第二百七十一話
前回のあらすじを三行で
一時避難先
俺が何とかしよう
みんなついていく!
一行は小人族の集落をあとにすると、北の帝国へと向かった。
当初の予定通り、馬車に乗って陸路から向かうことにする。帝国は強国ではあるが、物流においても自由な貿易が行われており、冒険者も種族やランクに関係なく広く受け入れている。
蒼太たちからすると、小人族を襲っているイメージが強く、帝国イコール悪という印象にどうしてもなってしまう。
しかし、住民や帝国に来訪する者たちからすればとても住みやすく、何度も来訪したくなる国であった。
「というのが帝国の一般的なイメージらしい。俺は帝国なんていうと悪ってイメージがあるんだが、どうやらそうでもないらしい」
馬車の中で、調べた情報をみんなへと共有していた。
「私もいいイメージは持ってなかったんですが、読む本読む本どれもがいいイメージが書かれていましたね。帝国ができたばかりの頃はソータさんが言うように悪の帝国って感じだったみたいですけど、ここ数百年で徐々に改善されて今では住みたい国上位に入るようです」
ディーナは御者台から蒼太の話に応える。
住みたい国ランキングなどというものを見つけた時には驚いたが、実際にそういった本があり、毎年刊行されていた。
「だから、まあ悪い国ではないようだ。そこにいる将軍というやつに問題があるだけでな」
二人の話を聞いたレイラは、どこか納得のいかない表情になっていた。
「うーん、でもでも悪い人たちがいるんだよね? だったらあたしはいい国だとは思えないなあ」
レイラは小人族が集落を追われたのを思い出して、怒りが顔に現れていた。
「そうなんだけどな、人を憎んで国を憎まずがいいと思うぞ。帝国にだっていい人間はたくさんいるだろう、それこそ小人族にだって仲間を裏切って情報を帝国に流していたやつだっていたくらいだからな」
その情報はレイラにとって初耳だったため驚きを隠せなかった。
「な、なんで、そんな仲間を、家族を売るだなんて! どうしてそんなことが!?」
蒼太は少しは驚くかなと思って口にしたが、予想以上の驚き、というよりも困惑しているのを見て反対に蒼太が戸惑っていた。
「……わからんが、それ以上に魅力的なものを提示されたんだろうな。金なのか、物なのか、地位なのか……もしくは、理想を見せられたのかもしれないな」
その説明にもレイラは納得ができず、蒼太に詰め寄る。
「そんなもので家族を裏切れるなんて信じられないよ! なんで、なんでそんなことができるの?」
一つの浮島で一族全員で住んでいたレイラにとって一族イコール家族であり、家族は彼女にとって命をかけても守るべきものであった。その家族をそんなもののために裏切れる考えが理解できなかった。
反対に蒼太は今までに色々な人間を見てきたため、理解できる部分がないわけではなかった。
「例えば……血のつながった家族、レイラであればそれがお前の祖父さんだとする。それを助けるために薬が必要だとする」
唐突に始まった蒼太のたとえ話だったが、レイラは静かに聞いていた。
「だが、それを手に入れるには金だけではどうにもならない。希少すぎて普通には手に入れることができないんだ」
そこまで聞いてレイラの表情はわかりやすく曇っていた。もし自分の祖父が実際同じようなことになっていたらどうするか、それを色々と脳内で考えている様子だった。
「それをくれるという人物が現れた、ただ交換条件として出したのは竜人族の聖地を教えろというものだった。もちろんレイラの血のつながっている家族には手を出さないという条件付きだ……どうする?」
レイラは腕を組んで考え込んでいた。
「……そいつをぶっ倒して、薬を奪うっていうのは、駄目だよね」
蒼太が途中で首を横に振ったのを見て、レイラは次の考えに移る。
「うーん、難しい。教えたら家族以外は狙われちゃうかもしれないんだよね?」
「そうだな、そしてその相手はレイラであっても倒すのは難しいと思ってくれ」
レイラはそれ以降は何も答えず、いや答えられずうーんと唸りながら考え込んでいた。
『ソータ殿もなかなか意地悪なことを言う』
アトラはここまでの旅でレイラの真っすぐさを気に入っていたため、蒼太を責めるように言う。
「まあな、ずっとあの浮島で過ごしていて、それこそ箱入り娘ならぬ箱庭育ちみたいなもんだ。たまたま俺やディーナといるからそういう悪意に触れる機会は少なかったが、この先どんなきつい場面に出くわすかわからないからな……そのための予習みたいなもんだ」
肩をすくめながらも蒼太は彼なりに考えており、それをアトラへの返答とした。
『ふむ、確かに彼女は良くも悪くもとても真っすぐだからな。自分の想像の埒外にあるものに触れた時を考えると確かに心配になる』
一応の納得をするアトラだったが、それでもレイラのことが心配な様子だった。
「まあ、その時になったら力になってやればいいだろ。今は俺がいるし、ディーナもいる、お前も古龍もいるからな。もし間違った道に行きそうになっても無理やり止めてやればいいさ」
蒼太はアトラとは反対に心配していない様子だった。今も唸りながら考え込んでいるレイラ、例えの話をあれだけ真剣に考えられる彼女であれば、短絡的に誤った道には進まないだろうと考えていた。
『我はまだまだ生きる予定だからのう、お主らが亡くなったとしてもレイラのことをお主らの分まで見守ってやろうかのう』
古龍は笑いながら楽しそうに言った。
『せっかくの申し出ですが、私もまだまだ生きる予定ですので、古龍殿に頼らなくても大丈夫かと』
アトラの言葉に古龍の笑顔がひきつっていた。それだけ二人がレイラのことを大切に思っていて、自分の手で守ってやりたいと思える存在であることを象徴していた。
二人の間にバチバチと火花が散っていたが、仲間を思う二人のことを微笑ましく見ていた。
「さて、帝国はどんなところなのか。自分の目で確かめるのが楽しみだな」
「はい!」
千年前には帝国は存在していなかったため、蒼太にとっても初めての場所であり、敵地とはいえ楽しみにしていた。それはディーナも同様だった。彼女はこれまでの場所も初めての場所ばかりであったが、その感覚を蒼太と共有できることは彼女にとって喜びであった。
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