第三百五十七話
冒険者ギルドに到着した大輝たちを見つけたミルファが声をかけてくる。
「みなさん、お待ちしていました!」
待ちわびたかのようなミルファの声色に何か約束をしていたかと首を傾げる大輝たち一行。
「すいません、急に声をかけてしまいまして。……例の魔物の手がかりというか、そうではないかと思われる情報がありますので上でお話ししましょう」
大輝たちの反応で思っていた以上に自分の声が興奮交じりだったことに気付き、それをごまかすように眼鏡を押し上げたミルファによると、どうやらギルド側が集められた情報について話があるとのことだった。
「あー、それなんですが、一応僕たちも一つ情報を持ってきました。何もなければそこに向かおうと思っていたのですが、まずは話を聞きましょうか」
振り返って判断を仰ぐ大輝に、はるなたち四人は頷いていた。
「承知しました。それでは、こちらへどうぞ」
ミルファが先導してギルドマスタールームへと向かう。
それを見ていた他の職員や冒険者たちは、彼らなら直接ギルドマスターのもとへ向かうこともあるのだろうなと認識していた。それくらいに、彼らの前回の依頼での活躍は称えられていた。
「失礼します。ダイキさんたちがいらしていたのでお連れしました」
軽く数回ノックしたミルファはそう声をかけて数拍置くと、扉を開ける。返事を待たないのはミルファとグランの仲だからだろう。
「おうおう、それは丁度よかった。こちらも情報が入ったばかりでな、ほれ座ってくれ」
中で待っていたグランに促されるままに大輝たちはソファに腰をかける。ミルファはギルドマスターの傍に控えていた。
「それで……こちらに入って来た情報なんだが、話自体は前からあったものでな。東にある山のことだ」
グランの言葉を聞いて大輝たちの表情が変わる。
「ん? 何か気になることでもあるか?」
「はい、僕たちも街で情報を集めたんですが、東の山の魔物が強くなってきたとの話でした」
それを聞いたグランは、なんだ知っていたのかという様子でソファにもたれかかった。
「知っているならわざわざ来てもらう必要もなかったな。以前、ある冒険者に依頼して別件で山に行ってもらったんだが、山頂にいたドラゴンはどうやらそいつによって撃退されたらしい」
ドラゴンを撃退したほどの手練れ、それを聞いた大輝の興味はその冒険者に移っていた。冒険者としてドラゴンと戦うのは一種の憧れであったからだ。
「その人の名前は? どんな人でした? 強いんですか?」
「うっ、いや、急に次々に聞かれても……」
食い入るように大輝が矢継ぎ早に質問をするので、その勢いに思わずグランはたじろいでしまう。
どうしたものかとグランが困っているのを見て、大輝の頭に秋がチョップする。
「もう、大輝ったらだめじゃない! グランさんだって困ってるでしょ? あんたが強い人に興味があるのはわかるけど、聞きたいことがあるならちゃんと一つずつ聞きなさい!」
「うぅ、ご、ごめんなさい……」
秋に怒られたことで自分の失態に気付いた大輝が反省の言葉を口にする。
その間にミルファはグランに何やら耳打ちをしているようだった。
「あー、その冒険者の事なんだが、どうしても詳しいことは話せん。すまんな、無理な依頼をこなしてもらったもんで、どんなことがあろうと情報は他に漏らさないという約束だったんじゃ」
それを聞いて大輝はわかりやすくガックリと肩を落とした。
実のところそんな約束はしていなかったが、他の冒険者の情報は明け渡せないというギルド側の体裁。そして何かのきっかけでそれをばらしてしまったことがばれた場合、蒼太に怒られてしまう、だけではすまないかもしれないとミルファに言われたためだった。
「そやつのことは話せんが、山のことを話そう。既に知っている情報かもしれんが、すり合わせのために聞いてくれ。以前は山に現れる魔物も大して強くないものばかりで、山に薬草採集に行くものなどもおった。しかし、いつからか魔物が強くなり、冒険者でもおいそれと近づくことができなくなってしまった」
街で聞いた情報があっているかの答え合わせになっていたが、大輝たちは真剣に話を聞く。
「それがいつからだったのか正確なことはわからないが、山頂にドラゴンが住み着いた頃とほぼ同時だったため、ドラゴンによる影響なのだろうと考えていた」
そこでグランは一度区切って、口を湿らせるためにいつの間にかミルファが用意していた茶をすする。
「……違う、と?」
短くそれだけ大輝は返した。
「うむ、さっきも言ったように山頂のドラゴンはある冒険者によって撃退された。しかし、山に調査にいった冒険者の話ではその後も魔物たちは強く、山自体を濃い魔素が覆っているようだったとのことだった」
これが今日入って来た情報だった。話がひと段落したのか、グランはぐっと眉を寄せて難しい表情で唸る。
「なるほど、ということは原因はドラゴンとは別にあり、状況から察するに森と同じ状況なのかもしれないということですね」
「察しが早くて助かる。先日の森も今回の山もどちらも魔物の活性化が起きておる。場所自体は人があまり行かない場所だから、すぐ大きな危険に繋がるということはないだろうが、いつ魔物たちが山からあふれ出てこないとは限らん」
そうなった時のことを想像したグランの表情は厳しいものだった。
「なるほど、それを僕たちに調査。もしくは、退治してきて欲しいということですね」
大輝たちは元々行く気満々だったため、それを聞いて俄然やる気になっていた。
「そ、そうなんだが……今回は森の時のように多くの戦力を割くのは難しいのだ。赤い一撃の面々も既に街を離れておるからのう」
前は一時的に滞在していた赤い一撃の手助けがあったため、森の時は大戦力で臨むことができたが、今回向かってもらうとしたら大輝たち五人だけになってしまう。大輝たちの実力を疑うわけではないが、危険である場所に少数で向かってもらうには申し訳なさがあるのだろう。
「安心して下さい。僕たちは勇者ですから! 勇者は強くて、かっこよくて、そして必ず勝つんです!」
ぐっと拳を握って力をアピールする大輝の顔は英雄に憧れる少年のような輝きがあった。大輝が持つ勇者に対するイメージを聞いたグランとミルファはあまりの無邪気さに唖然としており、こういう大輝に慣れているはるなたちはやれやれといった表情だった。
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