって微笑むミルファの指摘にもごもごと言いよどんだグランは、照れを隠しながら手紙の執筆に戻って行く。
「みなさん、旅に思いをはせているところ申し訳ありません。これからみなさんが向かわれるドワーフの国ですが、ギルドマスターが知っている工房の一覧や紹介状を用意しますので、また後程ギルドへお寄り下さい。明日には完了していると思いますから」
作業に入ったグランに変わって、振り返ったミルファが状況を説明する。
「本当ですか! それはすごく助かります。ありがとうございます!」
眩いばかりに表情を輝かせた大輝がミルファと、そして作業机で紹介状を書いているグランに向かって礼を言う。他の四人もそれにならってそれぞれ頭を下げた。
「ご、ごほん……いや気にせんでくれ。勝手にやっているだけだからな、明日の昼前には仕上げておくから取りにきてくれ」
蒼太とは真逆といえる大輝の素直さにグランはやや気圧されてしまう。
「はい! それじゃ、また明日来ますね。失礼します!」
キラキラとしたオーラを纏ったかのように笑顔を見せる大輝は再度頭を下げて部屋を出て行く。四人も同様に頭を一度下げてから出て行った。
「ふぅ……彼は好青年だな……」
「それにしては、悩ましい表情といった様子ですね」
彼らの出て行ったドアを見つめたグランは大輝のことを好ましく思っていないわけではない。だが、思うところがあるといった表情だった。
「うーむ、彼らには実力がある。それに甘えず向上心もある。自分の欠点を認めつつ、それを解消する方法を考えようとしている」
どれも誉め言葉であり、なんら問題があるようには思えなかった。
「ただ……」
「ただ?」
どこか言いづらそうにしているグランの言葉を促すようにミルファはオウム返しする。
「彼らはどこか遊びのように思っている節がある。そこが、最後の最後で邪魔をしなければいいんだがなあ」
彼らの行く末を心配をするグランだったが、ミルファは笑顔だった。
「ふふっ、心配性ですね。大丈夫ですよ、彼らをみましたか? 騒いでいるようにみえて、全員ではありませんでした。騒ぐタイプと冷静に状況を見るタイプ、それをまとめるタイプとそれぞれが互いをフォローしていました」
大輝たちとの話し合いを見守っていたミルファは、大輝たちがそれぞれのことを大事に思い、間違った方向へ進まないようにフォローしあっているのを感じていた。
「ふーむ、なるほどな。それなら心配はないか……まあ、わしはできることをやってやるか」
ミルファの見立てを信じているグランは納得したように頷くと、再び紹介状の用意に戻って行った。
一方でギルドをあとにした大輝たちは、準備のためにわかれて行動をしていた。
旅のための買いだし、ドワーフの国で武器を作ってもらうまでの間に使用する武器の購入、情報収集などに役割分担したのだ。
「さてと、リズちゃん! 何から買って行こうか?」
「ドワーフの国は寒いと聞いていますので、防寒具などが必要かもしれませんが……荷物になってしまうので、途中に立ち寄る獣人の国で買うのがいいかもしれません。なので、ひとまず必要なのは食料や水でしょうか」
今までで最も長い旅となるため、どれを用意するかが重要になってくる。
「よおっし、それじゃ保存のきくものから買って行こうか!」
意気込んだはるながリズの手を引いて食料が売っている店をまわっていき、二人は楽しみながら買い物をしていく。金も十分に渡されているため、余裕を持てるだけの量を購入していく。
可愛らしくぽやぽやした様子のはるな、美人で見ただけで良いところの出だとわかるリズ。その二人だけで行動していることは危険であり、離れた場所から狙っている者もいた。
「じゃあ、リズちゃん、行こうか……よいしょっと!」
買い物の途中、ふと重いメイスを持ち上げるとはるなはきょろきょろと周囲を見渡していた。
「うーん? 何やら不穏な気配がしてるような……」
どうやらはるなは自分たちを狙っている男たちの気配を感じ取り、にらみを利かせていたようだ。
しかし、それは怒っているようでも他から見たら可愛らしく、むしろ手を出したくさせていた。
「あれ? 気配なくなったかも……いいや、行こっか」
だがその心配は杞憂に終わる。実ははるなたちのことを知っている冒険者たちがそれとなく彼女たちを守ってくれていた。トゥーラの街で活躍していた彼女たちには密かにファンができており、二人だけで行動しているのを危ないと感じていた冒険者たちが自主的に遠目で護衛を引き受けていた。
「うむうむ、ハルナちゃんもリズちゃんも不安がらせないように早めに対処しないとな」
「おう、全くダイキのやつは何考えてんだ……彼女たちを二人きりにしたらよからぬ男が近寄ってくることくらいわかれっての!」
物陰に隠れつつ、ファンの冒険者たちが大輝に対しての怒りを口にする。
「あー、いつも一緒だからわかってない感じかもしれないですねえ。羨ましい話ですけど、全員タイプの違う美人さんだから……」
乾いた笑いを浮かべたある冒険者は大輝をフォローしたつもりだったが、それは他の冒険者の嫉妬心を煽るだけだった。
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