第三百三十八話
「さて、ここにフォレストウルフがいるっていう話だけど……」
農場主と別れ、さっそく大輝を先頭に農場に入って周囲を見渡すが、そこに魔物の姿は見当たらなかった。
「見当たらないわね」
秋も周囲を探っているが、目を凝らしてもあたりにフォレストウルフの姿はなかった。
「でも、畑は荒らされちゃってるね。ひどいなあ……」
眉を下げて悲しそうなはるなの指摘のとおり、畑はあちこちが掘り起こされていた。ぼこぼこになった作物が転がり、魔物によって荒らされたのは一目瞭然だった。
「待って…………いる」
冬子は一見して周囲に魔物が見当たらない時点で、風魔法による魔物のサーチを行っていた。魔物が冬子のサーチに引っかかったことを肌で感じ取ると、相手がその姿を現した。
「潜伏していたの?」
大輝たちが近寄ってきたことがわかっていたフォレストウルフたちは、隙をつこうと隠れていたようだった。一度認識すればその姿ははっきりと目に捉えられ、一匹、また一匹と大輝たちの目の前を取り囲むようにじりじりと距離を縮めてきていた。
「頭がいいみたいだね。気配も消していたし、冬子がいなかったら危なかったよ」
大輝はそう言いながら、フォレストウルフに向けて剣を構えている。はるなも秋も冬子もリズも既に戦闘状態に入っていた。
「ガルルル」
大輝たちが武器を構えたことで、自分たちの敵だとはっきり認識したであろう魔物たちも同じく臨戦態勢に入っており、今か今かと襲いかかるタイミングをうかがっている。
「みんな、いくよ!」
大輝のかけ声とともに全員が動き出した。そして同時に魔物も動き出し、その鋭い牙と爪を振りかざして襲いかかって来た。
先頭は大輝と秋が務める。
二人は魔物たちと交戦した瞬間に、剣を振り下ろしそれぞれが一体ずつ倒していた。一撃で的確に急所を突いたことであっけなく二体のフォレストウルフが地に沈む。
「すごい!」
前回の戦闘ではゆっくりと動きを見る余裕がなかったリズだったが、今の攻撃を見て改めて二人の実力に驚いていた。
城にいた時に騎士団員との戦闘訓練などは何度も見ていたが、一つの油断が文字通り命取りになる魔物との戦闘ではその緊張感が違い、判断も素早くなっている。普段の優しい二人からは想像もつかないほどピリピリとしびれるほどの集中力と闘気が感じられた。
「ファイアアロー!」
見惚れるように二人を見ていたリズの隣で魔法を唱えた冬子。呪文と共に彼女が生み出した炎の矢は四本。それが意思を持っているかのように魔物に追いすがり、鋭く額の中心を貫いていく。これで都合六体の魔物が一瞬のうちに倒された。
しかし、更に後方に待機していたフォレストウルフたちが勢いよく向かってくる。その目標ははるな、冬子、リズの後衛三人だった。彼らは本能的に戦いやすい相手を嗅ぎ分けて彼女らを標的にしたようだ。
「横からも魔物が!?」
いきなり現れたそれにリズが驚きの声をあげるが、次の瞬間、飛びかかって来たフォレストウルフは何かの壁にぶつかってその場にずるずると落下した。
「大丈夫、うちの作る障壁はあれくらいの突進じゃびくともしないよ!」
リズの隣ではるながいつの間にか魔法障壁を張っていた。魔法の発動を感じさせずに張られたそれにリズは目を丸くして驚いていた。
「リズ、ぼうっとしていないで動く」
冬子に指摘されて、はっとなったリズは障壁にぶつかった魔物へと向かっていく。自分も戦わなければと細身の片手剣をフォレストウルフの急所を目がけて突き刺す。
「やあ!」
障壁に当たった衝撃でダウンしていたフォレストウルフに真っすぐ突き刺さったその剣は一撃でその命を奪っていく。
「ふう」
一体倒して、一息ついたリズに次の声が飛んできた。
「リズちゃん、そこで落ち着かないで! まだ戦闘中だよ!」
訓練での模擬戦であれば相手を倒して戦闘終了になるが、今は複数の魔物を相手にしている戦闘中であり、気を抜くのは危険だったため、大きな声ではるなが注意する。
「は、はい!」
返事をすると、リズは次の相手に向かっていく。つい城での訓練の時の癖で相手が一体だと油断してしまうのは、まだ実戦経験が少ないせいだろう。
