第三百三十七話
一行はギルドの駐留所に停めておいた馬車を回収し、それに乗り込んで街の入口へと向かっていく。
「全く、絡むなら相手をちゃんと選びなさいってのよ!」
馬車に乗った途端、先ほどの怒りがぶり返してきた秋が声を荒げていた。馬車の中は気心知れた仲間しかいないことで気が緩んだのだろう。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。うふふー、だいくんが守ってくれてよかったねえ」
にこにこと笑顔を見せたはるなは、大輝が本気で怒ってくれたことに喜んでいた。実際に手を出されそうになったのは秋だったが、この中の誰であったとしても大輝は守ろうとする。正義心の塊のような彼の性格を思えば、それは想像に難くなかった。
「べ、別に大輝が何もしなくたって、あんなやつ私一人で十分だったわよ!」
自分のことを女性として扱ってくれたことに嬉しくないわけではなかったが、それを素直に認めるのが癪だったため、つい秋は大きな声を出してしまった。つんとそらした顔はほんのりと赤く染まっている。
「あ、アキさん」
未だに動揺したままのリズが慌てて秋に声をかけるが、他の三人は笑顔だった。どうやら大輝が本気で怒るとああいう状況になるのは彼らにとって想定の範囲内だったようだ。ギルドを出て見ればいつも通りの大輝に戻っているし、なにより手を掴まれそうになった秋のことが心配になってしまう。
「ほら、リズちゃんにまで心配かけちゃって。秋ちゃんは照れてるだけでしょー」
にやにやとした笑顔のはるなに的確に指摘されて、秋は頭に血がのぼりそうになる。だが気付けば隣でおろおろと心配そうなリズの顔を見たため、深呼吸をして一度落ち着くことにする。
「はあ、悪かったわよ。……大輝、ありがとうね」
少しもごもごとしながらも秋が大輝に礼を言う事で、この場は話が丸く収まるかと思っていた。
「……ツンデレ」
「こ、この、冬子!!」
だがぼそりと呟かれた冬子の一言が再び秋に火を点けてしまった。真っ赤に染めた顔で強く声を荒げるものの、これが彼女の照れ隠しだと分かっている勇者たちは可愛らしいとしか思えなかった。
そしてこういった一連のやりとりは大輝たちにしてみればいつものことであり、驚くことでもなかったが、それを知らないリズは一人わたわたとしていた。だがもうリズの心に心配や不安はなく、こういったやりとりが新鮮であるがゆえにどう反応していいかの嬉しい困惑でいっぱいだった。
騒いでいる一行は周囲から注目を集めることになるが、これもまた日本にいた頃も同じように騒いでは注目を集めることがあったため、気にしないでいた。街の者たちもにぎやかな冒険者たちを見て慣れているために、今日も元気な冒険者たちがいたものだな、とくらいにしか思わない。
「さあ、そろそろ街の入り口につくよ。みんな静かにして」
衛兵のチェックがあるため、大輝が馬車の中にいるみんなに注意すると彼女たちも状況を把握して静かになった。三人のその変わり身の早さにリズは驚いていた。騒がしい時は騒ぎ、静かにしなければいけない時は静かにする。彼らはこのメリハリをつけられていた。
彼らは街の入り口で、今度は冒険者カードを見せてチェックを通過した。
「じゃあ、まずは農場に向かおうか」
当初の予定のとおり、大輝が選んだ人助けとなる依頼からこなすことにする。この依頼が最も難しい依頼とのことであり、そして農場主が困っているとあっては、いち早くこなさなければいけないと考えていた。
そして、それに反対する者もいなかったため、大輝は進路を農場へとむける。
農場に向かうと、入り口で一人の男性が立っている。人の良さそうな表情の彼は40代そこそこといったところで、いかにも農業従事者といった様相だった。彼は困った顔をしており、やってきた大輝たちが最後の頼りといった様子であった。
「あ、あの、冒険者ギルドから来られた方ですだね!」
大輝たちの乗る馬車が近づいてくると、彼は大きな声で大輝たちに声をかける。語尾がちょっと変わっているのは彼の特徴なのだろう。一行は馬車を停めると降車して、彼の前に立つ。
「そうです。安心して下さい、僕たちが来たからには魔物の討伐はお任せ下さい」
緊張気味の男に対して、優しい笑顔と共に大輝は第一声でそう返す。
「あ、ありがとうございますだ!」
力強い大輝の言葉に彼は救われた表情になる。彼らに任せれば大丈夫だ、と。
「そ、それで、あなた方はどれほどの腕前なのですだ?」
