第三百四十二話
「まずは正確な数を把握したいわね……冬子お願い」
秋の指示を聞いた冬子は頷くと風魔法を使って周辺にいるオークの数を調べていく。その間にも目に見える範囲は秋たちも周囲を見回して周囲の状況を把握していく。
「さて、冬子が調べてくれている間に戦い方ね。理想は各個撃破よ。一体を引き付けてみんなで倒す、の繰り返し」
その上で戦い方を決めていく。この作戦は強力な魔物との戦いにおいて基本ともいえる戦い方だったが、秋が言うようにあくまで理想だった。
「あれだけオークたちの距離が近いとねえ……」
先ほどの場所から少し距離をとっているが、そこからでもはっきりとオークの姿が見えた。オークたちの中には何か話をしているものもおり、それぞれが近い距離に位置している。
「一体倒すのにどれくらいかかるかな? すぐ倒せるなら、障壁で分断すればなんとかなりそうだけど」
気づかれずに倒すのが難しければ、一対五の状況を作り出せばどうか? それがはるなの案だった。
「そうだね、それならいけそうな気がする。なるべくいっぺんに気付かれないように注意しながら、理想は一体ずつ引き付ける、難しくても数体ずつでそれも障壁で隔離しながら各個撃破、といった感じかな」
大輝がはるながあげた案をまとめると、作戦としてはそれが無難なものだと全員が頷く。
「あとは、ジェネラルオークとの戦いで気を付けることだけど、確か魔法も使えたわよね」
その確認に索敵をしていた冬子が頷く。風魔法に集中しながらも話せる余裕があるのは鍛錬の賜物だろう。
「ふう、調査完了。ジェネラルオークは魔法が使えてメインの武器は片手剣、私たちからみたら大剣サイズの魔法剣士といった感じ。数は二十体いる。それから、やっぱりいたのがオークキング。ジェネラルオークを全体的に超強化したものと思ってもらえれば合っていると思う」
魔法を解除した冬子がオークたちの説明と調べた数の結果を口にする。ここまでの精密な情報は普通ならば得られるものではないが、それだけ冬子の風魔法による索敵は能力が高いことを示している。
「やっぱりキングもいるのね……」
秋はどうしたものかと頭を悩ませる。危惧していた事態が目の前にある現状に緊張感が高まった。
「周りのジェネラルを全て倒してからキングと戦うのがいいね。両方を相手取るとなるとかなり難易度があがるよ」
キングともなると防御力も攻撃力も高く、素早さもオーク種の中では目を見張るものとなっている。戦況を予想した大輝が厳しい顔つきでそう告げた。
「少し強い魔法を使っていく」
ぐっとロッドを強く握った冬子はウルフとの戦いでは農場に被害を出さないように抑え気味で戦っていたが、ここは開けたエリアであるため強めの魔法を使っても周囲への被害は少ないと考えていた。
「そうね、それなら可能性が広がるわ……念のため言っておくけど、炎系の魔法は抑えてね。草や木に燃え移ったら被害甚大よ」
秋の注意にしっかりと冬子は頷く。炎系の魔法は攻撃力としては高いのだが、状況に合わせて戦わないと周囲に被害をもたらしやすい。
「任せて、他の属性を中心に組み立てていくから」
冬子はほとんどの属性魔法が使えるため、一つの属性を封印したくらいではなんの障害にもならなかった。さっそく魔力の練り上げに集中していく。
「静かに移動して、他のオークから確認しづらい位置にいるジェネラルに石を投げる。そしてこっちに近寄ってきたところを僕と秋が斬りつける。冬子は隙をついて魔法による援護、もしくは止めを。複数体が気付いてやってきた時ははるなが障壁で動きを妨げてくれるかい?」
はるなも自分の役目を理解しており、大輝の問いに大きく頷く。その胸の谷間からは森ウサギの耳がちょこんと出ていることから、そこに先程捕獲した森ウサギを隠したのだろう。
「あ、あの私は……」