農場を襲ったフォレストウルフは十体程度だと農場主が言っていたが、大輝たちが相手にしているのは既にその数を超えている。おそらく今までは十体以上倒せた冒険者がいなかったことで、情報が出てこなかったのだろうと思われた。
少し離れた場所で前衛の二人も何体もの魔物を倒している。
「これは、話が違いすぎるわね」
背中合わせに立った秋と大輝。秋は倒しても倒しても出てくるフォレストウルフに辟易とし始めていた。
魔物が話よりも多い可能性も想定はしていたが、それでもこの数は予想をはるかに超えていたからだ。次々と後続の魔物が襲いかかってくるのは、彼らもせっかく手に入れた住処を奪われたくない一心で戦っているのだろう。
「泣き言禁止!」
戦ううちに身体が温まって来たのか、大輝は徐々に動きがよくなっていき、倒したフォレストウルフの数も既に両手で数えきれないほどになっていた。
「泣き言じゃないわよ!」
それに対して少し強気な秋の返事だったが、かくいう彼女も同じくらいの数を倒していた。
「ウォオオオオオオオン!」
その時、周囲にひと際大きな狼の遠吠えが聞こえてくる。その声には威圧がのっており、大輝たちの身体をビリビリと震わせる。
「親玉登場かな?」
攻撃をしてきていたフォレストウルフたちは全員揃って一度下がり、道を作る。その道を通って、周囲のフォレストウルフよりも明らかに大きな狼がのしのしとやって来た。それを見て大輝が目を細めている。
「そりゃそうよね」
これだけの数のフォレストウルフが統率するものなく襲いかかってくるとは考えづらかったため、当然だと秋がそう口にした。
「あれは結構強い」
冬子は冷静に相手の実力を判断する。遠目だったがはっきりとボスウルフの力は感じ取ることができていた。
「は、はい!」
その言葉を一番近くで聞いていたリズが返事をする。間近でこんなに大きな魔物を見たことがない彼女は目の前のボスウルフに対して恐怖に身を固くしていた。
「僕がいくよ!」
大輝がいち早く動き出し、ボスウルフに向かっていく。これが他の雑魚であれば、一撃で片がついていたであろうが、ボスウルフはまるで何か羽虫が飛んできたかのような扱いで大輝の攻撃を爪を振り下ろして弾き飛ばす。
「ぐっ!」
バランスを崩した大輝へと反対の爪による一撃が振り下ろされるが、その攻撃はフォローにはいった秋に防がれる。ギリギリと鋭い爪が両手で構えた剣と拮抗していた。
「大輝、油断しないで! こいつは強いわ」
当初、秋は攻撃を受けるだけではなく、弾き飛ばすつもりでフォローに入っていた。しかし、ボスウルフの攻撃が強く、寸前で防ぐにとどまっている。
「ありがとう!」
大輝は礼を言うと、すぐさま起き上がって胴へと突きを繰り出した。
「グルルル」
しかし、その気配を事前に感じ取って後方へ飛びのき距離をとったボスウルフには届かなかった。
「ファイアアロー!」
当然、後衛の彼女らもただ突っ立っているだけではない。冬子がボスウルフが着地した場所めがけて炎を矢を放っていた。その場から再び移動するまでのわずかな隙を目がけて魔法を放ったため、ボスウルフは回避行動をとれずにいる。
だが、相手は焦ってはいない様子だった。なぜ? その答えは次の瞬間に明らかになる。
「キャウウウン!」
ボスウルフに当たるはずだった炎の矢は、別のフォレストウルフが身代わりになって受けていた。痛みに耐える鳴き声をあげながら身代わりとなったそれは炎の矢を受け、ぐったりと倒れた。
あくまで大輝たちと戦闘しているのはボスウルフだったが、先ほどのような不意打ちをやすやすと当てさせまいと何体かのフォレストウルフがボスウルフの守りに入っていた。
「これは受付の人が話していたとおり、僕らのランクの冒険者が受ける依頼じゃないね」
その様子を見た大輝はふと依頼受領時の話を思い出していた。だがそれで心が折れる彼らではなかった。
「でも、僕たちには丁度いいよ!」
自分の実力を思い切り試せるチャンスだととらえた大輝は再びボスウルフへと向かって走り出した。
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再召喚された勇者は一般人として生きていく? エルフの国の水晶姫 1/21発売です!
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