第二百八十三話
前回のあらすじを三行で
やってきたアーベン
怪しいアーベン
倒れるアーベン
アーベンは痛みを忘れ、ただ驚きと恐怖だけが彼の心を支配していた。呆気なくやられたことと頭上にある火の玉の熱気と蒼太の威圧によりいつ消し飛ばされてもおかしくないと彼に確信を持たせるものだったからだ。
「な、なんで」
彼が言いたかったのは、なんでDランクごときがこんなに強いのか。だったが、それを口にすることはできずにいた。
「答えてやろう、俺はDランクから上げるつもりがないだけだ。ランクは力の証明じゃない、どれだけ依頼をこなしたかの証明だ。まあ、C以上の昇級テストが何を図っているかは知らないが」
蒼太は威圧を解かないまま彼の表情からその疑問を悟り答えた。しかし、彼はすっかり怯えきってしまっており、ガクガクと口が動くだけで声が出ないようなので蒼太は一度威圧を解くことにする。
「これで話せるだろ。一体なんで俺たちに絡んできたんだ?」
先ほどの新人狩りという言葉を微塵も信じていない蒼太が質問した。
「はぁ、はぁ、はぁ、俺は、何も知らない」
アーベンの言葉に蒼太は首を傾げる。このごに及んで何を言っているのか? そう思うが、もしかしたら本当に知らないのかもしれないという思いも同時にあった。
「本当に知らないのか?」
確認するとアーベンは何度も勢いよく頷く。必死な形相の彼からは嘘を言っていないように見えた。
「だったら、誰に命令された。もしくは誰に依頼されたんだ?」
蒼太の質問に彼はごくりと唾を飲んだ。知らないということで通せると思っていたための反応だったが、依頼主が誰なのかしっかりと覚えている。そのため先ほどの焦りとは別の秘密を握られたような冷や汗が頬をつたっている。
「いや、それは、その……」
アーベンの顔からは血の気が失せ、どうすればこの場を切り抜けられるのか、その考えだけが脳内を支配していた。周りには先ほどやられた仲間が未だにぐったりと壁の下に横たわっており、どうやっても実力でこの場を切り抜けられないことはわかっていた。
「まあ、答えられないなら仕方ない。ロープで縛ってここに放置していこう」
蒼太はそういうと、手際よくバッグからロープを取り出した。このロープは金属が練りこまれて更にそこへ特殊な加工がされているため、通常のロープの何倍もの強度を持っていた。
「し、縛るって、こんな魔物がいるところに放置するのか?」
動揺しつつも、今のアーベンはどこか余裕を見せている。彼は力に自信があり、そんじょそこらの縄程度であれば自力で破ることができると思っていた。
「おい、言っておくがお前の筋力がどれだけ強くてもこのロープは切れないからな。ほら、見てろよ」
蒼太はそれを読んで釘をさすことにした。アーベンが持っていた剣を拾い上げると、地面に置いたロープへと斬りかかる。カキーンという本来のロープからは聞こえるはずのない金属音とともに剣がはじかれた。
「なっ!」
彼の剣はAランクであるに相応しいものであり、かなりの金を支払って手に入れたものだった。これまでどんな魔物の攻撃も防ぎ、どんな魔物にもダメージを与えてきた自分の剣でも歯がたたないことを知って唖然としている。
「あー、すまんな。この剣ちょっと欠けた」
蒼太は悪びれた様子もなく剣の欠けた部位を見せて謝罪する。
「どっ、なっ!」
どうして、なんで、そう言いたかったが、自身が誇る剣がロープすら斬れなかったという事実に驚きすぎて言葉にならなかった。
「と、いうわけでこれでお前たち全員縛らせてもらおうと思っている。最後に何か言いたいことはあるかな?」
蒼太はにこりと笑顔のままロープを広げてアーベンに最後の質問を投げかける。
この男の前で何をしてもかなわないと悟った彼は肩をガックリと落とし、沈黙のままこの場を乗り切るのは無理だと諦めた。
「言うよ」
力なくそうぼそりとつぶやく。
「なんだって?」
蒼太は聞こえていたが、あえて聞き返した。
「言います、言わせて下さい!」
意に従わなければさらにひどい目にあわされるのではないかと恐怖に怯えた彼は慌てた様子で取り繕った。蒼太はこの言葉を引き出せたことに満足して頷いた。
「わかった、聞かせてくれ。一体お前たちをけしかけたのは誰なんだ?」
その質問に一度大きく深呼吸してからアーベンが答え始める。
「あんたたちがギルドに来る数時間前の話だ。ある男があんたたちの特徴を言って、そいつらに声をかけてもしその男の言う通りのやつだったら隠れて襲ってほしいっていう依頼を受けたんだ。報酬は金貨百枚と破格だったし、俺はAランクに上がったばかりで腕に自信を持っていたからな。二つ返事で受けたよ」
その結果がこれだがな、と自重ぎみに言う。
「その男の正体は?」
「あいつなら、あんたの仲間に吹っ飛ばされただろ……」
蒼太は慌ててレイラに吹き飛ばされた男たちに視線を送る。
「一人、二人、三人……四人!? 一人足りない!」
慌てて気配察知を行うと、その気配は思ったより近くにあった。
「おいおい、Aランクだっていうから期待してたのにこんなもんかよ」
「げふっ、なんで、俺を……」
蒼太が振り返るとアーベンの胸を貫くように剣が突き刺さっていた。
「お前が犯人か、どうしてこいつを殺そうとする。正体は既にばれているから秘密保持じゃないよな?」
蒼太は目を細めて剣を突き刺した男を睨み付けながら詰問する。
「なんだ? 怒ってるのか? お前たちに襲いかかろうとした生意気なやつを始末してやったんだ、感謝こそされても、怒られる筋合いはないんじゃないか?」
男はにやりと笑いながら、挑発するように言った。
「そいつの処遇は俺が決めるつもりだった。そこに横やりを入れられればいい気はしないだろ?」
蒼太は冷めた表情でそう答える。
先ほどまで余裕ぶった男は蒼太に見られただけで、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
「お、お前はなんなんだ!」
「俺はただの冒険者だ。帝国を楽しんでいた、そして久しぶりに依頼を受けて楽しんでいたんだ。なのに、お前らが水をさしてきた。お前こそなんなんだ?」
蒼太の一言一言に自然と威圧が強まり、すっかり男は気圧されている。
「くそっ、こんな化け物だなんて聞いていないぞ!」
叫んだ男の首筋にはいつの間にか剣があてられていた。
「私の大切な仲間を化け物呼ばわりしないで下さい」
あくまで言葉は冷静に、しかし内面に渦巻く激情がディーナを突き動かし、男の動きを封じていた。その側ではレイラも槍を構えて男を睨み付けている。エドやアトラ、古龍も怒りを露わにしていた。
「ばけ、いや強者の仲間は強者かよ。くそっ、あいつらにいっぱい食わされたぜ」
化け物と再度口にしようとした男の首にぐっと剣が触れ、そこから一筋の血が流れ落ちる。それに気づき言葉を変えた男だったが、生きている心地がしなかった。
「あいつら……フードの男と鎧の男か?」
蒼太の言葉に男がはっと目を見開いたことが、その答えを雄弁に物語っていた。
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