この場合、どれくらいのランクの冒険者なのか? という質問になる。ちらちらと彼らの装備を見る限りではそれなりのものを身に着けているのが農民の彼でも理解できた。そんな彼らならばきっと高ランクなのだろうという期待の眼差しが向けられる。
「僕たちは、昨日冒険者になったばかりです」
「そんな……」
その答えに農場主は愕然とした表情になる。自分を助けに来てくれたのがまさか駆け出しの冒険者だとは思ってもいなかったようだ。
「でも、大丈夫です! 僕たちは腕には自信があるんです!」
ギルドに所属する冒険者に依頼する依頼主にとって、冒険者ランクとは力があるか、信頼するに値するかをはかる指針だった。つまりは駆け出しの彼らは力などなく、冒険者として頼りない存在だと言う事だった。どれだけ大輝たちが自信を持っていても、ギルドでランク分けされる制度がある以上、それを見て判断されてしまうことは仕方のないことだ。
「はあ、冒険者になったばかりの人はみんなそう言うだよ……」
農場主は明らかに肩を落とし、ガックリと力を落としている。もう次の冒険者たちに期待しようと半ばあきらめムードに入っていた。
「ちょっと、あなた失礼よ! せっかく依頼を受けて来たっていうのに、その態度はあんまりじゃない!」
農場主の態度に秋は怒りを覚えていた。確かに自分たちは駆け出しの冒険者であることは間違いなかったが、自分たちの実力を見てもらう前にもう無理だと決めつけられるのが許せなかったのだ。
「あぁ、すまんですだ。でも、前に来てくれた冒険者の人もランクの低い人で、みんな口だけだったんですだよ……」
彼とて自分のために戦ってくれる冒険者たちをないがしろにしたいわけではないのだ。これまで何度も期待しては裏切られの繰り返しを経験し、今度こそは! と期待したら、現れたのが登録したてのルーキーということで彼の落ち込みは強かった。
「それなら仕方ない。でも私たちの力を判断するのはまだ早い」
すっと冬子が一歩前に出て言った。ぱっと見では普段と同じく淡々とした表情ではあるが、長い付き合いの大輝たちは冬子が少し怒っているのが分かった。彼女も自分たちが侮られていることに少し苛立ち、それと同時に農場主が不安に思う気持ちも理解していた。ならば、力を見せるのが一番だと判断する。
「早い、ですだ?」
戸惑いを隠せない様子の農場主は冬子の言葉に顔をあげる。今までの冒険者は、ただただ自分の力に慢心しており、強さを感じない小物臭がしていたが、大輝たちからは力に基づいた確たる自信のようなものを感じ取っていた。
「私たちは自分の力が足りないと思ったら無理はしませんし、農場主さんに迷惑をかけるようなことはしません。我々はあなたの助けになればと思い、この依頼を受けたのですから」
不安に揺れる彼の気持ちを理解したリズも農場主の目をみながら真摯に訴える。
「うんうん、それにだいくんも言ったけど……うちたち結構強いよ?」
にっこりと笑顔を見せたはるなを見た農場主は呆気にとられる。よく見れば彼らはただただ依頼を達成するためだけに来た他の冒険者たちとはどこか違っている。それを農場主は感じ取っていた。
「わ、わかっただ。それじゃあ、お願いしますだ。でも、危なくなったら逃げてくださいだ」
人の良い農場主は自分の問題をなんとかしたいという気持ちも強いが、同時に自分の依頼でこれ以上冒険者が傷つくことにも心を痛めている様子だった。
「了解です! それじゃ、詳しい話を聞かせてもらえますか?」
大きく頷いて了承した大輝に農場主はひとつ頷くとゆっくりと話し始めた。
「ここは農場の入り口なんですだ。んで、中に魔物たちが住み着いてしまってこれ以上は進めないんですだ。中にいる魔物は、フォレストウルフが十体ほどですだ」
フォレストウルフ。本来であれば森の中に住んでおり、そこへ踏み入らなければ襲ってくることはない。
しかし、どうやらこの魔物たちは森の環境の変化によってなわばりを押し出されてしまい、天敵のいないこの農場を第二の住処に決めたようだった。魔物たちもやっと見つけた住処であるため、必死になって守っているとのことだった。
「……と、冒険者の方がおっしゃってましただ」
この説明を聞いて魔物たちの事情を知ってしまった大輝は複雑な気持ちになるが、依頼を受けたからには魔物の討伐をしようと決断する。
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ナンバリングされていませんが、2巻にあたります!




