第十話
ギルドを出てぷらぷらと街中を散策する蒼太だが、その後をつける影があった。
蒼太は屋台で串焼きの肉を買ったり、必要な雑貨を買ったりと散策を続けつつも徐々に人気のない路地へと入っていく。
路地の先には少し開けた場所があり、そこには井戸があるだけで行き止まりになっていた。生活用水として使われているのだろうか、タライなども近くに置かれていたが今は誰もいないようだった。
「それで、もぐもぐ、なんか用か?」
蒼太は一本食べて気に入った串焼きを大量購入し亜空庫にいれていた。
それを同じく途中で買った肩掛けカバンから取り出してるように見せて、それを食べ続けながら話している。
「気づいてやがったのか、まあいい命がおしけりゃおとなしくさっきギルドでもらった金を出しやがれ」
「金さえだしゃ、見逃してやるよ」
「ついでにその串焼きをいれたマジックバッグももらってやる」
後をつけていたことを気づかれても悪びれずに脅しをかける。一歩間違えば山賊といっても通用しそうな人相の三人は先ほど蒼太がギルドで報酬を受け取っていた時に同じフロアにいたCランクの冒険者であり、その手にそれぞれ片手剣、両手斧、短剣を握られていた。
「嫌だと言ったら、もぐもぐ、どうするんだ」
「てめえ、ふざけてんのか食うのを止めろ! 嫌だなんてのは通用しねえ、お前を殺して奪うだけだ」
リーダー格の男が額に青筋を浮かべながら怒鳴りつけ、他の二人も怒りをあらわにしている。
「そうか、もぐもぐ、ごくん、だったらいくぞ」
食べ終わった串を捨てると男達に向かって走り出す。男たちは武器を構える。
「はっ!」
蒼太は掛け声と共に、男達を飛び越す。
「なっ!」
着地すると振り返りにやりと笑う。
「お前らの足で俺に追いつけるかな?」
「なんだと!」
男たちは思い通りにいかなかったこと、挑発されたことで頭に血が上り怒りの形相で蒼太を追いかける。
蒼太は通りゆく人々の合間を縫うように、男たちはその人々を弾き飛ばすように走り抜けていく。
本来であれば人ごみにひっかかっている男達が蒼太に追いつけるはずもなかったが、蒼太は速度をわざと緩めつかず離れずの距離を保っている。
しばらく走ると蒼太はその速度を緩め、ついには足を止め振り返る。
「はぁはぁ、やっと観念しやがったか。さっさと金を寄こせ!」
「そんなことを人だかりの中で大声で言ってもいいのか? お前らのことを知ってるやつもいるだろうに」
蒼太は男達を冒険者ギルド前に誘導し、衆人環視の中に晒した。
ミルファも不安そうな顔で蒼太を見つめている。一階で作業をしていたため騒ぎを知りすぐにかけつけていた。
「うるさい、これは冒険者同士の揉め事。ギルドも不介入だし他のやつらにどうこう言われる筋合いはねえ!」
そうなのか? と視線をミルファに送ると、ミルファは苦い顔で頷いた。
「そうか、それはよかった」
蒼太はにやりと笑う。
「なんだと!」
「ふざけてんのか!!」
「俺たちはCランクだぞ!」
「だって、俺が殺っても問題はないってことだろ……っと」
背中のリュックから鉄の剣を取り出す。
「やろうってのか、生意気なガキだ。おいお前らぶっ殺すぞ」
一触即発の空気になり男たちは殺気をふりまく。
「やめんか!!!!!!!」
一人と一組がぶつかりあう前にギルドから飛び出してきたギルドマスターが覇気をぶつける。
男たちはぶるっと震え、蒼太は肩をすくめる。
「俺はやめてもいいんだが、こいつらが俺の金を狙ってきてるからなあ」
「なにが理由にせよギルド前での揉め事は困る。やるなら、決闘にしろ。場所は訓練所を提供する」
男達も不承不承ながら頷きギルドマスターの後をついていくので、蒼太も仕方なくついていくことにする。
中庭訓練所、中央舞台上
「人払いはした、ここでならやってもらって構わない。まずはルールを決めるんだ」
蒼太は頭にハテナマークを浮かべ首を傾げる。
「ルールってなんだ?」
「なんだ、知らんのか。なら説明しよう、ミルファ頼む」
「承知しました。決闘というのは立会人の下、一定のルール内で戦いを行います。ルールですが、まず決着の方法、これは気絶したら負け、負けを認めたら負け、どちらかが死亡するまでなどがあります。まずはこちらを決めてください」
ミルファの言葉にリーダー格の男は下品に笑いながら答える。
「げはは、俺らはなんでもかまわねーぜ。気絶は面倒だから、殺すか負けを認めるかしてもらったほうが楽だがな」
「俺も何でも構わないが、気絶か負けを認めるあたりにしておくか。殺してもいいが、それじゃあ楽すぎるからな」
男たちは蒼太に向かって口汚くののしろうとするが、ミルファは話を進める。
「では、勝敗は負けを認めるか気絶するかで。次に報酬を決めてください、勝った場合に相手に対して求めるものになります。お互いの同意の下であれば金銭でも物でも条件でも構いません」
「俺たちはこいつがもらった報酬をもらおう、どうせ誰かにもらった素材でも売ったんだろ。それを俺達がもらってもなんも問題はないだろ、なあお前ら!」
「そうだ、その金は俺達のもんだ!!」
「アニキの言うとおりだ!」
「ついでに、背中背負ってるのと肩からかけてるマジックバッグももらってやる」
ミルファはため息をつく。
「だそうですが、ソータさん構いませんか?」
「あぁ、それで構わない。俺のほうはそうだなあ、こいつら金は持ってなさそうだしアイテムも持ってなさそうだし」
「だったら、奴隷落ちでどうだ。Cランク冒険者なら一人あたり金貨5~10枚程度にはなるんじゃないかのう」
「それだったらいいか、殺さないことになったしちょうどいいな」
ギルドマスターの提案に蒼太も乗る。
「ガルさんたちはいかがですか?」
男たちはガル(長男)、ゲル(次男)、ゴル(三男)三兄弟といい、素行は悪いがCランク冒険者だけあり実力はある。ギルドではそう評価されている。
「俺達も構わねーよ。早々にまいったと言わせてやるさ」
「ルールも決まったならいいな。だったら双方少し下がれ」
三兄弟と蒼太はそれぞれが少し下がり、距離をとり三兄弟は武器を構える、が蒼太は鉄の剣をリュックにしまいそのリュックは舞台の外に置いている。
「ソータは武器の用意はしなくていいのか? なんだったら訓練用の武器の貸し出しも出来るが」
「いや、俺はいらない。素手で十分だ、武器なんて使ったら殺っちまうからな」
「なめんじゃねーぞ! さっさと構えろ!!」
蒼太はどこ吹く風といった様子でガルの声を無視する。
「まあ、ソータがいらないというならいい。それで負けるならそれまでのことだ。ソータが武器を持ってなくてお前達が損することもないんだ構わんだろ。はじめるぞ双方準備はいいな」
三兄弟と蒼太は頷く。
「それではいくぞ……はじめ!!」
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