第三百五話
前回のあらすじを三行で
ブレス対決
負けを認めるブラオード
ナルルース・フレアフルVSディーナ・蒼太
蒼太とディーナは視線を交わし、頷きあうとそれぞれが反対方向に分かれる。
このフロアは屋内空間といえども広いため、それぞれが互いの戦闘に巻き込まないように移動する。
「あなたの相手は私が務めさせて頂きますね」
柔らかな笑顔で言ったのはディーナ。
「あなた個人には思うことはありませんが、エルフ族というだけで万死に値します。そして、あのお方の敵ということであれば尚更です」
対するナルルースは敵意に満ちた眼差しでディーナを睨み付けている。
そんな二人が手にしているのは弓だった。以前蒼太たちを長距離攻撃してきたのは彼女であり、ダークエルフも種族特性として弓スキルを持っていた。ディーナは特性と彼女の腕前を理解していたため、自身も弓を取り出していた。
ディーナの弓も空いた時間で蒼太たちが強化を施していた。その名を蒼銀弓。青みががった見た目をしており、以前よりも魔力に対する浸透性が増している。
「まずは」
「打ち合いですね」
互いがお手並み拝見といった様子で弓を構える。
すると、次の瞬間、お互いの弓からそれぞれ目にも止まらぬ速さで次々に矢が発射されていく。
ナルルースの弓も魔力の矢を放つタイプのもので黒色をしている。彼女の弓も特殊な金属を使っており、魔力の浸透性が高かった。
互いの矢の威力はほぼ同等であり、矢同士がぶつかることでそれぞれの威力が相殺され消えていく。
「なかなかやりますね……そういえばあの時の魔力矢での超長距離の攻撃はあなただったんですね」
ディーナはその放たれた矢に見覚えがあった。小人族の集落が襲われた時の最後の攻撃、それはナルルースによるものであった。その技術力をディーナは思い出し、実際目の前にした彼女の腕前を認めていた。
「あなたこそ、薄汚いエルフ族のわりには良い腕のようです……ですがあの時のようにかわせると思わないことです、今度は逃がしませんよ!」
反対にナルルースは罵りながらも腕前だけは認めている様子だった。
互いに言葉を交わしながらも矢を放つ動作は一糸乱れぬものであり、その間にも次々に矢は放たれていく。しかし、このままではどちらかの魔力が切れるまでは状況が動くことはないと二人ともわかっていた。
しかし、そこまで待つつもりは毛頭なく、徐々に新たな動きをみせていく。
ナルルースは一射一射に込める魔力をあげ、ディーナの矢を打ち砕こうとする。それに対してディーナは手数で応戦しようとするが、威力は徐々に徐々に強くなっていくため、分が悪かった。
「すごいですね、魔力量に自信があるようです」
ディーナの言葉の通り、ナルルースは自信があった。実際彼女の魔力量は通常のエルフの数人分あり、底はまだまだ見えてきていない。
「では、こちらも」
同じ方法ではつまらないと考えていたディーナは、矢の威力はそのままでそこに新たな力を付与させていく。それは契約している精霊たちの力だった。
「お願いします!」
『はーい!』
『了解なのー』
姿を現したのは水と風のかわいらしい精霊だ。元々相性の良かったディーナと彼女たちの絆は鍛錬によって強まっており、今では会話もできるほどになっている。
ディーナのお願いに水と風のそれぞれの精霊は矢に各々の属性を付与させていく。
単純に威力だけが強くなったナルルースの矢と、属性を付与することで強化されたディーナの矢はほぼ同等の威力を持ち、再び状況が拮抗してくる。
「くっ、こざかしい」
ダークエルフは精霊との相性が悪いため、契約することができないのが普通であった。
精霊を使役しているディーナは、矢に使う魔力量は変わらないため、このまま継続しても魔力は十分持つ。しかし、矢に使う魔力量を徐々に上げていっているナルルースは、継続していけば先に燃料切れを起こすのは目に見えていた。
「これで!」
燃料切れを起こす前に決めたかったナルルースはそう叫ぶと今まで以上に強力な魔力を込めて矢を放つ。あまりに強力な魔力を込めると、矢がオーバーフローを起こし回復するまでしばらく使い物にならなくなってしまう。
しかし、彼女はそれを織り込み済みで矢を放つ。
その矢は威力もさることながら矢のサイズも大きく、ディーナの放った矢をいくつか飲み込みながらそのまま向かっていく。
「すごいですね、でも」
強力な矢が勢いよく迫る中、ディーナは弓をしまうと、生まれ変わった剣アンダインこと『ライウス』を取り出してそれを迎え撃つ。
矢が剣に触れるところでディーナは横から声を聴くことになる。
「隙あり!」
そこにはナルルースの姿があった。
彼女は右手にレイピアを構え、矢を止めようとしているディーナを横から突いていく。
「いい攻撃です」
しかし、当のディーナにはにっこりと笑顔を見せるほどに余裕があった。
「強がりを……!?」
ナルルースが突き出したレイピアはディーナへと届くことなく、その寸前で止められることとなる。
「ごめんなさい、私には精霊さんたちがついてくれているんです」
風と水の精霊たちはディーナを守るように障壁を展開しており、その向こうで矢をライウスで撃退し終えた彼女は、再び優雅に一礼して謝罪を口にした。
「もし、あなたが卑怯だと言うのであれば彼女たちの力は借りないようにしますが……いかがでしょうか?」
ふわりふわりとディーナの周囲に舞う精霊たちにそっと手を伸ばしながらのその提案は、ナルルースの怒りのボルテージをあげるだけだった。
「この、ふざけるな!」
顔をくしゃりと怒りにゆがめた彼女は先ほどまでの落ち着いた口調はどこかへなりをひそめ、口調も荒いものになっていた。
「情けを受けて勝とうとは思わない! それに、こちらにも!!」
そう言うと彼女の周囲に黒いモヤのようなものが浮かぶ。
「それは……闇の精霊!?」
彼女はブラオードの協力のもと、闇の精霊との契約に成功していた。他の属性精霊とはダークエルフは相性が悪かったが、闇だけはその種族名から見て取れるように契約を結べる可能性があったからだ。
「そうです、闇の精霊は、他の精霊に比べて、強力なのですよ!」
黒い霧を身体に纏った彼女の喋り方はぶつ切りのようになり、様子がおかしかった。
『闇の精霊は、普通の精霊より強い力を持っているの』
『でも、契約者は呼び出すとこころに強い影響を受けるらしいの』
警戒を強めた風と水の精霊がそうディーナに教えてくれる。なるほどとディーナは頷いた。
「確かに、表情もしゃべり方も先ほどまでと違うようですね。目の色も」
彼女の美しい琥珀色の瞳は、赤く濁り始めていた。
「これで、ワタシが、負けルことはないデス」
言葉もどんどん怪しくなっていくが、確かに彼女の魔力は目に見えて強力になっていた。
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