第三百六話
前回のあらすじを三行で
弓の撃ち合い
剣での戦い
精霊を呼び出す
「そこまでして……」
ディーナはナルルースの邪悪なまでの変貌ぶりに驚いていた。それと同時に怒りも感じていた。
「あなたは、彼女にここまでさせておいてなんとも思わないのですか!」
普段穏やかな笑みを欠かさない彼女にしては珍しく声を荒げる。その相手はにやりと笑っていた。
「あぁ、なんとも思わんよ。別に俺が頼んだわけではない、ナルが勝手にやったことだからな」
本郷はナルルースの様子を見てむしろ愉快だと笑っているようだった。
「なんということを!」
本郷に話しても無駄だとわかったディーナはナルルースに視線を戻す。彼女は律儀にディーナが戦いに意識を取り戻すのを待っていた。
「もういいデスか? いきマスよ!」
黒いオーラに身を包まれたナルルースはレイピアにもそのオーラを纏わせてディーナへと向かってくる。
ディーナも慌てて精霊の力を剣に纏わせる。
「やるしかないみたいです、ね!」
ライウスは二体の精霊の魔力を纏い、闇のレイピアを受ける。
「ぐうっ」
その声をあげたのはディーナだった。ナルルースのレイピアは先ほどの何倍もの力で一撃を繰り出している。
『強いね!』
『強いよ!』
精霊二人も闇の属性による攻撃の強さに驚いていた。
「ほらホラほらホら!」
ナルルースの顔色は頭部から徐々に褐色から漆黒に染まっていく。それにつれて一撃の重さも強力になっていた。
「くっ、これは、なかなかきついですね」
それを受けるディーナの腕は重みで痺れ始めている。
『むう、こうなったらいっくぞー!』
「!? 了解しました!」
水の精霊が悔しそうに力を入れ始めたのを見たディーナは、水の精霊がやろうとしていることを察してライウスに魔力を込めていく。
そうすると水の魔力が爆発的に高まり、ライウスの刀身を伸ばしていく。
その様子に驚いたナルルースの手が止まり、一歩下がった。
「いきます!」
ディーナは強化されたライウスで彼女へと斬りかかっていく。
「それくライで!」
その一撃を受けようとしたが、剣とレイピアが接触した瞬間にその選択が失敗だったことがわかった。
「水精霊、解放!」
ディーナが言葉を放つと同時に複数の水魔法がナルルースの身に降りかかった。
水の刃、水の玉、水の槍、水の弾。複数の方向から襲い掛かってくるそれを彼女は全てその身で受けることになってしまう。本来ならレイピアで振り払うところであったが、ディーナはライウスで攻撃する手を緩めようとはしなかった。
「お、オノれ!」
多種多様な攻撃は彼女を倒せなくとも、ダメージを与えることはできるだろうと思われた。
「ヤみ精霊、カイほう!」
だが彼女は咄嗟に同じように闇精霊の力を開放し、水魔法の全てを打ち払うことに成功した。
「はあはあ」
しかし彼女はレイピアを杖代わりにして、苦しそうに息を切らしている。一度闇の精霊の力を開放したようで、元の褐色の肌に戻っていた。だが闇の精霊の力で無理やり強化された肉体はその力に耐えきれず、悲鳴を上げ始めていた。
「その様子では、まともに戦うのは難しいのではないですか? 私はまだほとんどダメージを受けていませんよ?」
水と風の精霊たちを一度解放し、その場でしゃんと立つディーナの言葉は強がりではなく、真実を口にしていた。
「うるさい! こんなもの!!」
彼女は何かを取り出すと飲み込んだ。すると、彼女から疲労がとれていくように見える。
「今のは?」
「貴様に教える理由はない! 来い! 闇精霊!」
力を開放した闇精霊を彼女は再度召喚して、その身に宿らせる。
「うっ、また!」
彼女から闇のオーラを感じたディーナも水精霊を再度呼び出してから彼女との距離をとる。
「これは出し惜しみしている場合ではないみたいですね」
最初の状態で本気を出していたらナルルースは死んでしまうかもしれない。そう考えていたディーナだったが、今のナルルースを見て本気を出さなければ戦うことができないと認識を改めた。
彼女の身を守るためにボグディが用意したのは、白銀の胸当てだった。腕と足も行動を制限しない程度に同じ素材の防具で覆われている。これらには他の仲間と同じように肉体を強化する魔法が付与されている。
「まずは、これを」
魔力を通すとディーナの身はまるで羽根がはえたかのように軽くなる。
「次に、二人ともお願いします」
『はーい』
『りょーかい』
ディーナの呼びかけに二体の精霊は彼女の周囲を飛び回り、自らの力をディーナに宿らせていく。
「次はこれですね」
左右の耳につけられたイヤリング。その先の宝石を取ると彼女は飲み込んだ。
右のイヤリングには蒼太が炎の魔力を。左のイヤリングにはイシュドラが雷の魔力を。そして、サークレットには土の精霊が宿っていた。これは蒼太が土の精霊を呼び出し、精霊を説得し、装備に宿ることを納得させていた。
「なんダそれハ!?」
一人で同時に五つの属性を操るディーナに、さすがのナルルースもその身に宿った闇精霊も驚いていた。
「これが私の奥の手、エレメンタル・ファイブ!」
この名は蒼太がなんとなく語感と思い付きでつけたものだったが、彼女はそれを気に入っていた。
『地』『水』『火』『風』『雷』の五つの属性をその身に宿らせた彼女からは、例え闇属性が相手でも引けを取らない強さが感じられる。
「いきます!」
ディーナは普段であれば使いこなせない属性をその身に受けているが、ナルルースとは異なって正気を保っており、身体への影響も少ないように見えた。
これには理由があった。この力を使いこなすために全属性が使える蒼太に魔力投与を何度か行ってもらい、水と風以外の属性に身体を慣らしておいたためだった。
「ソんな、コケおどシ!」
見掛け倒しだと思ったナルルースは闇のレイピアでディーナの攻撃を受け止めた。すると、触れている部位から徐々に闇の魔力が五属性に浸食されて始めていた。
「ナッ!」
驚いて距離を取ろうとするが、身体能力を向上させたディーナはすぐに追いすがる。
「逃がしませんよ!」
ディーナの攻撃は苛烈で、ナルルースはそれを受け止めるだけで精一杯になっていた。
その時、ナルルースは手にしたレイピアが悲鳴を上げ始めたことに気付く。
刀身に、ヒビが入っていた。
「こんナ時ニ!」
彼女は表情はわかりやすく焦っていた。
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