第三百七話
前回のあらすじを三行で
精霊開放
ディーナも奥の手エレメンタルファイブ
ナルルースの刀身にヒビが
戦況はいま、ディーナ優勢だった。
しかし、それを見ている本郷に先程までのような苛立ちや驚きはなかった。諦めている、という様子でも興味がないというものでもなかった。
「ナルルース、本気を出せ」
にやりと口元に笑みを浮かべて言ったその一言で十分だった。
「ワカりましタ!」
かけられた言葉は彼女の本気を引き出すことに成功した。
気持ちを新たにし、ナルルースは次の奥の手に移る。
「精霊召喚!」
彼女が呼び出したのは二体目の闇精霊だった。元々、数で言えばディーナのほうが多いことからその手を選ぶことはおかしなことではなかった。ただし、それは数だけで言えばの話だった。
「闇精霊を二体!?」
ディーナはその暴挙に驚きの声をあげる。一体ですら制御できていると言い難いそれを二体同時に肉体に宿らせるのは正気の沙汰ではなかった。ナルルースの周囲は闇の精霊の霧に覆われ、それが晴れると彼女の身体は一層濃い黒い肌になり、纏いきれなかった精霊の力がにじみ出ている。
「ううううう、シネ」
先程より一層苦しそうに顔をゆがめながらナルルースが発したのは、唸り声とその言葉だけだった。
「くっ、こちらもいきますよ!」
相手の闇の精霊の力が強まったことをひしひしと感じ取ったディーナも五つの属性の力を強め、それを迎え撃とうとする。
金属音が響きわたり、二人の剣とレイピアがぶつかりあった。先ほどはディーナ優勢で闇の魔力を侵食していたが今は拮抗している。
「グアアアア」
ナルルースの言葉からは既に最初の理知的な彼女の面影はなく、すっかり闇の精霊に飲まれていた。
「そんなことになってまで勝ちたいですか!」
「グオオオオオ!」
いくら敵とは言っても苦しんでいる姿を見るのは耐えがたいディーナの問いに答えることなく、彼女はひたすら剣を振り回していた。
「くっ、やめて、下さい!」
何とか正気に戻ってほしいと必死の訴えをするが、その言葉は今のナルルースには届かない。
「ガアアアア!」
彼女の目は既に正気を失っており、皮膚の色も暗い色に変わっていた。
「ナルルースさん!」
必死にナルルースに訴えかけるディーナの呼びかけも彼女には何の効果ももたらさないようだった。
「もう、声は耳に入らないんですね……」
攻撃を防ぎながらも悲し気にディーナは呟くと、気持ちを切り替えた。
どうすれば彼女を救うことができるのか。何をすれば解放できるのか。それを考えることにする。
『宿主が倒れれば精霊は顕現できないです』
そう淡々と低い声で言ったのは土の精霊だった。彼のアドバイスは的確だった。
『あの女倒す?』
『あの女倒す!』
水と風の精霊たちも同様の意見のようだった。精霊同士だからこそわかることもあるのだろう。
「わかりました。彼女の意識を奪うことを最優先にしましょう」
やることが決まれば彼女の動きに迷いはなかった。
ディーナは距離をとると、蒼太に渡されていたもう一本の剣を取り出す。光輝くその剣には光の精霊が宿っていた。
「これは本当は使いたくなかったんですが」
土の属性同様、ディーナには光の属性に対する適正がなく、これも蒼太が用意したものだった。そして光の属性は闇と対をなしており、この二つは他の属性に比べて扱うのが難しかった。
『おう、俺様を呼び出すとはよっぽどのピンチみたいだな!』
彼は生意気な子供の容姿をしていたが、その身に秘める魔力の高さにディーナは一瞬気圧される。
「そうです、あの方が相手です」
それでも彼女を救うため、この先へと進むために気持ちを持ち直す。ディーナが示した方向を見た彼は嫌な顔をする。
『あー、あいつらね。闇の精霊っていうのはどうも下品で嫌になるよ。あれって宿主の身体を乗っ取ろうとしてるじゃん? かなりの力の持ち主じゃないとあれには抵抗できないからさぁ』
一瞬見ただけで全てを見切った光の精霊のその言葉に闇の精霊もぴくりと反応する。
『そういうそちらは光をまき散らして下品な様子だな。我々は彼女との盟約のもとこうやって力を貸しているんだ。それをそのように言われるのはただの言いがかりというものだ』
その言葉に光の精霊はカチンときていた。
『なっまいきだなあ。おい、あんた。ディーナっていったな、さっさとあいつらを倒すよ!』
ぐっと頷いて了承を示したディーナの身に六つ目の属性が宿る。
「ぐっ、これは、なかなかすごいですね」
五つでも異例であるものがそこから一つ増えた。しかもそれが扱いの難しい光の属性。更に言えば強力な力を持った精霊ということはディーナの身体に強い負荷をかけていた。
「それでも!」
防具に光の魔力を流し込むことで更に自らの肉体の強化をし、それに耐えるのが狙いだった。
その目論見は成功する。
完全に、とは言えないが、ディーナの身体にかかる負荷は減ったように感じられた。
「いけますね。では……いきますよ!」
剣を持った手を動かし、自分の身体の調子を確認するとディーナは走り始めた。
「シネシネシネ!」
それを迎え撃つべく、闇の精霊によって狂化されたナルルースもディーナへと向かってきた。
二人がぶつかった瞬間、闇と光の魔力の波が周囲に広がっていく。
「シネエエエ!」
「正気に戻って下さい!!」
ディーナの魔力の高まりはナルルースのそれを上回っており、しかも攻撃手段が二本になったため手数でも彼女を追い詰めていく。
「ウギャアアア」
右手に持ったライウスでナルルースのレイピアを受け止め、左手に持った光の精霊の剣で彼女に攻撃を加える。
蒼太の呼びかけに応えた光の精霊の格は闇の精霊二体でも及ばないため、強力な光の力が闇の精霊に大きなダメージを与える。
「まだですよ! 精霊開放!!」
彼女の呼びかけに応えたのは風と水と土の精霊だった。ライウスを媒介に開放された精霊たちの力はナルルースの持つレイピアを刀身の中央からたたき割り、更にその手から吹き飛ばす。
「ナニ!!」
彼女はその声とともにレイピアの行く先に一瞬気を取られる。
「大きな隙ですね」
ディーナはそう静かに言うと、光の精霊の剣を大きく振りかぶって彼女に斬りかかった。剣にはディーナの身に宿る火と雷の魔力を上乗せしていた。その威力は言うまでもなく強力なもので、闇の精霊はなんの抵抗もできずに斬られていく。
『グギャアアアアア』
『グガアアアアア』
二体の精霊は断末魔の声をあげるとその力によって霧散した。
闇の精霊が消えたことで元の褐色の肌を取り戻したナルルースは意識を失い、どさりとその場に横たわる。
ディーナのその剣は彼女の身には傷一つつけておらず、その身に宿る精霊だけを倒していた。
「さすがソータさんたちの作った剣ですね……」
魔力だけを断ち切る剣。それがこの剣の最大の特徴だった。
蒼太が渡した剣は十二本あり、その中で今回の戦いに最も即しているのがこの剣であるとのディーナの判断だった。目の前で生きたまま気を失っているだけで済んだナルルースを見れば、その判断は正しかったといえるだろう。
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