オークという今までの相手よりも明らかに戦う相手が強いため、リズは今回も攻撃面で何もできることがないのではないかと不安に思っていた。実際、オークを目の前に足が少し震えている。
「リズは……アレをやれるかしら?」
秋の言うアレがなんであるのか、すぐに気付いたリズは頷いてカバンの中を調べていく。その中である物を見つけると秋へと視線を戻し、強く頷いた。
「……やれます」
彼女がメインで使う武器は片手剣であるが、それでは大輝や秋と役割が被ってしまうため活躍の場所がない。秋の言うアレとはそれならばと前々から考えていた案だった。
取り出されたそれは魔導弓だった。強力とは言いづらいが、それでも魔力を矢とする弓はこの世界では手に入りづらい武器であり、王族の彼女だから用意できたと言える。
「リズは遠距離からオークの武器や目を狙ってちょうだい。キングには手を合図があるまで攻撃はしないでね」
「わかりました!」
大ダメージを与えることが目的ではなく、敵の集中を乱して隙を作ることが目的だった。しかし、大輝たちのレベルであれば少しの隙が大きなチャンスとなる可能性が高い。
「よし、それじゃ僕が敵の釣り役をやるよ。まずはこっちだ」
大輝はかがんで少しでも姿を隠せるように森に紛れて慎重に移動していく。そして、他のオークから離れた個体に目をつけると離れた位置からこぶし大の石を投げる。
「ぐあ?」
後頭部に何かが当たったと感じたオークは、ぶつかった場所をさすりながら何事かと振り返る。
そして、石が飛んできた方向にあたりをつけて歩いていく。それでもオークをぎりぎりまで引き付けようと大輝たちはまだ姿を隠したままでいた。
「まだだ」
そしてオークとの距離が最大限詰まったところで大輝が合図する。その瞬間に隠れていた草むらから先鋒をつとめる大輝と秋が飛び出した。
「いまだ!」
大輝と秋は飛び出したと同時にオークへと躊躇いなく斬りつける。オークの声が響かないように冬子が風の結界を張り、はるなは飛び上がって頭をメイスで思い切り殴った。
その衝撃にのけぞったところへリズの魔法の矢が次々と突き刺さっていく。彼女はオークの身体の柔らかい部分を狙って連続でダメージを与えていく。
「とどめだ!」
「せい!」
さらにそこに大輝と秋が追い打ちをかけて止めとなる。そのままドスンと倒れたその大きな音も冬子の風魔法で消音されていた。
「倒した。これならいける」
冬子はオークが絶命したことを確認すると、みんなに向かってぐっと親指を立てて頷いた。
「この方法で次々やっていこう」
基本的に同じ戦略でオークと戦っていく。安定した戦いを行えており、徐々にジェネラルオークはその数を減らしていく。
しかし数体倒したころにはそれに気づいた四体がまとまって行動し、その原因を探ろうとする。
「数が増えても同じさ」
だが、それでも大輝たちは戦い方を変えずにその四体が近づいてきたところで石を投げ、注意を逸らせる。
「障壁張るよ!」
はるなが物理的に分断するための障壁を張り、音が漏れないように冬子が再び風の結界を張る。ここまでくるとこの戦い方も安定を見せ、大輝たちは息ピッタリに合わせて特に苦戦することなく動けている。
「これなら、一対五のままよ」
当初の作戦のとおり、この状況を作り出した一行は先ほどまでと同じ戦い方で一体、二体と倒し、あっという間に四体を倒し終える。この頃になると、ジェネラルオークは片手で数えられるほどの数に減っており、オークキングもおかしな状況を感じとっていた。ひと際大きな鳴き声で周囲のオークたちに警戒を促している。
「さあ、ここからが本番だ」
その合図でジェネラルオークとオークキングはひとところに固まっており、ここまで来るとさすがに一体ずつおびき寄せる作戦は使えなくなっていた。
・後書き
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