第二百九十三話
前回のあらすじを三行で
本郷の屋敷へ
広大な空間
なんにもないね……
「あそこです。みなさんお待ちですよ」
ダグラスはにこりと笑って言ったが、指し示された先にいたのはフードの男と大量の魔物という笑えないものだった。
「結構な数でやってきたな……さて、どうしたものか」
それらを前にしても蒼太は慌てる様子はなかった。
「それじゃあ僕も行きますね」
ダグラスはゆっくりと歩いてフードの男の隣に立った。どちらも本郷の部下であるため、仲のいい様子で話を始めていた。
「まあ、そうなるわな。あいつも敵ってことだ」
「うーん、さっきまで普通に話してた人が敵になるってなんか嫌な感じだなあ……」
複雑な気持ちが表情に現れているレイラはここまで案内してくれたダグラスが相手側につくことに違和感を持っていた。
『ここは私たちに任せてもらおうか』
そう一歩前に出て言ったのはアトラだった。
「たち? どなたが行きます?」
ディーナの言葉にアトラと並ぶように一歩前に出たのはエドだった。
「ぶるるるる」
アトラの言葉は自分のことだとわかっているようで、エドの表情は気迫が漲っていた。
「じゃあ、頼んだぞ。俺たちは先に進ませてもらおう、行くぞ」
蒼太はアトラとエドのことを信頼していたため、二人を残して右手の方向へ歩を進めていく。
「ちょ、ソータさん。いいの? みんなで戦えば早いのに……」
慌てた様子で蒼太について行ったレイラはそう進言するが、蒼太は戦力を分散させて先に進むことを選ぶ。
「あいつらにも活躍の場所を作ってやらないとな。あと……あいつとやるまでに俺の力を温存しておきたいからな」
そう言って塔を見上げた表情は真剣だったため、みんなは何も言わずについていくことにした。
「ところで、そっちの方向であっているんですか?」
ここまではダグラスが案内してくれたが、その進行方向からずれてしまうためディーナが尋ねる。
「問題ない、あいつが案内してくれた間にこの空間の調査は終えている。さすがに全域は無理だったが上へと繋がる道は見つけたよ」
蒼太は風魔法と空間魔法を合わせて、この平原のマッピングを行っていた。
「魔力は大丈夫なの?」
「それも問題ない。最小限の魔力でやったし、その魔力も既に回復しているからな」
「そ、そう」
広大な空間であったためレイラは心配していたが、ここでも蒼太の規格外っぷりがみられた。
蒼太たちが自分たちを無視して進んで行くことにフードの男は憤慨していた。
「なんで、なんであいつら行っちゃうんだよ! 僕たちを無視するな!」
「彼らが相手、ということですかね」
ダグラスは自分たちと向かい合っているアトラとエドを見てフードの男へと言った。
「それがムカつくんだよ! 犬と馬が相手って、どうみても僕たちを舐めてるだろ!!」
二人に対するフードの男の評価はそれだった。
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。ブルグさん」
名前を呼ばれたフードの男ブルグは、ダグラスへと顔を向ける。
「なんだよ、ダグラスはあれ見てなんとも思わないっていうのかよ!」
声を荒げた彼は唇を尖らせて不満そうに言った。
「いや、なんというか。あの狼君と馬君ですが、やはり彼の仲間だということです。油断していたらこっちが喰われますよ」
ダグラスがあまりに真剣に言うのでブルグも思い直して彼らをじっとみることにした。
「なるほど、ボクたちの相手をするということはそれなりにやれるってことか。それとも……」
『悪いが、さっさとお前たちを倒してソータ殿を追わせてもらうぞ!』
「ヒヒーン!」
落ち着いて見てみると自分たちの相手に不足はないと気付いたブルグの言葉に続くように、アトラとエドが声をあげる。
「くっそムカつくね! ダグラス、こいつらさっさとやってあいつらを追いかけるよ!」
「わかりました。強いと言っても、動物にやられるのはいい気分ではないですからね、私も本気を出しましょう」
その言葉が開戦の合図となった。
エドとアトラがブルグたちに向かって走り出し、ブルグの指示で魔物たちが二人に向かっていく。それが衝突した瞬間、双方の声があがった。
「始まったか……」
上の階へと続く装置までたどり着いた蒼太たちへと戦いの始まりの声が届いていた。
「二人だけで大丈夫かなあ? 結構敵多かったけど」
レイラは今も心配しており、後ろを振り向いて見ていた。
「大丈夫です、私たちは少しでも早く一番上にたどり着くことだけを考えましょう」
ディーナは励ますようにレイラの背中をぽんっと軽く叩いて、先に進むことを促した。
「ここをあいつらに任せると決めたらその心配は余計なものだ。俺たちがやるのは上に向かうことだけだ」
はっきりと信頼の言葉を向けた蒼太に一切の迷いはなく、少しでも先に進もうとしていた。
「うん……行こう」
レイラも彼らを信じることが彼らへの信頼の証を考えてそれ以上は振り向かないと決めた。
上の階へと進むための装置は魔力を通すことで、上へと向かうエレベーターのようなものだった。
蒼太以外の面々は驚いていたが、本郷がいるのならばこれも当然だろうと蒼太は大きな反応を示さなかった。
「さて、次の階は一体どうなっているのやら……」
装置が止まり、上の階へとたどり着くと今度は岩肌が露出している荒野だった。
「今度はまた殺風景な場所に出たものだな」
蒼太があたりを見回すと、離れた場所に一人の鎧の男がいるのが見えた。
「ふむ、早かったな。ブルグたちはやられたのか? いや、仲間を残して先に進んで来たということか」
鎧の男は蒼太たちの人数が最初に聞いていたものより少なくなっていることに気付いてそう判断した。
「なかなか、聡明なようだな。この階の敵はお前という事か」
「うむ、その通りだ。私の名前はボーガ。鉄壁のボーガだ。何人たりとも私に傷をつけることはかなわん!」
どんと仁王立ちをしたまま告げたそれは自分から名乗り始めたものではなく、今まで戦線に赴いてただの一度も傷を負うことがなかった功績をたたえた本郷によってつけられた二つ名であった。
「二つ名持ちか、面白いな。さて、今度はどうするか」
ここも先ほどと同じように誰かが戦い蒼太は先に進む。もしくは全員で戦う、どちらで行こうか。という意味で蒼太は呟いてた。
「あたしがやるよ。鉄壁だなんてかっこいいけど、あたしの前じゃそんな名前意味がないってことを教えてあげるよ」
下の階で残った二人に感化されたこと、更には鉄壁などと名乗り、誰も傷をつけられないなどと言われればレイラの負けず嫌い魂に火をつけるには十分だった。
既にレイラは二本の槍を取り出していた。
「わかった……レイラ頼んだぞ。ボーガといったか。それで構わないか?」
「構わん。私は強者と戦えれば満足だ。どのみち一つ上の階からは進めないだろうからな」
上の階を守る者に絶対の信頼をおいているボーガの視線は、既にレイラだけをとらえていた。
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