第二百八十七話
前回のあらすじを三行で
箱詰め男
ギルドへ報告
何やら予感がする
手続きを終えて報酬をもらうと蒼太は外へと向かった。先ほどの視線はそのまま蒼太のあとをついてくる。
「あ、ソータさんおかえりなさい。大丈夫でしたか?」
ディーナがいち早く蒼太を見つけ声をかけてくる。
「そっちは滞りなく済んだよ。ただ……」
蒼太は後ろにちらりと視線を送る。姿は見えなかったが先ほどの視線の主は、確実にあとをつけてきている。
「おい、そこのやつ。俺に何か用か?」
声をかけるが、反応はない。しかし気配は依然としてその場にいた。
「俺に敵対する気なら、本気で対応するぞ!」
怒気をはらんだ声で気配の主に再度は話しかけた。すると観念した様子で男が姿を現した。
「お前は……アーベンだったな。なぜ俺を尾けるような真似をする」
彼は困ったような表情で何を言うべきか迷っているようで無言のまま蒼太と向かい合う。
「はあ、言う気はないということか……俺の邪魔をしなければ構わないが、何かするのであれば相手をしてやるぞ」
蒼太の言葉にアーベンは狼狽する。しかし、話の内容は未だ口にする気はないようだった。
「ソータさん、怖がっているのかもしれません。どこか落ち着ける場所で話を聞きましょう」
落ち着きがなく、何かに怯えている様子のアーベンを見てディーナがそっと助け舟を出した。
「……仕方ない、だったらどこかお茶が飲める店にでも入ろう。アーベン案内してくれるな」
アーベンは頷くと、反対方向に振り返り歩を進めていく。蒼太たちは馬車に乗ってゆっくりとそのあとをついていった。
一軒の店の前でアーベンは足を止める。
「……ここの店はなかなか美味いものを出す」
それだけポツリと口にすると店の中へと入っていった。
「俺たちも行くか。ディーナとレイラはついて来てくれ。アトラ、古龍の二人はエドと一緒に馬車の番をしていてくれるか?」
『承知した』
『了解したのう、あとで我にも何か美味いものを頼むぞ』
二人は蒼太に返事をすると、アトラは見張りやすいように馬車の外へ、古龍は馬車の上に移動した。
「美味しいもの楽しみー」
レイラは先ほどアーベンの言葉に期待し、一番に店に入っていく。
店の中に入ると、既にアーベンが席を確保していた。
「待たせたな」
蒼太とディーナとレイラが同じテーブルに座るが、アーベンの表情は未だ冴えないものだった。
「……とりあえず注文するか。すいません、注文お願いします」
蒼太が店員を呼び、それぞれが飲み物や甘い物を頼んでいく。この店は喫茶店であり、飲み物の種類が豊富だった。
「なかなかいい店を知ってるんだな、雰囲気もいいし静かだしいいところだ」
話しやすいようにと気をつかった蒼太がそう声をかけるものの、対するアーベンはまだ表情が固いままだった。
特にこれ以上話が進むことはなく、そうこうしているとそれぞれの前に徐々に料理と飲み物が運ばれてくる。
「「いただきます」」
「いただきまーす!」
目の前に運ばれてきた美味しそうなデザートに目を奪われたレイラも蒼太たちと同様にちゃんと挨拶をしてから、パンケーキに手をつけていく。
「んまーい!」
最初のひと口でパンケーキの美味しさに魅了されたのか頬を押さえて感動に浸ったレイラはどんどん切り分けたそれを口に運んでいく。その隣ではディーナも笑顔で頼んだパフェを綺麗に食べていた。
「喜んでくれて何よりだ」
そんな二人を見ながら静かに飲み物をすする蒼太は女性陣の笑顔にほっと一息ついた。
「さて、アーベン……そろそろ話してくれ。一応声が漏れないように既に結界は張っている」
喫茶店に入ってからも無言のアーベンに痺れを切らした蒼太は自分たちのテーブルの周囲を囲むように結界を張っていた。ずっと考え込んだ表情で俯き座っていた彼は結界を張ったことに気付かなかったようで、いつの間に、と驚いた顔で顔をあげる。
「やっとこっちをまともにみたな。さあ、話してくれ」
アーベンは蒼太の言葉に覚悟を決める。
「わかりました……あの、俺、みなさんに助けられてから街に戻ってきたんです。それで、調子に乗っちゃって、すげー人にあった、助けられた、変なやつに嵌められたって吹聴したんです」
ぼそぼそと話し出した彼の話をそこまで聞いて、蒼太はいくつかの予想がついていた。
「そしたら、あいつがやってきたんです。なんか、フード被って顔を隠した奴が」
「あいつか……」
蒼太たちはそれが誰なのかわかっていた。このタイミングでアクションを起こしてくるフードとなると、一人しか思い浮かばなかった。
「そいつに聞かれたんです。俺が言ってたやつらの特徴はどんなだったのかって。なんかやばそうなやつだったから、最初俺は断ったんです……そしたらあいつ、あっという間に俺の動きを封じて耳元でこのまま殺してもいいんだぞって。俺、それですっかりびびってみなさんのことつい話しちゃったんです」
そう話すアーベンの顔には後悔の色が浮かんでいた。
「俺たちのことを話したあと、そいつは何か言っていたか?」
蒼太の質問にアーベンは、その時の状況を思い出す。
「……確か『ソータというやつに話しておけ、王城で将軍様が待っているとな』って言っていたと思います」
アーベンはそれも悔しそうな表情で言う。自分で言いふらして、脅しに屈して、体のいいメッセンジャーに成り下がった自分が情けなかった。
「そうか、それは都合がいいな。助かったよ、ありがとうな」
蒼太はギルドに関わりたくないと思っていたため、別のルートが見つかったことに喜んでいた。
「えっ?」
「よかったですね、これでお城に行けば将軍さんに会えます」
なぜ礼を言われたのかわからないアーベンを置いてけぼりにして、ディーナは柔らかな笑顔で蒼太と話している。
「あぁ、こいつを泳がせておいてよかった。じゃあ、食い終わったら早速向かうか」
話は済んだと結界を解いた蒼太は自分のもとに置かれたケーキを一気に食べて立ち上がった。
「ま、待って。今食べちゃうから」
蒼太たちが話している間もレイラはいつの間にか追加注文していたらしく、そのケーキを蒼太と同じく一気に頬張り、急いで立ち上がった。
「支払いは俺のほうでやっとくから、アーベンはゆっくり食っててくれ」
ぴっと指で挟むように支払い用の用紙を手にして去っていった蒼太たちを呆然と見送り、一人残されたアーベンは一体自分の苦悩は何だったのかと落ち込んだ。そのままゆっくり視線をテーブルに戻し、一つだけ手のついていない自らが注文したケーキを口にする。
「美味い……」
そのつぶやきは誰に聞かれることもなかった。
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