第三百五十五話
それから、全員の報酬がいきわたるまで大輝たちはギルドホール内で待機していた。途中で飽きてしまったはるなが退屈そうにふくれっ面をしていたが、大輝が最後まで見届けると断言したため我慢しているようだった。
「これで全員に報酬が渡せたな。今回はみんなご苦労だった。今後も同じようなことが起こる可能性がある。発見した際には、独断では動かず最寄りの冒険者ギルドに報告するようにしてくれ」
ギルドホールにいる冒険者たちを見回しながらグランはそう言った。
今回の依頼はたまたまこれだけのメンバーが揃ったから達成することができたが、毎回これだけの戦力を揃えられるとは限らない。となれば、早い段階で情報を集め、事前に有力な冒険者に声をかける必要がある。
「繰り返すが、今回は本当にご苦労だった。みんなのおかげで近隣の街や村は救われた、ありがとう!」
グランは見えるように右手を掲げて全員に礼の言葉を述べた。
すると冒険者たちもそれに応えるように手をあげて大きな声で答えた。その声によってギルドの建物が震えていた。
「やっぱり冒険者はこうでなくては……」
無表情ながらも口の端を少し上げてそう呟いたのは冬子だった。彼女が読んだ物語にいた冒険者は、戦い、報酬を貰い、そして騒ぐ。盛り上がっている冒険者を見てそれを思い出していた。
「やっぱり同じ目的のために一緒に戦うっていうのはいいね!」
初めての大規模戦闘だったため、大輝は興奮しているようだった。
待ち疲れたはるなと、冷静にみていた秋はその言葉を聞いて苦笑していた。これで色々な人が救われたことは事実であったが、危険な戦いであったため、秋としては今後気を引き締めないといけないと思っていた。
この盛り上がりはしばらく続き、こらえきれなくなった様に大輝もその盛り上がりの中に入っていったが、止むことのない騒がしさに疲れたはるながついに切れてしまう。
「もおおおおお、うるさいぃっ!」
はるなは苛立ちをいっぱいに込めて、手にしていたメイスを強く床にたたきつけた。
強い打撃音は、騒いでいた冒険者たちを黙らせた。皆何事かと周囲を見回している。
「なんなの! ねえ! そりゃ嬉しいのはわかるよ、報酬も多かったし、でもそろそろ良くない?」
大きな声でまくし立てるはるなを冒険者たちはぽかんと口をあけて見ていた。それはカルロスもガルギスもグランもミルファも同様だった。
「な、何が……」
普段ぽやっとした雰囲気の彼女が鬼気迫る表情で怒っていることに戸惑いながらカルロスはかろうじてそれだけ呟くが、その答えははるなの怒りの声でわかることとなる。
「みんなみんなうるさいし、長いの! うちは、もう我慢の限界だよ!」
「は、はるな?」
「だいくんもだいくんだよ! みんなに混ざって盛り上がっちゃってさ! もう、うち疲れたよ!待ってってだいくんが言うから我慢してるんだけど!!」
おろおろと大輝が声をかけるが、これは藪蛇だったようで、より一層はるなの怒りに火を点けていた。拳を作ってそれをぶんぶん振る度にはるなの大きな胸がたわわに揺れるが、今それに見惚れるような者はいなかった。
「はるな、す、少し落ち着きましょう」
なんとかとりなそうと秋が声をかけるが、キレッキレのはるなはその秋すらも強く睨み付けた。
「……秋ちゃん、秋ちゃんはだいくんが暴走した時に止める役目だよね。自分でもそれわかってるんでしょ? だったら、この状況は止めないとなんじゃないの?」
一息ついたはるなの言葉のトーンは落ち着いたものだったが、目が座っており、幼馴染の秋ですら背筋に冷たいものが走っていた。はるなは普段が穏やかな分、溜め込むと一気に爆発させてしまうことをすっかり忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい。盛り上がってるからついつい……」
「ついつい? それで放っておいたっていうの?」
矛先が秋に移った今でも、はるなの静かな怒りに恐ろしさを抱いた冒険者たちは固まったままであったり、口を開けたままであった。
「大輝、連れて行く」
ただその中で一人冷静だった冬子がびしっと大輝に指示を出す。
それを聞いた大輝はハッとして、急いではるなを掬いあげるように抱えると慌てたようにギルドから出ていった。
「失礼しましたー!」
そのあとを淡々とぺこりと頭を下げた冬子と焦ったように頭を下げた秋も走ってついて行く。冒険者同様、呆気に取られていたリズは秋に手を引かれてされるがままに走っていた。嵐が過ぎ去ったかのようにギルドホールにいた者たちはしばらく呆然と立ち尽くしていたのだった。
ギルドから出てしばらく走ったところで大輝は足をとめてはるなをそっとおろした。
「も、もうだいくんったら、大胆なんだから……」
ここまでくると当のはるなは怒ってはおらず、横抱きにされたことに頬を赤らめて照れているようだった。
「えっ?」
しかし、大輝はなんのことかわかっていないでいる。きょとんと首を傾げるしかなかった。
「……大輝、大輝、さっきギルドを出るとき、はるなのことお姫様抱っこしてたわよ」
ため息交じりに秋が状況を理解していない大輝にそっと耳打ちした。その瞬間、全てを理解した大輝の目が泳ぎ始めた。あの時はなんとかしなければという気持ちでいっぱいで身体が勝手に動いただけだったのだ。
「いや、えっと、あれは……!」
「もう、だいくんってば、急にあんな風に抱き上げるなんて、うち恥ずかしいよ~」
下心はないとなんとか言い訳をしようとする大輝に対して、少なからず好意を抱いているはるなはほんのりと赤らめた頬をきゃあっと手で押えている。
「はぁ……さっきまであんなに怒っていたっていうのに、本当あんたは大輝に弱いわよねえ」
心労で痛む額を押さえながら秋はその様子を見て呆れていた。
「えっ、えっと、その……」
こういったことに慣れていないリズは今も状況を掴めず、どうしたものかとはるなと大輝を交互に何度も見ていた。
「リズ、気にしなくていい。もうはるなの機嫌は直ったし、今の状況はいつものことだから」
冬子がリズの肩に手を置いて抑揚のない声音で状況の説明をしていく。
「は、はぁ、わかりました……」
目まぐるしい事態に理解が追いついていなかったが、リズは冬子の言葉でとりあえずの落ち着きを見せていた。こうして空気を読むことを少しづつ覚えていくリズである。
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