第三百三十二話
一行は小さな村に辿りついて早速宿をとった。そして、食堂で食事をとりながら情報の整理をしていく。
「うーん、どうやらこの近くの森には魔物が多いみたいだね。どうしよう、困ってるみたいだから魔物退治には行きたいと思うけど、リズの初戦としては大変かもしれないなあ」
その言葉は大輝のものだった。
ここ最近になって魔物の数が増えて来たという森が村の近くにある。最初はそこでリズの訓練をすればいいと考えていたが、話を聞いてみると思った以上にその数は多いようだった。
「わ、私なら大丈夫です!」
気遣いを感じ取ったリズは拳を握り、焦ったように立ち上がってそう言うが、秋に落ち着いて座るようジェスチャーされる。
「す、すいません。思わず……」
腰を下ろしたリズは自分が思っていた以上に焦りを感じていたことを知り、感情的になってしまったことに顔を赤くしていた。
「落ち着きなさい、そんな風に興奮するんじゃ任せられないわよ?」
真っすぐリズの目を見ながら秋が冷静になるよう促した。
「うん、戦いになったら僕が怪我をするかもしれない、はるなか冬子か秋が怪我をするかもしれない。その怪我を治すのは落ち着いた場所だけじゃない、戦闘中でも回復してもらわないといけないこともある。それには、常に冷静さが求められるんだ」
大輝は城での訓練で身に着けた戦いの心構えを説いていく。この世界に来た当初は考えられなかったようなことも、勇者として訓練した今ならわかるのだろう。
「……わかります」
肩を落として少しうつむくリズは自覚が足りなかったと落ち込みながらも頷いていた。
「いいえ、わかってないわよ。大輝が言いたいのはね、今後戦いを続けていくうえであなたの力が大事だってことよ。私たちも最初は四人の力だけで戦っていくつもりだったわ。そうするだけの力を持っているからね」
顔をあげたリズははっと目を見開いて、秋の話を聞いている。
「そうだよう、リズちゃんが来てくれるからみんな安心したんだよ。うちはみんなを守る力を持ってるけど、治す力は弱いからね。だから、リズちゃんのことが羨ましいんだ。あっ、もちろん回復魔法が使えるからだけじゃないよ? リズちゃんと色々話すのも楽しいからね」
にこにこと花が咲きそうな笑顔を見せながらのはるなの言葉はリズの胸に刺さっていた。それは彼女の心を奮い立たせるものだった。
「リズ、期待している」
冬子の言葉はシンプルだったが、リズはそれを聞いて何度も頷いていた。姫としてではなく、自分も仲間として見てくれていることに胸が熱くなった彼女の目には嬉しさからじんわりと涙が浮かんでいた。
「大丈夫そうだね。秋、明日森に行ってみようか」
ただ戦えることを示したいという表情から、自分の役割を理解したという顔つきに変わっているリズを見て大輝はそう提案した。
「そうね。まあ、今のあの子だったら魔物を前にしても動けるかもしれないわね」
秋も大輝の判断を支持していた。
はるなは泣いているリズにぎゅっと抱き着き、冬子は静かにリズの頭を撫でている。他の客もいたが、五人のやりとりに微笑ましさを感じており、誰も責めるものはいなかった。
翌朝
食事を終えた五人は馬車で移動し、魔物が巣食う森の前までやってきていた。
「リズ、あなたの回復魔法には期待しているけど、最低限自分の身は守ってもらわないとなの。だから、対魔物戦での剣術も見せてもらうわね。私か大輝のどちらかがサポートに入る形でいきましょ」
作戦を確認する秋の言葉に神妙な面持ちでリズは頷く。
「念のため言っておくけど、僕と秋は主にオフェンス……って言い方はわかりづらいか。僕たち二人は前衛になる。冬子は遠近両方使える魔法使い、ただ近接戦闘はそこまで得意じゃないから後方からの魔法攻撃が多いね」
各自の能力を知っていることで戦いやすくなるため、大輝はそれを説明していく。
「うちはなんていうのかな、支援魔法が得意だよ。武器にはメイスをもらったから、たまにそれで殴ったりもするよ」
メイスを片手にピースしながらはるなが自分の話をしていく。
四人とも体術スキルを持っているため、戦闘でも身体を十分に動かすことができていた。
「確か、リズちゃんも体術スキルを持っていたよね? だったら、あとは戦闘でどう動けばいいのか経験すればやりやすくなるはずだよ」
旅に出るうえで各人の能力を把握しておくことは大事なことだと思っていた彼らはお互いのスキルを出発前に確認していた。
「がんばります!」
今のリズからは昨日のような強い緊張はなく、どうやって自分が持てる力をどう出していくか。それを考えていた。
「さて、それじゃ森の中に入ろうか。馬車はここに止めておこう」
話がまとまったと判断した大輝が森の入り口の木に手綱を結んで、みんなを伴って中へと入っていく。
森へ足を踏み入れるが、すぐには魔物と出くわさなかった。木々が生い茂る森は草花も多く、自然豊かな風景が視界いっぱいに広がる。
移動中の戦列は大輝と秋が先鋒を務め、その次にリズ、後方を冬子とはるなが固めていた。
「……おかしいわね」
しばらく歩いているうちに秋は森の様子がおかしいことに気付く。
「魔物が多いという割には出会わないですね」
周りを見回すリズもそのおかしさに気付いていた。
「空気がおかしい」
普段ならば自然豊かな森で感じることのないはずの異様な雰囲気から森の外と森の中の明らかな空気の違いを冬子は感じていた。
「うん、魔素が濃いね。これは、あんまり良くないな……リズ、本当だったら一体出てきたら一緒に戦って、倒して次をって思ってたけどそうもいかないかもしれない」
大輝は空気の重さが魔素の濃さにあるとわかっていた。彼らが城での訓練の仕上げで向かった洞窟とこの森は同じような状況だった。
「もし、あの洞窟と同じだとしたら強い魔物がたくさんいるかもしれないね」
はるなはその洞窟での戦いを思い浮かべており、いつものほんわかとした雰囲気とはうって変わって集中した表情になっていた。
「わ、わかりました。みなさんの足手まといにならないようにがんばります」
いつも明るいメンバーが気を引き締めているのを感じ取ったリズの表情は緊張の色が濃くなっていた。
「そうしてくれると助かる」
大輝の返事もシンプルになっていた。洞窟に同行した騎士が職を辞めるほどの大怪我を負ったことを思い出し、周囲の気配の察知に集中していく。
「私のほうで強化魔法かけておくね」
気配を探している間に、とはるなは全員に身体強化の魔法をかけていく。訓練のかいあって彼女の魔法行使も自然なものになっており、あっという間に全員へと魔法がかけられていく。
「ありがとう。じゃあ、行こう」
強化されたことを肌で感じとった彼らは、周囲の気配を探りながら慎重に森の奥へと歩を進めていった。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




