第三百十一話
前回のあらすじを三行で
時は動き出す
蒼太吹き飛ばされる
ダメージを受けるフレアフル
蒼月がフレアフルの胴を真っ二つにしようかという時に、再度蒼太は後方から飛んでくる何かを感じていた。
「またか」
投げてきたのは先ほどと同様に本郷だったが、蒼太はそれを最小限の動きで避け、蒼月も止めることなく攻撃をしていく。
「弾けろ!」
「ぐっ!」
本郷の言葉と同時に投擲されたものは爆発し、蒼太は至近距離でそれをくらうことになってしまう。
何とか防御結界の発動に成功し直撃は免れたが、爆風で弾かれることになる。
「あっちでは何もしなかったのに、こっちには手を出すとは……どういうことだ?」
蒼太は態勢を立て直すと本郷を睨み付けた。
「俺が手を出さないとは言っていないからな。油断大敵というやつだ。それに……フレアにはまだやってもらうことがあるから、今死んでもらっては困るんだよ。どういうからくりなのかわからんが、お前はフレアにダメージを与えられるみたいだからな」
本郷にとってフレアフルという存在は彼の目的を達成するためになくてはならない駒だった。
「さっきの状況だと俺の勝ちは確定だった。だが、あんたが手を出したことでそれは止められたわけだ」
蒼太は本郷の行動に対して怒りを示すこともなく、ただ状況について淡々と話していく。
「……まあ、その通りだな」
何が言いたい? 彼の表情はそう言っていた。
「だったら、俺が聞きたいことに答えてくれるんだろ? ディーナに倒されたあっちのダークエルフ、そしてこっちに倒れてる魔族。あんたが言うこいつらを倒せたらっていう条件は満たしていると思うが、どうだ?」
ナルルースとフレアフルに対して興味をもっていない蒼太は、本郷が真実を語ることにだけ興味を持っていた。
「……ふう、仕方あるまい。それくらいの約束は守ってやろう。それで何から聞きたいんだ?」
本郷は嘆息すると、座り直して質問に答える態勢をとる。
「まずは、あんたの能力と千年前の話あたりから聞かせてもらおうか」
蒼太があげた質問にしばし考え込んむ。
「ふむ……なら、俺がこの世界に来た時のことから順番に話すことにするか」
蒼太はフレアフルから離れ、本郷と向かい合う位置へと移動する。同時にディーナもナルルースから離れ、蒼太のもとへとやってきた。
「それでは、話を始めよう」
静かに彼は語り始める。
この世界に二度召喚された蒼太。仲間と共に四人そろって召喚された勇者たち。
そんな彼らとは別の方法、地球で死を迎えたのちにこの世界へと転生した一人の男の話を。
本郷修一郎という名前からわかる通り、彼は地球の日本に生まれた生粋の日本人だった。彼の父は公務員、母は専業主婦であり、なんの問題もなく彼は成長し、大学を卒業したのちは彼も父と同じように公務員として働くこととなる。父を尊敬し、母を大事にしていた彼は父と同じ公務員として働けることに誇りを持っていた。
彼が務めていたのは今はその名もなくなっている大蔵省だった。
「それじゃあ、そろそろ帰りますね。お疲れさまでした」
彼は残業がいつもより少しだけ早く終わったため、上司に挨拶をして会社を後にして帰宅の途についた。
あと十分早く出ていたら、もしくはもう十分だけ残業していれば、いつも通りの生活が送れていたであろう。
しかし、彼はいつものように帰りの電車に乗ろうと向かった駅で事件に巻き込まれてしまう。駅で発砲事件があった。銃を持つことが基本的に禁止されている日本で犯人はそれをどこで手に入れて、なぜそんなことをしたのか? そんなことが頭をよぎりながら、彼は撃たれた腹部を押さえてその場にうずくまっていた。
彼には心残りがあった。父と母を残したまま死んでしまうことが辛かった。就職してからというもの彼は仕事が忙しく、実家にこの数年帰っていない。自分は立派に仕事をやりとげている。そんな報告を未だできないままでいた。
『死にたくない』
気づけば彼はそう強く願っていた。
その時、彼の意識は途切れる。受けた銃弾は動脈を傷つけており、出血がひどく意識を繋ぎとめておくことができなかった。
目を覚ました時にいたのは、誰もいないどこまでも白い空間だった。
『やあ、君の死にたくないという強い気持ちが僕のところまで届いたよ』
そう言ったのは白い服を着た一人の少女だった。
いや、見た目は少女だったが彼女が持つ雰囲気は少女のそれではなく、どこか威厳のあるものだった。
「あんたは……?それに俺は確か撃たれて……」
自分の身を確認するが、傷どころか血の一滴もついておらず、倒れた際の服の汚れも全くなかった。
『怪我をする前の状態でここに呼んだから不思議に思うかもしれないねぇ。地球での君の身体は既に死を迎えている、残念な話かもしれないがそこは事実として受け取ってくれると助かるよ。あー、それと僕が誰かという疑問だけど、君にわかりやすい言い方をすると女神ってやつだね』
「女神? しかし、そうか……死んだのか。不思議なものだな、そう聞いても気持ちは落ちついている」
彼女が口にする事実は彼にとって辛いものであったが、しかしそれをすんなりと受け入れている自分がいることに彼は驚く。本来ならばどことも分からぬ空間と女神と名乗る少女を信じられないだろうが、撃たれた事実をきちんと自分は覚えており、助からないであろうこともちゃんとわかっていた。
『死にたくないという気持ちは強かったが、それは死ぬということが分かっていたからこそだったのかもしれないねぇ。だからあっさりと受け入れられるのかもしれない』
女神は自分が感じ取った彼の気持ちからそう推測する。
「神なのにそこは予想なのか?」
神といえば時に困った者を助け、時に愚かな者に罰を与えるほどの力を持つ万能なものだと思っていた。そう言外に彼は語っていた。
『君たちが考える神というものはそうなんだろうね。まあ全知全能であるなら、そもそもこんなことをわざわざ口で説明する必要もないんだけどね』
「なるほど」
何でもできるのであれば、一瞬で理解させればそれで済む。
彼女の言い分に本郷は納得していた。
『物分かりが良くて結構だ。それで、今回たまたまとはいえ、僕に感じ取らせるほどの強い思いを持っている君のことをこのまま死なせるのは少しもったいなく思ってね……どうだい? 転生するつもりはないかい?』
転生と聞いて彼は首を傾げる。
「転生? 輪廻転生とかいうやつか? 確か、生まれ変わりとかだった気がするが」
『その通り。失った命を復活させることは難しい。だが、君の魂に新たな生を与えることは可能なんだ。どうだいやってみないか?』
彼にとってこの誘いは魅力的だった。仕事はまだまだ覚えることがたくさんあった。他にも色々とやりたいことがあった。妻を娶り、子をなし、その手に抱いてみたいという思いもあった。
「頼む」
詳しい話を聞いていなかったが、それでも彼はそう即答する。
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